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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
7章

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191/1442

190 「水槍」

 絨毯が風を切って化け物に突っ込んでいく。

 アスピザルの取りあえずぶつかってみようと言う考えは嫌いじゃない。

 どちらにせよ、あのデカブツがどう出るのかも見たいしな。


 大きさの所為で分からなかったが結構距離がある。

 サイズ差に圧倒されて分からなかったが、奴が出てきた場所はかなりの沖合だ。

 動きはないが、俺達の方を注視しているのは何となくわかる。


 ねっとりとした粘着質な物が混ざった視線だ。

 これがアスピザルの言う食欲と言う事なのだろうか?

 それにしても、あのサイズなんだから俺達を喰った所でそこまで足しになるとは思えんが、向こうからしたらそれを差し引いても食料として魅力的に見えるのだろうかね?


 理解に苦しむが、はいそうですかと喰われてやる訳にもいかんのでここで仕留めさせてもらう。

 

 「動かないのが気になるけど、近づいて落とすから適当に暴れてよ。 攻撃が通用するならそのまま攻めてもいいけど無理そうなら一度下がろうか? とにかく情報が足りないから色々試してみよう」


 嫌な予感がする。

 経験上、こういう奴は何か飛ばしてきそうな気がするんだが…。

 そんな事を考えていると、化け物の体表から茶色っぽい何かが大量に生えて来た。


 ほら来た。

 

 「何か飛ばしてきそうな感じだね」

 「来るわ!」


 夜ノ森の声と同時に茶色っぽい何かが一斉にこちらに飛んでくる。

 形状は三角で何となく槍の穂先に似ていた。

 

 「迎撃するから高度を落とすよ」


 絨毯の高度を一気に落として地面を這うように飛行。 

 同時に陸を離れ、下が砂地から海面に変わる。

 アスピザルは片手を海面に触れて小さく海面をかき乱す。


 恐らくは砂と同様に海水を操るつもりなのだろう。

 それは正しかった。

 海面から槍のような物が大量に飛び出し、飛来した物を次々と空中で串刺しにする。


 距離が近かったのでその正体が分かった。

 特徴的な流線型のフォルム。 複数の細長い触手。

 イカだ。


 そいつが高速で回転しながら突っ込んできている。

 水の槍で貫かれて、撃墜された奴の体に放射状の亀裂が入っている所を見ると体は硬そうだ。

 イカって軟体動物じゃないかったのかと言う疑問はあったが、そう言う生き物なのだろうと納得する事にした。


 「コウイカに似てるね」


 アスピザルが撃墜したイカを見て呟く。


 「そんなイカ居るのか?」

 「寿司ネタによく使われるよ。 食べた事あるけど美味しかった」


 そうなのか?

 というかこいつ撃ち落としながらなのに余裕あるな。

 

 「思ったより速いから、当てるのが難しいね。 撃ち漏らしは頼むよ」


 アスピザルの言う通り、海面から撃ち出される槍の弾幕を掻い潜ってイカが飛んでくる。

 俺が魔法で障壁を張るが貫通してくる。

 一応、速度は大きく落ちるので、その隙に夜ノ森が一つ一つ打ち落としていくが――。


 「きりがないな」

 「そう…ねっ!」


 言いながら夜ノ森が拳でイカを粉砕している。

 ぶん殴られたイカは中身と殻?らしき物を海にまき散らす。

 どうやっているのか内側から破裂している奴も居るな。


 …俺は喰らいたくないなあれ。

 

 夜ノ森の拳の破壊力は大した物だが、この場では活かしきれないのが残念だ。

 単純な話、手数が足りない。

 突っ込んで来るイカを捌き切れておらず、夜ノ森の拳を掻い潜った奴を俺がハルバードで打ち落とす。


 困った事にイカ共は自由に飛行できるようで、軌道がそれた奴も空中で大きく弧を描いて後ろから飛んでくる。

 俺は後ろから飛んで来たイカをハルバードをコンパクトに振って叩き潰す。


 完全に粉砕する必要はない。

 どうやら強度はハルバードの方が上らしく、適当に打ち払えば勝手に砕け散るので当てるだけでいい。

 飛んでくるイカに何度もハルバードを叩きつけていたが、途中で異音。


 ちらりと視線だけで確認すると、刃の部分に亀裂が走っているのが見えた。

 一撃入れる度にその亀裂は深くなっていく。


 …これは不味いかもしれんな。


 「夜ノ森さん」

 「なに!?」


 夜ノ森は余裕がないのか返事は雑だ。


 「こっちの武器が保たん。 何かあれば貸してくれるとありがたいんだが?」

 「私のリュックに予備の短剣と手斧が入っているわ。 それで良かったら使って!」

 

 では遠慮なく。

 夜ノ森の背中のリュックに手を突っ込んで柄が飛び出している斧らしきものを引っ張り出す。

 中々の重さだ。 柄が短いので攻撃の範囲は狭くなるが、取り回しは楽になりそうだ。


 …短剣はすぐ壊れそうだから止めておくか。


 ハルバードを片手持ちに切り替えて、反対に手斧を構えて迎撃に専念。

 正面から突っ込んで来たイカを打ち砕いた所で、ハルバードが限界を迎えた。

 上半分が砕け散って破片が散らばる。


 俺は使い物にならなくなったハルバードを投げ捨てて、手斧で迎撃を再開。

 

 「もうちょっと頑張って。そろそろ着くよ」


 確かに化け物の姿は視界一杯に広がり、そろそろ接触できそうだ。

 

 「水から手を離すと海水が使えなくなるからギリギリまではこのまま近づく。接触の直前に表面をなぞる様に上昇するから覚悟しておいてね」

 

 まぁ、そうなるよな。

 正直、行きたくないがやるしかない。

 

 「上昇するよ」


 目の前に化け物の胴体が迫る。

 ギリギリまで近づいて急上昇。

 同時にアスピザルの手が海面から離れ水槍の弾幕が途切れる。


 当然ながら突っ込んで来るイカの密度が半端ない事になるが、流石に来るのが分かっていたので準備はしておいた。

 移動や回避に処理を使わなくて済むので、攻撃に専念。


 <爆発Ⅲ>の多重起動。

 指向性を持った衝撃と熱が進路上のイカ共を薙ぎ払う。

 俺が抉じ開けた道を絨毯が突っ切り、群がってくるイカは俺が追加の魔法で吹き飛ばすが、アスピザルの水槍より大雑把なので撃ち漏らしがかなり多い。


 イカ共は表面を炭化させながらも俺達を射抜こうと唸りを上げて突っ込んで来る。

 アスピザルの援護がなくなって、夜ノ森の負担が激増したが、彼女は底力を見せてイカの群れを両手の拳で見事に捌き切った。

 イカの弾幕が途切れ、化け物は絨毯の真下。

 

 「行ける?」

 「行くしかないだろ?」

 「じゃあ、これ渡しておくから何かあったら連絡よろしく」


 アスピザルが魔石を二つ投げて寄越す。


 「赤が僕、青が梓に繋がるよ」

 「分かった。では行ってくる」

 

 通信用か。

 俺は魔石を受け取ると懐に突っ込んでそのまま絨毯から飛び降りた。

 少し遅れて夜ノ森も続く。

 

 尚も突っ込んで来るイカ共を空中で蹴散らしながら着地。

 足に伝わる感触は硬い。 生き物特有の硬さと言うよりは岩などの鉱物を連想させる。

 

 「じゃあ、お互い何か分かったら連絡って事でいいのかな?」

 「ええ。 お互い死なないように頑張りましょう」


 俺は特に答えずに魔石を左右の耳に突っ込んでから走り出す。 

 相変わらずイカは降って来るが、数が少ない。

 ちらりと上を見ると飛び回っているアスピザルに群がっているのが見えた。


 大半は引き受けてくれているらしい。

 ありがたい。

 走りながら俺は斧で地面を引っ掻くが、硬質な感触は斧を容易く弾く。


 物理攻撃じゃ難しいか。

 ならばと地面に接触。<枯死>を全開で発動。

 表面に亀裂が入り一部が砂に変わる。


 そのまま抜き手で抉って中から侵食してやる。

 どうせ生き物なら脳みそぐらいあるだろう?乗っ取って支配下に――。

 舌打ちしてバックステップ。

 

 直後に俺の居た場所にイカが次々と殺到する。

 鬱陶しい。 付け加えるのならこの手は難しいな。

 外殻が分厚過ぎて、体内まで届かない。


 正直、真っ当な方法での撃破は無理だ。

 このサイズの化け物を仕留めたければ、巨大ロボットや巨大化する特撮ヒーローでも連れて来い。

 縮尺考えろよ畜生。


 まぁ、最初からこいつは体内から仕留めるなり乗っ取るなりするつもりではあったので、特に悲観はしていない。

 勝算もないのに意味もなく突っ込むわけないだろうが。

 問題は何処から体内に入るかだ。

 

 口は論外。

 速攻で消化されそうな気がするからだ。

 まぁ、無難に目玉抉って潜り込むか、エラから入るか。


 見た感じ入れそうなのはその辺りかな。

 現在地は頭頂部なので結構走る必要がありそうだ。

 夜ノ森はどうしているのかなと視線を遠くに向けると、イカを薙ぎ払いながらヒレに攻撃しているのが見えた。


 流石に外皮ほど頑丈じゃないらしく傷はついていたが、でかすぎてダメージが入っているように見えない。

 あの調子なら暫くは問題ないだろうが、好転もしなさそうだ。

 振動。 足元が微かに揺れる。


 何だと下に視線を遣るとアスピザルが海面を滑るように飛びながら、水の槍を連射。

 それと並行して馬鹿でかい海水の槍を生成して射出。

 槍は唸りを上げて、化け物の横っ腹に命中。


 恐ろしいのは数十mはありそうな槍がこの化け物からしたら少し大きめの針ぐらいにしか見えない事だ。

 しかも当たっただけで碌にダメージが通っていないのも凄まじい。

 防御力と言うより純粋な質量差だろう。


 だが、全く効果がないと言う事はなかったようで、イカ共は益々アスピザルを狙って群がっていく。

 一応は、脅威と認識されたのか?

 

 ――やぁ、ロー調子はどうだい?


 耳に突っ込んだ魔石からアスピザルの声がする。

 

 「今の所は無事だ」


 ――どう? 勝てそう?


 「分からん。ただ、外からの攻撃で仕留めるのは無理だな」


 ――やっぱり体内?


 「そうなる。エラ辺りから中に入って脳みそ吹っ飛ばせば流石に死ぬだろ」


 ――中に入るの? 手がないのは分かるんだけどあんまりお勧めできないな。


 「理由は?」


 ――あのイカだけど、ローが言っていた使い魔の同類だと思うんだ。


 だろうな。

 恐らくは単純な命令だけをこなせる迎撃用の生体兵器と言った所だろう。


 「それで?」


 ――あいつらはあの装甲みたいな鱗の隙間から出て来た。つまりは体内だ。


 あぁ、そう言う事か。

 それだけで大体察した。


 「つまり中に何かいるかもしれないと?」


 ――そう。多分だけど、質と量も前に戦った奴より上だと思う。


 「止めるって事は何か代案が?」


 ――うん。一度引き上げない?


 俺は小さく眉を顰める。

 何だ? 結局逃げるのか?

 

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