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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
9章

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268 「寄生」

視点戻ります。

 俺はザ・コアを水面に突き刺して起動。

 高速で回転したザ・コアは水面をかき回し大渦を生み出す。

 同時にもう一つの機能が発動して回転速度が跳ね上がる。


 …話には聞いていたがこれは便利だ。


 ザ・コアには三つの機能が備わっている。

 一つは破砕棍棒の名の通り、回転して接触した物を削り取る機能。

 二つは魔力の吸収と放出。


 魔法に接触した場合そいつを分解してエネルギーに変換する事が出来るらしい。

 本来は内蔵したある生物の器官を動かす為の仕掛けなのだが、今回は別だ。

 運河を汚染している魔力を貪欲に吸い込んで回転力へと変換し、汚染された水を元へと戻している。


 お陰でプレタハングの支配力が弱まり、体勢を崩した奴が渦に引き寄せられて来た。

 相変わらず訳の分からん事をまくしたてていたが、理解できんので聞き流す。

 間合いに入った所で抜き手を口に突っ込む。


 同時に根を全力で展開。

 根は喉から上へ向かい、骨を侵食して脳へと向かう。

 クリステラの時と同様に妨害されるものかと思ったが、特にそんな事はなく脳へと到達。

 

 アスピザルに聞いた話によると、例の蜻蛉女が魂へ何らかの細工をしたと言う事らしいので脳を潰せば死ぬだろう。

 距離が近いので数秒で根が脳へ到達。

 

 魂への接触へ成功。 触れると――。


 ――妬ましい疎ましいと言った嫉妬の感情が濁流の様に流れ込んで来る。

 

 最初は妬ましいだろう?と囁くような声と記憶がフラッシュバックするだけだったが、徐々に言動が妬め妬めと強制するような物へと変化していく。

 嘆息。


 なるほど、こんな物を延々と聞かされ続ければ頭もおかしくなるな。

 喰うのは危なそうなので脳を物理的に破壊して魂を散らすとするか。

 記憶を引き抜いた後、魔法で破壊しようと――。


 瞬間、ずるりと何かが俺の中へ入って来た。


 …これは…。


 何とも性質の悪い事に俺に寄生するつもりのようだ。


 …寄生? 俺に?


 面白い。

 俺に入って来るとは良い度胸じゃないか。


 ――妬め妬め妬め妬め。


 腕を伝って体内を移動。

 真っ直ぐに胴体を通って上がって来る。


 ――妬め妬め妬め妬め。


 動きが随分と真っ直ぐだ。 狙いが頭なのはすぐに分かった。

 行動に知性が感じられない。

 恐らく本能的に乗っ取ろうとしているのだろう。


 ――妬め妬め妬め妬め。


 そう考えると、こいつは悪魔本体ではなくその一部と言ったところか?

 目的は肉体の補填だろう。

 その過程でプレタハングを乗っ取り、誘導していたようだが、宿主がダメになったので俺へ鞍替えしようとしている訳か。


 ――妬め妬め妬め妬め。


 嘆息。

 体がダメになりそうと見ると、即移動とは随分と尻が軽い奴だな。

 差し当たって、記憶は抜いたしこいつはもう用済みだな。 魔法で脳を破壊。

 プレタハングは大きく体を痙攣させた後、凄まじい表情のまま運河に流されながら沈んでいく。


 ――妬め妬め妬め妬め。


 ザ・コアも停止させているので流れは元に戻っている。

 死体は流れに乗って運河を進み――視界から消えた。

 さて、片が付いたようだが、状況が変わら――いや、オールディアでの事を考えれば放置でいいか。


 取りあえず、記憶を頂いたので奴の使っていた能力の種が分かった。


 プレタハングが使用したのは二種。

 『Ενωυ(嫉妬) ις() ηαρδ(硬く) ανδ(して) σαμε(陰府) ας() ηελλ(ひとし)

 対象の力を奪う能力だが対象をどこまで妬んでいるかで効果が増減するという欠点がある。


 あれだけ俺達に効いていた事を考えると相当妬んでいたようだな。

 大した威力だったが、俺に言わせれば下らない能力だった。

 奴自身が大した事がないので、結局のところ嫌がらせの域を出ない。


 結局、あれだけ弱らせたにも拘らず、俺達の誰も仕留められていないからだ。

 どう考えても戦闘力のない奴が単独で使っていい能力じゃない。

 

 もう一つが『Ενωυ() ις() τηε() θλψερ(魂の) οφ(腐敗) τηε() σοθλ(ある)

 対象に負の感情を抱かせることによって力を削ぐ能力らしい。


 前者で相手の力を奪いつつ理不尽さを植え付け、後者の能力で抵抗力を完全に奪うのが正しい運用法だろうが、発動条件が前者と同じで相手に対して妬みの気持ちを抱かないと効果が出ないので他者に対して妬むほどの関心を得られない俺には欠片も使えない能力だ。

 魔法というよりは呪いに近いな。


 ――妬め妬め妬め妬め。


 記憶を漁る限りアスピザルに対しては相当な劣等感を抱いていたようだ。

 内心、鼻で嗤う。

 妬むぐらいなら始めから作らなければいいだけの話だろうに、馬鹿じゃないのか?


 ――妬め妬め妬め妬め。


 さてと。

 お前、さっきから五月蠅いぞ。


 しつこく妬め妬めと喚き散らす異物を噛み砕く。

 身体に入られるのは以前にも経験済みだし、対処は簡単だった。

 図々しくも俺を乗っ取ろうとした異物は健気に抵抗していたがあっさりと消え去った。

 同時に腰の魔法道具の光が弱まると同時に異音。 どうやら力尽きたようだ。


 脱力感が弱まった。

 主を失って闇の影響力が落ちたのだろう。

 この様子なら半日ほど放置すれば出歩いても問題なくなるな。 

 

 …終わったか?

 

 この不自然な状態がいつまで続くか知らんが、まぁ、俺の知った事ではないな。

 そんな事を考えながら、運河から上がるとアスピザルが何とも言えないといった面持ちで運河を眺めていた。


 いつもならすごいねーとか言って来る物かとも思ったが珍しい反応だな。

 あぁと思い直す。 そういえば父親だったか。

 

 「………あれでも僕がこうなる前はそれなりに父親やっていたんだよね」


 ぽつりとそう呟く。

 そうか?  

 記憶を穿り返したけど、お前の事なんて精々便利な消耗品ぐらいにしか考えていなかったぞ?


 「自分では割り切ったつもりだけど……結構きついね」

 「…そうか。 なら大人しくしていろ」


 シグノレと夜ノ森が戻っていない事を考えるとまだ蛇の処理を終えていないようだ。

 一応、助けるべきだろうな。

 さて、夜ノ森はどっちへ行ったんだったか…。


 アスピザルを放置して歩き出す。

 未だに視界は効かないが元凶が消えた以上、後は消化試合だ。

 穴だらけではあるが脳裏で地図を広げる。 夜ノ森がやり易そうな場所に当たりを付けて向かう。


 最後にちらりとアスピザルの方を一瞥。

 変わらず黙って運河を眺めていた。

 

 

 

 少し時間がかかったが夜ノ森は見つかった。

 全身を傷だらけにしていたがちょうど蛇を殴り殺したところだったようだ。

 蛇の頭を腋で抱えるようにして残った腕で殴っていたようで俺が見つけたと同時に頭が砕け散る。


 夜ノ森は即座にこちらに向けて構えるが、俺と気付いて警戒を緩める。


 「ロー君? そっちは終わったの?」

 「あぁ、プレタハングは俺が仕留めた。 アスピザルも無事だ」


 それを聞いて目を見開く。


 「え? そ、そっちも終わったの!?」

 「楽勝とは行かなかったが、当てさえ出来ればそこまでの相手ではなかった」

 「…そう…、アス君は?」

 「一応、父親だったようだし、それなりにショックを受けているようだったからその場に残してきた」

 「ちょっと!? 何で傍にいてあげないのよ!」


 いや、何で傍にいないといけないんだ?

 慰めろと言うのならお門違いだ。 俺はあいつの仲間でもお友達でもない。

 わざとらしく息を大きく吐く。


 「奴はさっきの広場だ。 行ってやれ」


 一緒に行動するのは面倒そうだったのでそのまま歩き出す。

 

 「ロー君?」

 「シグノレを助けてからそっちへ合流する」


 それだけ言ってその場を後にした。

 

 

 俺は歩きながら考える。


 さて、結果的にこの惨状を引き起こした元凶を取り込みはしたが、こいつは一体何なんだろうな?

 今まで喰った悪魔のパーツとは同類ではあるが随分と毛色が違う。


 明確とは言えんが意思があったからだ。

 俺が引っかかっているのは、結局こいつは何がしたかったのか。 その一点。


 分かっている事を挙げると、プレタハングは同化した悪魔の一部を御しきれずに乗っ取られ、ああなった。

 症状としてはオールディアに居た、アイガーとかいう馬鹿とほぼ同じ。

 その辺を踏まえると、放置しておけばまた怪獣みたいな奴が現れたかもしれんな。


 体の方の変質は見られなかったが、あの様子では時間の問題だっただろう。

 放置すれば立派な悪魔の仲間入りと言う訳か。

 考えれば考えるほど早めに始末できてよかったと胸を撫で下ろす。

 

 …話を戻そう。


 今回の悪魔は多少の知能こそあったようだが動きは本能的だ。

 実際、宿主の嫉妬心を煽って変質させる事しかやっていない。

 囁いて、乗っ取って変異させる。 単純に言えばそれだけだ。


 それにしても特定の感情のみを煽るというのは少し気になるな。

 怒りや悲しみには全く反応せず、嫉妬のみを喰らって影響力を増大させる。

 その点のみがやや引っかかるが一体――。


 そんな事を考えていると微かに戦闘の気配を感じる。

 この先は何があったかと考え、すぐに思い出した。


 教会だ。


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