表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
9章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

244/1442

243 「更新」

 首途と話し込んでいたらすっかり遅くなってしまった。 

 日は完全に傾いており、辺りは薄暗い。

 周囲には一仕事終えて帰路へ着く冒険者が見え、民家からは灯りと食卓の気配が漏れている。


 俺はそれを尻目に目的地を目指す。 背に感じる武器の重みのお陰で気分は割といい。

 少し前に夜ノ森から連絡が入った。 どうやら宿が決まったらしい。

 用事が済んだら合流すると言っておいたので後で向かうとしよう。


 首途は結局、俺の提案を保留にした。

 ヴェルテクスに相談してから決めたいと言うので、現在は返事待ちだ。

 可能であれば囲い込んでしまいたいが、結果に拘る気は無い。


 来ないなら来ないで問題ないからだ。

 首途の工房を後にした俺はもう一つの用事を済ませに冒険者ギルドに向かっていた。

 目的はプレートの再発行だ。 今は忙しいので依頼を請ける気は無いがプレートを手元に置きたい。


 …金に困っていないから無理に依頼を請ける必要もないんだがな。


 そもそも冒険者になったのは手軽に身分証が手に入る事と路銀を稼ぐ為だ。

 肩書き自体には心底興味がない。

 路銀に困らなくなった今となっては街の出入りに必要な身分証の代わりになりさえすれば問題はないからな。


 そんな事を考えていると、目的地が視界に入る。

 流石に年中無休だけあって、他に比べるとかなり人の出入りが多い。

 中では依頼を済ませた冒険者達が報酬の清算をしたり、仕留めた魔物の素材を換金したりしていた。


 …確かプレートの再発行は三階だったか。


 思い出しながら階段を上り三階へ。

 二階の酒場は大盛況だったが、三階は比較的ましで、人はそれなりに居たがカウンターは空いていた。

 俺は手近な所へ行って、プレートの再発行を申請。


 何回かやっているのでこの辺は慣れた物だ。

 用紙に必要事項を記入して、ランクや確認事項に答え、発行料金を支払い完了。

 あまり無くさないでくださいねと釘を刺されたが俺は礼を言ってその場を後にした。


 階段を下りた所でさっきの受付嬢が驚いたような声を上げたのが聞こえたが、何だったんだ?

 

 …まぁ、俺には関係のない話か。


 さっさと宿へ向かうとしよう。





 「何その武器? すっごいね!」


 宿に着いた俺を迎えた二人だったが、アスピザルは早速、俺の武器に興味を示している。

 ここは夜ノ森御用達の宿で、彼女のサイズでも余裕で入れる広さの部屋が借りられる数少ない場所だ。

 部屋の隅に武器を置くと重量の所為で床が悲鳴を上げる。


 アスピザルが興味津々で触ろうとしたので止めろと言って阻止する。


 「ちょっとぐらいいいじゃないか」

 「死にたくないなら止めておけ」 


 俺以外が下手に触ると冗談抜きで死ぬからな。

 アスピザルは布に包まれたそれを見て、諦めたのか名残惜しそうに離れた。

 夜ノ森も流石に驚いているのか視線が釘付けだ。


 「…それ…武器…よね?」

 「武器だな」


 それ以外の何に見えるというんだ。

 

 「そ、そうよね。 どこで買って来たの?」

 「行きつけの武器屋だ」

 

 前に言っただろうが。

 夜ノ森が何とも言えないと言った感じで口を開閉させていた。


 「何か床がギシギシ言ってるんだけど、何キロあるのこれ?」

 「さあな。 百キロは超えていると思うが正確な数字は知らん」


 首途もこいつを作るのに全精力を注ぎ込んだらしく、防具などには手が回らなかったらしい。

 お陰で防具の新調はなしだ。

 まぁ、オラトリアムを出る前に用意させたドワーフお手製の防具があるので問題はない。


 「俺の武器に関してはどうでもいいだろう? それより次の目的地はどこなんだ?」

 「え、えぇ、そうね。 次の目的地は王都から少し離れた所にあるわ」

 

 一応、地図上では王の直轄地であるウルスラグナにはなるのだが、場所はその外れにある湖の近くらしい。


 「…で? 次はどんな奴なんだ?」

 

 正直、性格面では欠片も期待していないので、新武器の性能テストの相手にしてやろうと考えていた。

 

 「誰だっけ?」

 「…宇田津君よ。 宇田津(うだつ) (あきら)君」


 アスピザルが首を傾げ、夜ノ森が溜息を吐いて答える。

 

 「あー、あの人かー。 短い付き合いだったね」

 

 またかよ。 もう処分する気満々じゃないか。

 

 「…で? 今度はどんな変態なんだ? またロリコン野郎か?」

 

 あの豚と同類ならもう会話をする必要すらないな。

 

 「うーん。 何だろう……あの人は…バトルマニア?」


 何で疑問形なんだ?

 夜ノ森に視線を向けると、何だか微妙な感じで低く唸るだけだった。


 「一応…合っているのかし…ら?」


 こちらも歯切れが悪い。

 戦うのが好きな奴じゃないのか?


 「まぁ、実際に見れば分かるよ」 


 もう、嫌な予感しかしないな。

 それにしても碌な奴が居ない。

 転生者って言うのはおかしな奴しか選ばれないとか言うルールでもあるのか?


 「…もう少しまともな奴はいないのか?」


 思わずそう呟くとアスピザルは言い難そうに頬を掻き、夜ノ森は小さく俯く。

 

 「以前はもっと居たのよ? でも――」


 聞けば一時はそれなりの数の転生者を抱えていたダーザインだったが、日に日に減っていき今の数になったとの事。

 理由は単純で連中は異世界転生(・・・・・)と言う現実に耐えられなかったらしい。


 俺自身、その手の悩みと無縁だったので今一つ理解できなかったが、人外化と帰還が不可能と言う二つの事実は神経が細い奴には相当なストレスだったようだ。

 加えて、言葉が通じない、価値観が違う等々と日本での常識が全く通じない。


 それが積み重なった結果、発狂する者、暴れる者、自殺を図る者と血迷う奴が次々と現れたらしい。

 ただの人間なら取り押さえて終わりだが、困った事に身体能力が高い転生者が暴れているので、捕縛が難しく処分する事になった。


 …要はある程度、頭のネジが緩んでいる奴の方がこっちでは健全と言う事なのだろうか?


 単純に統計的な話のようだが、あの豚や蜘蛛怪人みたいな連中の方がこの世界で過ごすのに向いていると言う事らしい。

 それを聞いてなるほどと思う。


 まともな奴は早々に脱落するから残るのはあの豚みたいな連中と言う訳だ。

 察するにアリクイ女のケアをしていたと言う奴も脱落した口なのだろうな。 

 引き籠りが加速したのもその辺が原因か?


 少なくとも首途や夜ノ森、アスピザルのように割り切った奴は少数派と言う訳だ。


 …まぁ、あのアリクイ女に限った話で言うのなら単に自殺する度胸がなかっただけの話だろうが…。


 ともかくダーザインの転生者関連の内部事情は良く分かった。

 人数が妙に少ない理由もな。

 夜ノ森は言わなかったが、恐らくテュケやグノーシスに引き抜かれている奴も居るんだろうなとも薄々だが察していた。


 この時点でダーザインが組織として破綻しているのがよく分かる。

 同時にアスピザルがあっさりとムスリム霊山襲撃に同意したのもその辺が理由だろう。

 奴はもうこの組織を見限っている。


 …正確には自分の父親を…か?


 それは俺が考える事じゃない。

 親子の情? とかいうのに整理を付けるのはアスピザル自身だ。

 俺にはさっぱり理解できんが――家族? 単に最初に出くわした他人の事だろう?


 姓というラベルの製造元と言い換えてもいいが、それだけの話だ。

 特にこっちでは人権と言う言葉が酷く薄っぺらい。

 実際、そこらの畜生のように生んで捨てるなんて真似をする輩は掃いて捨てるほどいる。


 果たしてそんな関係を気にする必要はあるのだろうか?

 機嫌取りたいならそうなるように立ち回り、邪魔なら殺せばいい。

 俺はそうする。 物理的に居なくなれば煩わされる事も無いしな。


 「…まぁ、今後出くわす転生者には欠片も期待できないと言う事は良く分かった」

 「………完全に否定できない所がつらいわ」


 夜ノ森の言葉でその日の話は終わった。

 出発は明日。 目的地はウルスラグナから南に行った所にある湖。

 さっさと片づけたい所だ。

 

 


 翌朝。 街の南側の門から外に出る。

 事前にサベージには連絡を入れておいたので、少し離れた所で合流予定だ。

 王都を出て少し行った所でアスピザルがこっちを見て首を傾げる。


 「あれ? プレート? ローって冒険者だったの?」

 「あぁ、以前に失くしてな。 ここで再発行をした」

 「青なんだね。 実力的に赤ぐらい楽に行けたんじゃない?」


 俺は肩を竦める。

 

 「路銀を稼ぐ以上の依頼をこなしてないから低いんだよ。 ランクとやらを上げるのにも興味なかったしな」

 「へぇ、そうなんだ。 まぁ、身分証があれば今回みたいに偽造しなくていいから便利だと思うけど確かプレートって――まぁ、ローには関係ないか」


 …何だ?


 言いかけた事を聞こうとしたが視界の先にサベージ達が見えて来て結局聞きそびれてしまった。

 アスピザルがタロウを見つけるとすさまじい速度で駆け出して行くのを見て俺は少し足を早めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ