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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
9章

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265/1442

264 「強盗」

視点戻ります。

 「うわ、真っ黒だ」


 黒く染まった水を見てアスピザルが思わずと言った感じで呟く。

 確かに真っ黒だ。

 運河に通じている水路は墨汁か何かのように真っ黒でアスピザルが用意した火球による光を通さずに反射していた。


 「調べたいけど触るのは危なそうだね」

 

 …だろうな。


 十中八九プレタハングの仕業である以上、下手に触るとさっきと似たような症状になるのは目に見えている。 いや、場合によってはもっと酷くなるかもしれん。

 アスピザルは思案顔で水にそっと手を翳すが、水面が微かに揺れただけだった。

 

 「ダメだね。 干渉もできない」

 

 アスピザルの魔法を弾くと言う事は水路――恐らくはこの街の運河は完全に押さえられたと考えた方がいいだろう。

 

 「…参ったね。 これは地下の水路から忍び込むのは無理か……どうしたものかな」

 「情報を集める意味でも一度外へ出てみない? ここに居ても埒が開かないと思うのだけど…」

 「そうだね。 梓の言う通りだ。 …ただ、全員で行くのも良くないし――メンバーは僕、梓、ローとシグノレで行こう。 石切さんとジェネットはここの守りをお願い。 完治したとはいえ、ジェルチとガーディオはまだ動けそうにないしね」

 「おう、心配ないだろうが気を付けてな!」

 「ちょ、ちょっと待ってくれ! 私も行くのか!?」

 

 大きく頷く石切とジェネットに名指しされて青ざめるシグノレ。


 「何を言ってるの? だってシグノレは味方でしょ? なら一緒に頑張ろうよ」

 

 シグノレはパクパクと口を開閉させたが、抵抗は無駄と悟ったのか項垂れた。


 「じゃあ、シグノレも納得してくれたみたいだし行こうか?」


 納得どころか絶望的な表情のシグノレを伴って俺達は夜ノ森の案内で倉庫から外へ出る。

 外はすっかり夜で完全に闇に包まれているが…これはいくら何でも暗すぎないか?

 俺は夜目が効くが、それでも見通せない所を見るとただの闇じゃないな。


 「この闇、普通じゃないね」

 「…そうだな」


 闇に触れると力が抜ける感覚に襲われる。

 さっき程じゃないが、長時間留まるのは良くないな。


 「この力が抜ける感覚、あの男に睨まれた時ほどじゃないけど…この調子だと動けなくなるのは時間の問題よ?」

 「これは街中こうなっているとみていいのかな?」

 

 …まぁ、そう考えた方が自然だろうな。


 それにしてもこれ程の事を個人で行えるレベルまで強化できるとは、テュケの実験とやらは大した物だ。

 俺にとって無害であれば取り入れたい物だな。

 

 「…で? これからどう動く?」

 「そうだね。 その前に少し試したい事があるからちょっと待ってね」


 アスピザルはおもむろに手を翳す。

 手の平から光のような物が発生し、ゆっくりと球状に変化。

 何だと眉を顰めている内に球が闇に触れると光を放ち、闇を押しのける。

 

 球は光を放つにつれて萎んでいき、やがて消滅した。

 それを見てアスピザルは納得したように頷く。


 「うん。 大体わかった」

 「何が分かったんだ?」

 「まず、この闇は魔法の一種で、僕が今使ったのは状態異常系の魔法の効果を妨害する物なんだけど、それが反応したって事はその手の護符(アミュレット)や魔法道具で防げそうだ。 後は光にも反応した所を見ると単純に光源を作って寄せ付けないって言うのも有効そうだね」


 …なるほど。


 妙な効果が付与されてはいるが本質的には闇と言う事か。

 光である程度はどうにかなると。

 

 「梓、この辺で魔法道具を扱っている店ってあったっけ?」

 「…少し離れた所に一軒あったはずだけど…」

 「分かった。 まずはそこで防御手段を調達しよう」

 

 方針が決まったので俺達は行動を開始した。

 周囲は真っ暗なので視界がまるで効かない。

 光源はアスピザルが魔法で作った物のみと何とも頼りない物だけだ。


 この街は道が狭い。

 その為、船を使わずに移動する場合は比較的広い、運河沿いの道を行くのが良いらしい。

 現在地は街のやや北寄りだ。


 目先の目的地である魔法道具を取り扱っている店も北よりの場所なのでそう時間はかからない。

 それにしてもプレタハングの目的は何だ?

 闇で街を覆うだけ? そんな訳はないだろう。


 …それにこのシチュエーションには覚えが――。


 不意に耳が拾った水が跳ねる音で俺の思考は切り替わる。

 

 「ロー、梓」

 「ええ。 気付いているわ」


 夜ノ森は声で俺は首肯で返す。

 何かいるな。 この状態の運河を悠々と移動しているんだ。

 まず普通の生き物じゃない。


 向こうもこちらに気が付いたようで、水の跳ねる音が激しくなる。

 察した夜ノ森と俺が前に出て、俺はザ・コアを構え、夜ノ森は拳を握った。

 同時に勢いよく何かが飛び出して来る。


 俺は姿を確認する前に薙ぐようにフルスイング。

 ザ・コアは飛び出した何かの胴体を捉えそのまま石畳に叩きつける。

 風魔法で障壁を張って、ザ・コアを起動。


 俺の魔力を喰らって高速回転したザ・コアは何かの胴体を瞬時に磨り潰し、挽き肉に変える。

 何かは爆発したかのように周囲に飛び散った。

 喰らわせた相手は悲鳴を上げる間もなく即死したようだ。


 振り返ると夜ノ森が何かをマウントポジションで殴打し続けていた。

 何かは抵抗していたが、数発の殴打を喰らって動かなくなる。

 

 「流石だね。 援護をする暇もなかったよ」

 「…軽口はいい。 灯りをくれ、調べたい」 

 「分かった」


 アスピザルが光を近づけると水から出て来た者の正体が分かった。

 (わに)だ。 体長は三メートル前後と言った所か。

 鰐の適正サイズは分からんがでかさとしてはそれなりだろう。

 

 暗い所為で見辛いが全身は真っ黒でギザギザした硬そうな体表が特徴的だ。

 

 「…どう見ても鰐だね」

 

 アスピザルは言いながら体表に触れるが弾かれたように手を離す。


 「うん。 あんまり触らない方がいいよ。 例の脱力感に襲われるみたいだ。 一瞬だけど触った感触からして結構堅そうだね。 思いっきり触ってたけど梓は大丈夫?」

 「ええ。 ちょっと力が入り辛いけど大丈夫よ」

 「幸い大した事ない敵だけど、道具屋の後は武器屋へ行こう。 梓が使えそうな武器を見繕った方がいいね」

 

 俺は鰐の死骸を一瞥。

 吸収してやろうかとも考えたが、アスピザル達の事を考えると止めておいた方が無難か。

 他が歩き出したのに合わせて俺もその場を離れた。


 その後、数回ほど鰐共が襲って来たが運河から上がって来るという動作が必要な以上、待ち構える時間は充分にある。

 余裕を持って仕留められる以上、はっきり言って雑魚でしかない。

 

 「…それにしても…妙に静かだね」


 黙々と歩いているのに飽きたのか不意にアスピザルが口を開く。

 それは俺も少し気になっていた。

 夜と言う事を差し引いても静かすぎる。


 外がこの有様で鰐擬きみたいな連中が運河を泳ぎ回っているんだ、騒ぐ奴が居ないのは妙だ。

 この闇の所為か? もしかして音を吸収している?

 

 アスピザルは、うーんと首を傾げた後。

 魔法でやや大きめの石を複数作ると射出。

 石は一定間隔で石畳を当たり硬い音を鳴らす。


 一つ、二つ、三つ、四つ目で完全に音が消えた。


 「距離が離れると極端に音が消えるね。 この闇の能力かな?」

 「そんな所だろう」

 「お互い離れないように注意したほうが良いね」


 そんな事を話している内に目的の道具屋が見えて来た。

 灯りは落ちて営業している気配はない。

 扉は施錠されていたが、面倒だったので蹴破った。


 「ちょっとロー君!?」


 夜ノ森が声を上げるが無視した。

 店内に入るとカウンターの向こうでおっさんがこちらに向けて杖を構えていた。

 おいおい。 客に随分な対応だな。


 「それを下ろしてくれないか?」

 「お、お前達は何だ! この騒ぎに乗じて盗みでも働くつもりか!」

 「客だ。 魔法道具を売ってくれ。 壊した扉の料金も後ろの連中が払う」

 

 俺は両手を上げて戦意がない事をアピール。

 だが、おっさんは警戒を解かない。

 

 「騙されんぞ! この強盗共め! 痛い目を見る前にさっさと失せろ!」


 おっさんは俺達の足元に魔法を撃ちこむ。

 風の刃が床を抉る。

 おいおい、客だと言っているのに随分な対応だな。


 何だか面倒になったので左腕をゆっくりと持ち上げる。

 殺して家探ししよう。 死体は――あれだ、運河に放り込んで置けば鰐共が勝手に喰うだろ。

 金も払わずに済むし手早く済む。


 「ちょ、ちょっと待って! お、お金、お金ありますから!」


 俺がおっさんの脳天を吹っ飛ばす前に夜ノ森が割り込んで金の入った袋をおっさんに向けて突き出す。

 だが、逆効果のようだった。


 「な、何だお前は! ま、魔物!? 何で喋ってやがる!? 近寄るんじゃねえ!」


 普段のように正体を隠す防具を着けていない夜ノ森は魔物に見えたようだ。

 店主は更にパニックになって魔法を撃ちこむ。


 今度は威嚇じゃなく本気のようで、魔法は真っ直ぐ夜ノ森に向けて飛ぶ。

 話にならんな。 俺は嘆息して左腕を一閃。


 「ロー君! 止め――」


 黙って見てろ。

 夜ノ森が割り込む前におっさんの首が胴から離れて飛んでいった。

 少し遅れてどさりと倒れ、カウンターの奥へ消える。


 「さぁ、適当に使う物を持って行こうか?」


 俺はそう言って店内に足を踏み入れた。

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