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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
8章

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235/1442

234 「評価」

視点戻ります。

 「取りあえずだけど、依頼は完了と言う事でいいかな?」


 アスピザルの言葉に俺は小さく頷く。


 「あぁ、作戦自体は成功と言い難いがな」

 

 場所は変わってオラトリアムの屋敷。

 食堂のテーブルを囲んでいるのは俺、ファティマ、アスピザル、夜ノ森の四人だ。

 あの後、施設から使えそうな物品を頂き、生き残ったレブナントと一緒に待機させていたコンガマトーに積み込んで空輸。


 残った俺達は現場の処理等を済ませての撤収だ。

 黒ローブはローブを脱いで人目がなくなった後、そのまま門から堂々と外に出し、シュリガーラはそのままでモノスはジェヴォーダンに騎乗させて魔法で姿を誤魔化して街から離脱。


 俺達はサベージに乗って引き上げだ。

 当のサベージは足の遅い夜ノ森を抱えるのを嫌がったが無視した。

 合流地点はライアードの村で、そこには幌を取り付けた荷車と全身鎧を装備したオークとトロールが待っており、そのままライアード経由でオラトリアムへと帰還。


 …で今に至る。


 他の連中は外で治療と休息、略奪品の確認をしている。

 大半は白の鎧等の装備品だが、良質な物が多く、収入としては悪くない。

 細かい作業は他に任せ、現在は屋敷の食堂で今後の話をしていると言う訳だ。


 「一応、証拠としてウチ(ダーザイン)の関与を臭わせる物品は置いといたし、後日にグノーシスの拠点に犯行声明を送り付けとくよ」

 

 それでいい?と視線で聞いて来るので充分だと頷いておいた。


 「さて、これで僕達は約束を果たしたよ」

 「…分かっている。 ダーザインの浄化とやらに手を貸そう。 …で? 最初は何をすればいいんだ」

 「まずはダーザインが確保している転生者に会って欲しいんだ」


 …転生者ねぇ。


 「…それは場合によっては始末する事も視野に入れていると取っても?」

 「そうだね。 こっちに付くならそれでいいけど、彼等の性格上難しいだろうから処分を前提で動く事になると思う」


 まぁ、そうなるだろうな。

 アスピザルにしてもいい加減、穀潰しや好き勝手する輩には消えて貰いたいのだろう。

 事前に聞いていたから俺に異論はない。


 「…で? その転生者共はどこに居るんだ?」

 「国内に散っていてね。 あちこち回る事になるんだけど…」


 それを聞いてあぁと察した。

 連中を分けて管理しているのか。

 恐らくは結託される事を恐れてだろう。


 ダーザインの連中はよっぽど転生者を信用していなかっ――いや、アスピザル自身がそうか。

 その様子だと恐らくは管理にそこそこ強い奴――転生者とある程度戦える幹部クラスを据えていると言った所だろう。

 

 「構わない。 出発はいつにする?」

 「…悪いんだけど部下の治療も兼ねて数日は居ても構わないかな?」


 俺はちらりとファティマへ視線をやると、頷きで返される。

 

 「構わない。 ただ…」

 「ここで見聞きした物は他言無用でしょ? そこは安心してくれていいよ。 部下は僕の言葉には逆らえない」


 …だろうな。


 言って聞かせればいいだけだし、その点は信用できる。

 うっかり喋れば爆散するだろうし問題はないか。


 「なら好きにするといい。 …後、一応聞いておきたいんだが最初の行先は何処だ?」

 「メドリームから南に行った所にあるグラードって領なんだけど知ってる?」

 

 グラード?

 一応、知ってはいるがこれと言って見る物もなかったから素通りした記憶しかないな。

 取りあえず、大雑把な場所は分かった。 後は付いて行けばいいだけだし聞かなくていいか。


 「了解だ。 出発まではゆっくりして行くと良い」


 俺はそう言って席を立って食堂を後にした。




 「さて、聞いていた通り少しの間だが、連中に手を貸す」

 「分かりました。 では、旅に必要な物をすぐに用意いたします」


 俺は歩きながら隣のファティマに声をかける。

 

 「被害等の状況は?」

 「連れて行った手勢は半数以上が死亡。 無事な者は現在治療中です」

 

 結構やられたな。

 やはりタッツェルブルム等の大型種を連れて行けなかったのは痛かったか。

 クリステラ、スタニスラス、それに天使と誤算がいくつか重なった結果でもある。

 

 甘く見ていたつもりはないが、微妙な結果に終わったのは余り愉快ではないな。


 「申し訳ありません。 私の見積もりが…」

 「いや、それを言うのならあそこでクリステラを仕留め損ねた俺のミスだ」


 誰の所為かと言えば責任は俺にある。

 それにこちらとしても反省点が多い戦いだったな。

 授業料としてはそれなりに高くついたが。


 今後は配下の教育は徹底させた方がいい。

 マルスランの例を見るとそれを痛感させられる。

 なまじ知識や経験がある分、変に自信過剰になるというのは正直、読めなかった。


 新参者は緊急時以外、訓練期間を経てからの実戦投入の徹底。

 新規の改造種もテスト期間を設けた方がいいな。

 

 「レブナントについてお前はどう見る?」


 個人的にはバランスの取れた良い戦力だと思うのだが…。


 「防衛戦力としては優秀ですが、今回のような奇襲には余り向かないと感じました」


 …まぁ、余り目立った戦果は上げられなかったからな。


 実際の所、数も少なかったからな。

 視覚的な意味では目を引いたが、それ以外は正直ぱっとしない印象だった。

 だが損耗がほとんどなかった事は評価に値する。

 

 「戦闘能力については防御寄りで、魔法等にも長けているので足を止めての状況で真価を発揮するでしょう。 反面、足が遅く重量があるので、今回のような速度が求められる戦闘には余り向かないと感じました」


 なるほど。

 今回は何だかんだで、ちゃんと見れていないからな。

 この手の意見は貴重だ。


 運用に関しては丸投げでいいが、戦い方の参考にはなるので話は聞いておきたい。

 ファティマの話は続く。 


 「ジェヴォーダンに騎乗させればある程度は緩和されるとは思いますが、シュリガーラどころかモノスよりも重いので遊撃にも向きません」


 まぁ、あの見た目だしな。

 そう考えると、シュリガーラの完成度の高さが際立つ。

 足も速く、鼻も効くので奇襲追撃に長けており、武装させれば様々な状況に対応できる。


 モノスは足こそ遅いが、迷彩能力のお陰で隠密性と奇襲に長けており、今回はかなりの戦果を挙げたと聞く。

 結論としては、ここの防衛戦力に使うのが最善か。

 

 「なるほど。 レブナントについては分かった。 …で? 筆頭のマルスランはどうだった?」


 俺も最後まで見ていた訳ではなかったが、良い所が一つもなかった印象があるな。

 そもそも今回の失態の原因は大半が奴だ。

 ファティマもその点を理解しているので表情から微笑みが消えた。

 

 「論外ですね。 確かにポテンシャルが高い事は認めましょう。 ただ、それに胡坐をかいているようで、彼我の戦力差を見極めず適切な行動がとれていません。 元々、自己顕示欲の強い愚か者でしたが、未だにそれを引き摺っているのはいただけませんね」


 マルスランはただのレブナントではなく、グロブスターで変異させた後に俺が改造を施した変異改造種とも呼べる特殊な個体だ。

 名称はフラットウッズ。


 全身から有毒な霧などを噴霧して、軽い物は吸った対象の粘膜にダメージを与える物、重い物は行動不能から死に至る猛毒がある。

 マルスランは魔法で燃やす事で直接的な攻撃として応用していたようだが、面白い使い方と感心した物だ。


 …まぁ、戦果と言う点では最悪だったが。


 聞けば慢心して手柄を独り占めしようとした結果、エルマンとクリステラを取り逃がす失態を犯したらしい。


 「性能だけ見れば優秀ですが、それ以外に問題が多いので必要なのは意識の矯正ですね。 それが済むまでは衛兵の真似事や下働きでもさせておきます」

 「…それが無難だろう」


 ここで配下の意識…と言うよりは性格の違いが如実に出るな。

 模倣とは言え、元々のパーソナリティを引き継いでいる以上はこの手のムラが出るのは仕方がない。

 以前に実験をしたのだが、個性を完全に排除してしまうと完全に指示待ちのロボットのように言われた事しかやらない上、指示から逸脱した状況になったら硬直すると言った弱点が発生すると言った結果が出ている。


 従う事に慣れた連中ならある程度扱い易いようだが、指示を出したり、無駄にプライドが高い奴は矯正が必要のようだ。

 何事も簡単に済まないというのは中々悩ましい所だな。


 「意識の矯正とやらはお前に任せる。 レブナントを含めた改造種共の補充もしておく。 後はグロブスターも作り置きしておくから好きに使うと良い」


 変異種は構造さえ把握すれば再現は容易だ。


 「分かりました。 発つのは分かりましたがその後はどうされるおつもりで?」

 

 …その後?


 依頼が終わった後の話か。

 

 「まだ考えていない。 南下しながら転生者と話を付ける事になるようだし、余裕があれば見てない所を回りながら移動したい所だがな」


 後は可能であれば王都に寄っておきたい。

 いい加減、装備を新調したい所だ。

 剣とか普通の武器はすぐ壊れるから首途の武器が欲しい。


 クラブ・モンスターはかなり気に入っていた。

 またあの手の武器を手に入れたい物だ。


 「何かあれば、折を見て連絡す――あぁ、所で話は変わるが、失敗作(・・・)共はまだ残っているか?」


 話を切ろうとしたが一つ思い出した事があった。

 アスピザルとの賭けだ。

 結局、目的を果たせなかった俺の負けなので、奴の要望を一つ聞く事になった。


 帰り道に奴が言ったのは「サベージみたいな騎獣が欲しい」との事。

 ジェヴォーダンを一匹くれてやってもいいが、折角なので改造種を作る過程で生まれた失敗作を押し付けてしまおう。


 「えぇ、遊ばせておくのも勿体ないので単純な作業をさせております」

 「騎乗できそうな奴を一体アスピザルに寄越してやってくれ」

 「分かりました。 ではそのように手配しておきます」


 用事が済んだので今度こそ話を終わらせた俺は作業を片付けるべく牢獄へと足を向けた。

 やる事は早いうちにやってしまおう。


これで八章終了となります。 ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

以前に告知させて頂いた通り、次回より投稿ペースを戻させていただきます。

引き続き九章もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 馬鹿は死ななきゃ治らないと思いますが、、、 マルスラン失態を知られていれば処分一択なんでしょうかね
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