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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
7章

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183 「移動」

 「さっき言ってたウズベアニモスって遠いの?」

 「いや、例の砂を使った移動なら半日もかからんはずだ」


 特区を抜けた俺達は早足に街の外を目指す。

 アスピザルの質問に記憶の内容を掘り起こしながらそう答える。

 実際に行った事はなかったが、距離的にはそんな物だったはずだ。


 …とは言っても獣人基準の話ではある。


 連中は獣化っていう手段があるので、普通の人間より足が速い。

 その辺踏まえればもうちょっと距離があるんだが……。


 「あのでっかいのが一杯ってどうなってるんだろうね」

 

 アスピザルの表情には好奇心が滲んでいる。

 それを見て夜ノ森が窘めていたが、効果はあまりないようだ。

 街の外へ出るとアスピザルが早速、砂を操作して移動を開始。


 …それにしてもこれどうやっているんだろう?俺にもできないかな?


 恐らくは魔法の類だとは思うんだが、どうやっているのか皆目見当がつかん。

 砂を操作している所を横目で見てみると、魔力を操作しているのは分かるが――あいつ固有の能力なのか?


 「気になる?」


 俺の視線に気が付いたアスピザルが前を向いたままそう言う。

 

 「あぁ。 魔法のようだが俺の知っているそれとは趣が違うように見える」

 「詳しくは話せないけど僕のオリジナルだよ」

 

 …驚いたな。


 基本的に魔法と言うのは地、水、風、火の四種に自己に作用する強化の五種だ。

 それを押さえていれば理屈の上では大抵の魔法は使う事が出来る。


 ちなみに俺が使っている重力操作などは分類上は系統外という括りに属す。

 この手のフィクションでお馴染みのレアスキルと言う奴だ。

 大抵は誰かが生み出して弟子や身内にのみ伝えると言った形でしか世に出ないので、使える奴は少ない。


 …まぁ、あくまでも希少(レア)であって固有(ユニーク)ではない。


 使い方と条件さえ合致すれば誰でも使える代物だ。


 さて、話を戻そう。

 何故、大抵の魔法を扱えるのかと言うと、詠唱――要は陣の構築の際に必ずその基本の陣を敷く必要があるからだ。

 例えば<火>の上位魔法である<火炎>を使用する場合は、まず<火>の陣を下敷きに追加の記述を行う必要がある。


 つまりは火を扱う物なら<火>水を扱う物なら<水>の陣が必ず使用されている訳だ。

 分かり易く図形で表すと、基本の魔法は円。 拡張型の魔法――ⅡやⅢは二重ないし三重丸。

 応用型は円の積層となる。

 

 今回のアスピザルが使用している砂の操作なのだが、地属性の魔法かと言われれば違う。

 何故なら砂を生み出している訳ではなく元々ある砂を操作しているからだ。


 そもそも物を遠隔で操作する魔法は無くはないが、完全にカテゴリーとしては別物になる。

 生み出すのと操作は全く別の工程が必要になるからだ。

 実際、魔法の大半は生み出す際に指向性を持たせて、発射と言う形で攻撃に利用する。


 竜巻等、自然現象を模した物も操作しているように見えるが、常時風を送るなどして誘導しているに過ぎない。

 俺の場合は操作だが、処理の際にはそれなりにリソースを割く事になる。

 

 つまり、恒常的に操作を行っているアスピザルは今まで見た中でも屈指の魔法の使い手と言う事だ。

 対抗できそうなのはヴェルテクスぐらいか?

 あの中二野郎も魔法に関してはかなりの物らしいが、戦闘を碌に見ていなかったのでその辺は何とも言えんな。


 「面白いでしょ? ちょっとコツがいるけど慣れると簡単だよ」

 「そのコツって奴を教えて貰いたい物だ」

 「それは秘密」


 …あーそうかい。


 簡単なら夜ノ森も使えるのか?

 ふとそう思って彼女に視線を向ける。

 俺の視線に気が付いた夜ノ森は首を横に振った。


 「使えないわよ。そもそも私は簡単な身体強化しか使えないわ。あの詠唱っていうのが難しくて…」


 それは何となくわかる。

 魔法の詠唱はかなりの集中力を要する以上、どうしても動きが悪くなってしまうから夜ノ森のような前衛タイプからすれば使い勝手が悪いのだろう。


 「そう? 動きながら頭の中でちょっとお絵かき(・・・・)するだけじゃない。 簡単だよ」

 「そのお絵かきが私には難しいのよ」

 

 アスピザルは移動に慣れて余裕が出たのか積極的に話を振ってくる。


 「ローはどうなの? 魔法、使えるんでしょ?」

 「まぁ、使えはするがお前も見ての通り、俺は基本前衛でな」


 そう言って肩を竦める。

 使えないとは言わないが、使えるとも言わない。

 

 「そろそろちょっとは打ち解けてくれても良いんじゃない?」

 「充分に打ち解けてるだろ?」

 

 冗談じゃない。

 お前等みたいなのに気を許すなんて真似ができるか。

 そこでふと思い返す。


 ――俺って誰かに気を許した事ってあったか?


 …………。


 ないな。

 我ながらこれでいいのかと思わざるを得んが――だめだな。

 俺は他人を受け入れられる自分の姿が想像できない。


 器が小さいなと自分でも思うが、俺の思考の根底に「他人は潜在的な敵」と言う物が根差している。

 これは元々の俺と言うのも最近怪しくなってきたアレの影響だ。

 正直、思う所がない訳じゃないが、俺自身その考えを受け入れている以上はどうにもならんし、する気もない。


 「所でさっきの日枝さんについてどう思う? 私としてはかなりまともに見えたんだけど…」


 アスピザルはそーかなーと言わんばかりの表情をしていたが、夜ノ森が強引に話題を変えて来たので流れもそちらにシフトしていく。


 「そーだね。 正直、仲間になって欲しいとは思うけど、あそこまで立場と自分を確立できている以上は何を言っても心を動かすのは難しいんじゃないかな?」

 「何だ? 殺そうとはしないのか?」


 俺が皮肉を込めて突っ込んでやると、夜ノ森はやや憮然とし、アスピザルは苦笑。


 「ダーザインとして誘うのならそう言う動きになるけど、今回はお忍びでね。 個人的な仲間を探しているから扱いはちょっと違うよ」

 「個人的な仲間…か。 そういえば、前も似たような事を言っていたな」

 「ちょっと……」

 

 アスピザルは声を上げかけた夜ノ森を首を振って止める。 

 

 「時間もあるし、本当ならこの件が片付いてからにしようかとも思ったけど、今しておこうか?」

 

 少し考えた後、俺は頷いておいた。

 どうせ着くまで暇だし、聞いておいても損はないだろう。


 「まず、僕が求めているのはダーザインの使徒じゃなくて、純粋に力を貸してくれる僕の仲間だよ」

 「……何か違いがあるのか?」


 お前が組織の長である以上、その仲間となれば戦力として組み込まれるのは目に見えているぞ。

 それとも最初は簡単な事やらせていい思いさせた後、なし崩しに所属させる気か?

 だとしたら浅はかとしか言いようがないな。


 「違うよ。だって相手にするのはそのダーザインだから」


 …何?


 「……どういう事だ?」

 「正確に言うと標的は名目上、ダーザインと提携している組織「テュケ」って言うんだけど知ってる?」

 「詳しくはないがな」


 確かヴェルテクスが悪魔のパーツ奪って逃げた所だろ?

 あの蝙蝠女もそこの所属だったと聞いた気がするな。


 「正直な話。 今のダーザインって実質テュケの下請け会社みたいになってるんだよね」

 「なんだそりゃ」


 思わず声に出してしまった。

 アスピザルの言葉の意味を少し考えると、そう言えばと思い出した。

 王都で襲って来たのはダーザインだ。


 そうテュケじゃなくてダーザイン。

 奪われたのはダーザインじゃないのに襲って来た事を考えると、もしかしなくても連中っていいように使われている?


 「まぁ、組織が本格的に動くに当たって色々あってね。 気が付けば逆らえない構図が出来上がっていたんだよ」

 「お前がボスじゃないのか?」

 「肩書はね。 実質的に取り仕切っているのは僕の父でね。 その父は寝たきりだから僕が父と組織の間に入って色々やっていたに過ぎないよ」

 「寝たきり?」

 「そう、もう歳でね。 時間がないって焦っているんだよ。 この世界って高っかい魔法薬(ポーション)や強めの回復魔法を使えば大抵の病気や怪我はどうにかなるけど、老衰だけはどうにもならないからね」

 

 要するに父親の面倒見るのに疲れたから、肩書を捨てたい? それとも組織の在り方を変えたいとかそう言う感じか?


 「組織の風通しを良くするのが狙いなのか?」

 

 それを聞くとアスピザルは苦笑して首を振る。


 「ないない。僕はただ、自由になりたいだけだよ。 一応、この歳になるまで養ってくれたから、父の意向には逆らわないようにしてきたけど、そろそろ潮時かなって思い始めてね。 部下も部下で、逆らいはしないけど変な野心を持った奴が多くて正直、息が詰まるよ」

 

 肩書を捨てたい方だったか。


 「転生者も自分勝手――というよりは、何か勘違いした奴が多くて、ご機嫌取るのもうんざりしていたし、ここまで来るとね、もう動かない理由がないんだよ」

 

 アスピザルは表情こそいつもと変わらない笑顔だが、うっすらとだが諦観にも似た物が滲み出ていた。

 

 「別に正しい正しくないとかそういうのじゃなくてね。 自由になりたい。 本当にそれだけなんだ。 ……この一件が片付くまでに考えておいてくれないかな? 勿論だけどタダじゃない。 報酬は僕にできる範囲であれば大抵の事はするし、欲しい物は可能な限り用意するよ」

 

 少なくとも嘘を言っているようには見えないな。

 演技だとしたら大した役者だが、取りあえず事情は理解した。

 まぁ、話の内容も分からなくもない。


 受けるかどうかは別だがね。


 「分かった」


 俺はそれだけを返す。

 即答しなくてもいいのはありがたい。 少し考えるとしよう。

 意識を目の前の景色に戻すと視線の彼方に目的地が薄っすらと見えて来た。



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