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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
2章

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25 「事情」

 嘆いても仕方がないので前向きに対策を考えよう。

 数は…鎧が15、犬が5の計20か。

 犬は門の周りをウロウロして、暗にこっちに来たら襲うぞと威嚇しているようだ。


 鎧は長槍を肩に担いだり俺に向けたりしている。

 見た感じ動いてないのはいないな。

 どういう手段で操っているのかは不明だが全て制御下にあると考えよう。


 後は…おや? 何か出してるな。

 鎧は胴体から、犬は口から何か水蒸気みたいなのが間隔を置いて噴き出している。

 何だアレは? 息でもしてるのか?


 「そんなに驚いていただけるなんて、仕掛けた甲斐がありました」


 ファティマは小さく笑う。

 この女、俺が来てから随分と上機嫌じゃないか?

 それとも、間抜けがほいほい罠に入って気分がいいのか?


 「この連中はお前が操ってるって事でいいのかな?」

 「ええ、その通りです。20を同時に操るのは結構難しいんですよ?」


 ははは。嘘だろ? ファティマの顔を見る。

 ……嘘ついてるように見えないな。仮についても分からないような気がするが…。

 これって仮に俺ならできるのだろうか?


 答えはYes。可能だ。

 ただ、複数の脳で制御しなければならないので、他が疎かになる可能性が高い。

 うん、1人じゃ無理。まず伏兵が居るな。

 

 こっそりと魔法を起動。

 使うのは熱探Ⅲ(フレイム・ソナー)炎系統の探知魔法で一定範囲の温度を探る魔法だ。

 あの氷の塊共のお陰で周囲の気温はかなり下がっている。


 体温は目立つはずだ。

 当然、本気で使ったので敷地内とその周囲を丸ごとカバーできる。

 さて、何人出てくるかな…。


 起動。

 照明類の反応は除外して…体温に近いのは…多いな。全部で29…ん?

 おかしい、何だこの分布は?


 まずは、屋敷の中に2。

 片方は元気に動き回っているところを見るとハイディだろう。

 もう片方は屋敷に入ってすぐの所から動いていない。


 ズーベルか? 女の陰に隠れるとはいい身分じゃないか。

 そして屋敷の周囲に5。

 塀の内側に等間隔で反応がある。後詰め…いや、見張りの類か?


 見た感じ動く気配はない。

 後は俺とファティマを引いた20なんだが…。

 位置から考えると周囲に居る氷の塊の中から反応がある。


 これはどういう訳だ?

 エンジンでも積んでるのかこいつらは…。鎧の胴体に目を凝らしてみる。

 確かに何か影のような物がうっすら見える。


 取りあえず反応の謎は解けた。だが、更に分からなくなったな。

 敷地の外縁に居る連中を除けばほぼ誰もいないぞ。

 …どうなっている?


 「考え事は終わりましたか? それとも私の話を聞いていただける…と好意的に解釈してもよろしいでしょうか?」


 これは…ちょっと考えた方がいいかもしれないな。

 時間を稼ぐ意味でも話に付き合うか。


 「……そう…だな、そちらの言い分を聞こうじゃないか」


 俺がそう言うとファティマはわざとらしくほっとした仕草をする。

 お前がやるとどうしてこう白々しく見えるんだろう…。


 「では、何からお話ししましょうか?」

 「最初から頼む」

 「そうですね…」


 ファティマは事情とやらを話し始めた。

 俺はそれに耳を傾けながら氷の塊を観察する。

 

 ファティマの話は予想の斜め上の内容だった。

 彼女の目的はオラトリアムの立て直しとロートフェルトの地位回復…らしい。

 どういう事だ?


 ファティマによると、オラトリアムは表向きは特に困窮してはいなかったらしい。

 ズーベルが裏で手をまわして外からは問題ないように見せていたらしい。

 奴の上手い所は先代が死んだ直後に関係各所に自分が領主の名代と触れ回った事だ。


 そうなると外の人間は彼の言葉を信じざるを得ない。

 確認や直接の取次などもズーベルが間に入っている以上、どうとでもなる。

 都合の悪い手紙のすり替えもやってたらしいな。

 

 その他、領主が定期的に国に治める税も彼が支払っていたらしい。

 そもそもこの事態を招いたのは奴だ。

 足りない金は全部あいつの懐に流れ込んでたんだろ?

 その程度は造作もないはずだ。


 ズーベルの目的はロートフェルトを精神的に追い詰める事だ。

 原因を作りはしたが元々、能力の足りない領主である彼は領民の火消しに精一杯で他に意識を割けなかった。

 そして、適度に追い詰めたところでライアードにオラトリアム家が追い詰められていると報告に行く。


 奴の魂胆は、ライアードに支援の約束を取り付け危機から脱する。

 その後、ロートフェルトの統治に問題ありと指摘し精神的疲労や領主としての経験を積むとかの名目で一時退陣させ、代理で自分が後釜に座る。


 後は適当に実績を積んだらロートフェルトを殺してそのままなり替わるつもりだったようだ。

 この世界の人間の国というのは結構適当で、監査組織の体制は杜撰の一言に尽きる。

 要は納める物を納めていれば何も言ってこないのだ。


 他国からの切り取りを警戒?

 残念ながらこの国はヴァーサリィ大陸の中でも辺境に当たる箇所で、隣国との間に魔物の領域を挟んでおり、人間以外にさえ警戒していれば特に問題がないらしい。


 …地図で見ると完全に飛び地なんだよなこの国。


 何が言いたいのかと言うと、国は金さえ払えば誰が領主でも構わないという事だ。

 何だそれは? 俺も初めて知った時、驚いたものだ。

 そんな事で国を維持できるのか…と。


 話を戻そう。

 ズーベルは俺を飼い殺す気はなくお膳立てが済めばロートフェルトを物理的に殺すつもりだったようだ。

 ロートフェルトが居る限り「代理」って肩書が取れないのだからやるだろうな。

 

 その際に邪魔になる物があった。

 ファティマだ。

 ライアードの領主は直接来なかったロートフェルトに大層腹を立てていたが、娘の婚約者を無下に扱いたくなかった事とファティマの口添えもあり、悩んだそうだ。


 結局、援助の条件としてファティマをオラトリアムへ向かわせる事で折れた。

 ズーベルはそれを聞いてファティマを抱きこむ事を決断。

 事情を話し、協力者になるように言ってきたそうだ。


 …ああ、それでファティマが代理なのか。


 ここまでの話はその時、聞いたらしい。

 

 …にしてもズーベルっていい度胸しているな。婚約者に失脚させるのを手伝えとは…


 そこでファティマは考えた。

 この男を殺してしまっても構わないが、そうした場合にロートフェルトが被る損害を。

 まずは、隠した金の行方が分からなくなる。


 ライアードの支援があれば問題はないだろうが、額が額なのでそのままにはしておけない。

 そして、ズーベルの領内での評判だ。

 奴は人を使って自分の風評を操作し、結果、領内での地位は盤石と言えないが高い。


 いきなり排除してしまうとロートフェルトへいらぬ嫌疑がかかるだろう。

 下手をすれば暴動が起こってしまう。

 騒ぐ奴らを間引く手も考えた。

 あんな連中、後でいくらでも生えてくるが一気に減らしてしまうと税の徴収に影響が出る。


 …さらっと凄い事言ってんな。


 ロートフェルトを守りつつズーベルを失脚させなければならない。

 だが、好きにさせるとロートフェルトが殺されかねない。

 そのため、ファティマが選んだのは協力の条件にロートフェルトの身柄を要求するという手だった。


 それによりロートフェルトを守りつつズーベルを失脚させる機を窺うつもりだったらしい。


 …が、そこでズーベルが暴走して、ロートフェルトを始末しようとした訳だ。


 「…その後、私も手を尽くしてロートフェルト様を探しはしたのですが…」


 ファティマは悲しげに目を伏せる。


 ふむ。

 

 「…話は分かった」

 

 ファティマは表情を明るくする。


 「分かっていただけましたか。私にロートフェルト様を害する意図はな…」

 「…何て言う訳ないだろうが!」


 手近な人型に爆発Ⅲを叩き込んだ。

 狙いは怪しい熱源、本当にエンジンを積んでるのか知らんが何か大事な物なんだろ?


 「俺を守る? 笑わせるなよ? 本気で守るって言うなら何故、話を持ち掛けられた時点で手を打たない?」

 

 話を聞く限り、手を打つタイミングはいくらでもあったはずだ。

 守るだけならそう難しくないはずだ。

 俺ですら思いつくんだ。この女が思いつかなかったとは考え難い。


 「確かに。お前の言っている事は概ね事実なんだろうが、嘘が混ざっている」


 俺は視線に力を込める。


 「さっきから耳あたりのいい言葉ばかり並べているが、お前の言っている事は胡散臭いんだよ。はっきり言おう。信用できないから、お前とはこれっきりだ。お前を殺してズーベルを殺す。それで終わりだ」

 「…領地はどうされるおつもりですか?」

 「知った事か。ほっとけば国から代わりが来るだろう。そいつにやらせればいい」


 領主になりたがっている奴なら掃いて捨てるほどいる。


 心配しなくてもお前を殺した後ハイディと仮面夫婦にでもなって丸投げする予定だ。

 それに…お前からは適当な事言って思い通りに人を動かそうとしてる奴の匂いがする。

 しかも、何考えてるか読めないから気持ち悪い。

 

 「……ふふ」


 ファティマは堪え切れないとばかりに笑みを漏らして、軽く片手を上げる。

 鎧が2体槍を上段から叩きつけてきた。

 俺は咄嗟に後ろに飛んで躱す。俺のいた場所が大きく陥没する。


 …結局この女も殺すつもりだったんじゃねえか。


 本当にクソみたいな奴らだな。何が守るだ? 馬鹿にしやがって。

 この世界の人間は碌な奴が居ねえ!

 どいつもこいつも俺を殺そうとしやがって、もう何なんだよ。


 「私の話を聞いていただけないのは残念ですが、仕方ありませんね。こうなってしまっては…ふふ…手足を落として大人しくなっていただきましょう」


 おい、笑いが漏れてるぞ。


 「本当に不本意ですが…ふふ…。でも、心配なさらなくても大丈夫ですよ? 私が一生介護して差し上げます。朝も夜も…うふ…」

 

 我ながら耐性は高いと思っていたが、これ以上この女と話すとおかしくなりそうだ。

 早いところ、殺してしまおう。

 俺はマカナと剣を両手で構える。


 俺は今しがた爆発Ⅲを喰らわせた鎧に突っ込む。

 まずは数を減らそう、囲まれて袋叩きはもう嫌だ。

 鎧は胴体が大きく溶けており、中身の…何だアレ? 樽?…が露出していた。


 中身が何かは知らんがぶっ壊せば止まるか最悪、動きが鈍くなるだろう。

 マカナを叩きつける。樽が爆散して中身が飛び散った。

 俺はもろにそれを引っ被った。


 うわ、何だ……って血かこれは?

 匂いと味からして人の血だな。 


 中身は人間だったのか?

 確かにそれなら納得だ。

 何か漏れてたのは本当に息だったのか?

 

 …で、中で維持と操作をやっていた訳だ。


 要は有人のロボットか。

 ファンタジーで有人ロボットかぁ…斬新…でもないか?

 でも、どうやって状況を見てるんだ?

 

 …まだ何かありそうだな…。

 

 ところで、人間ってあのサイズの樽に収まる物だっただろうか?


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