表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
7章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

176/1442

175 「中断」

 重い足音を響かせて現れたのは巨大な人型カブトムシだった。

 獣人が多いけど流石にあの見た目は目立つな。

 

 『あー。あー。俺がトルクルゥーサルブ現王、ケンゾー(顕宗)ヒエダ(日枝)だ』


 マイクの確認をした後にカブトムシ――日枝は話し始めた。

 まぁ、名前からして間違いなく転生者だな。

 見るからに強そうな見た目だ。流石カブトムシ。


 『俺が王になってからもう六年だ。あれから俺なりに国を良くしてきたが、まだまだ足りねえ。参加して来た連中には悪いが、負ける気は無い。それでも俺をぶちのめしたいって奴は上がってきな! 相手になってやるぜ!』


 そう言うと日枝は自分の装甲のような胸を拳で叩いてかかって来いとアピールする。


 『あ、後、関係ない話だが、今年度の公務員採用枠少し増やすから、学のある奴は是非とも試験を受けてみてくれ。…以上で開会の挨拶を締める!見に来た連中も楽しんでくれ』


 そう言うとマイクを女に返して日枝は壇上を下りて行った。


 『はい! ありがとうございました。では、開会の挨拶も済みましたので早速予選を開始したいと思います!』


 その言葉に場に居た選手達が一斉に身構える。

 

 『選手の皆さんもやる気を漲らせているようですし、開始をこの私が宣言させていただきます!――では…始め!!』


 それと同時に空気が振動するほどの咆哮をあげて選手達が手近な相手に襲いかかり始めた。


 「うはー。すっごい迫力だねー」


 隣のアスピザルはやや興奮したように戦いに見入っている。

 どいつもこいつも手当たり次第にぶちのめそうと武器を振るっていた。

 こうして見ていると暴れている連中はほぼ全員が完全に獣化――人型の獣だ。


 獣人と言うのは俺の読み通り、自分の体を弄って…と言うよりは制御か?――をする事によって肉体の獣化の割合を弄れるらしい。

 この国では獣化深度と呼ぶ。


 一から五まであって、一で耳のみ、五で完全な人型の獣になる。

 別系統で完全に獣になれる技があるらしいが詳細は不明。一はデフォルトだが、四以上は才能と努力が必要のようだ。

 深度が高ければ高い程、身体能力が上がるので、闘技場に出る奴は大抵が五か四だ。


 便利な能力ではあるが、代償なのか獣化に長けた者ほど魔法の適性が低い。

 お陰で、この周辺国家では魔法技術はかなり発達が遅れている。

 その証拠に街で魔法道具を取り扱っている店は俺が見た限り皆無だった。

 

 …もっとも、ここの連中は魔法を軽視する傾向にあるので、使えようが使えまいが気にならないようではあるが。


 頑強な肉体があるので、武器がなくてもかなり戦えるのも獣人と言う種の強みだろう。 

 現に闘技場では武器が砕けた獣人が拳を固めて相手に殴りかかっているのが見えた。

 一応、気絶か死亡、戦闘放棄で脱落となる。


 流石に周囲が敵の乱戦となると減るのも早い。

 選手たちは次々と脱落している。

 アスピザルは相変わらずキラキラした目で闘技場を眺めているが、その隣の夜ノ森は何だか退屈そうだ。


 「退屈か?」

 「え? あらやだ気づかれちゃった?」

 「何となくだがな」

 

 俺がそう言うと夜ノ森は器用に肩を竦める。

 それに俺は苦笑で返す。


 「そうねぇ。 私はあんまりこう言うのは好きじゃないからちょっと…ね」

 「なら外で待ってても良かったんじゃないか?」

 「忘れた? 私一人じゃ会話も無理だから外に出ても退屈なのよね」


 あぁ、そう言えば俺って通訳だったな。


 「買い物も済んだし、私はもう用事もないから後はあの子の用事が――」

 

 会話の途中で――


 ――મને તે મળ્યું。


 「っ!?」


 不意に脳裏に何かが響いた。

 それと同時に背筋に悪寒。

 

 何だ今のは?

 <交信>に似ているが何かが違う。

 ノイズ? いや、声…か?


 集中するが妙な音は聞こえない。

 

 「ねぇ…今、何か聞こえなかった?」


 夜ノ森が耳を抑えて呟く。

 その声には困惑が滲んでいた。

 

 …こいつにも聞こえたのか?


 「聞こえたな。もっとも、何を言っているのかはさっぱり理解できなかったが…」

 「『見つけた』ってさ」

 

 いつの間にかこちらに顔を向けていたアスピザルが会話に割り込む。


 「お前にも聞こえたのか?」

 「聞こえたよ。 少なくとも僕の知ってる言語じゃなかったけどね」 

 

 じゃあ何で理解できるんだよ。

 

 「でも不思議だね?」

 「何がだ?」

 「周り見てよ。 どう見ても僕ら以外にさっきの声聞こえてないみたいだよ?」


 周囲を見るが確かにあの声が聞こえている風には見えない。

 

 「俺達だけ?」

 「僕と梓にロー。 周りは完全に予選に集中しているからたぶんだけど聞こえてないっぽいんだよね」

 「どういう事?」

 「んー。 何だろうね? 感じからして僕等に直で恨みがある感じじゃないけどー…あるのは食欲か何かに近い? …でも、何で僕らを?」

 「…説明してくれるとありがたいんだが?」

 「その必要はないかも」


 …何?


 「来るよ」


 地面が微かに揺れ始めた。

 一瞬、地震かとも思ったが揺れ方が不自然だ。

 まるで何かが地中を移動しているような――。


 周囲も揺れに気付き、戦っている連中も動きを止める。

 それと同時に闘技場に無数の亀裂が走り地中から何かが飛び出した。

 

 …何だあれ?


 長い何かが無数に飛び出してきたのが見える。

 最初は蛇やワームの類かとも思ったが違うな。

 色は灰色…いや、土やら泥やらで汚れているが白か?


 表面に瘤のような物がびっしりと付いている。

 そいつらは手近な選手を絡め取ると地中に引きずり込んでいく。あれってもしかして触手か何かか?

 流石に王になろうと言う連中だけあって、選手達は動揺こそしたが立て直しも早い。


 比較的傷の浅い者が前に出て、戦闘に支障が出るほどのダメージを受けている者は、動けない奴を担いで避難したりしていた。

 

 『戦えない者は避難を! 戦える方は協力をお願いします!』


 実況席に居た女がマイクで避難と協力要請。

 観客の大半は避難したが、腕に自信がある連中は柵を乗り越えて次々と参戦していく。

 

 「おー。 この辺は国の特徴出るね」

 「ええ。 ウルスラグナなら軽くパニックになっているけど、こっちは動揺こそしているけど立て直しが早い。 環境の違いかしら?」

 

 流石に身体能力の高い獣人。 連携にやや難ありだが動きは素晴らしい。

 牛や虎みたいなパワーのありそうな奴が触手っぽい奴を押さえつけ、その隙に動ける奴が各々武器を叩きつけていた。


 触手の表面は弾力があるのか武器を跳ね返していたが、しばらくすると皮膚の防御を突破出来たのか何人かの武器がザクザクと食い込み、濃い青の血らしき液体が噴出する。

 獣人達は執拗に武器を叩きつけて遂には切断に成功。


 切り落とされた触手は地響きを立てて落ちて、しばらくのた打ち回ったがやがて動かなくなった。

 他のも切り落とされ始めたが、触手共は不利を悟ったのか地中に引っ込んで引き上げて行く。

 血の気が多い奴が追いかけて行ったが、あれって大丈夫か?


 「変わったのが出て来たなー。 ねぇ、ローはどう思う?」

 「今の所、何とも言えんな」


 闘技場で微かにのた打っている触手を見る。


 「ただ、分かるのは随分とでかい奴だと言う事ぐらいか」

 「そうだねー」


 あの触手が何に繋がっているのかは分からんが、末端のパーツであのサイズだ。

 本体のでかさはかなりの物だろう。

 

 「僕としては何であんなのが陸地に居るのかが気になるなぁ」

 「何か知って居るのか?」

 「そう言う訳じゃないけどほら、あいつの表面見てよ」


 表面ね。

 何かイボイボした物が……あぁ、あれってもしかして吸盤か?


 「あれってさ、吸盤っていってね。 僕の知ってる水棲生物に付いてる物によく似ているんだよ」 


 確かに、印象としては(タコ)烏賊(イカ)だな。

 色合い的にはイカか? 形状はタコ寄りだが……。

 

 「海が近いって言っても、それなりに距離がある筈なのに何であんなのが出て来るのかなーって」

 「…あれが海の魔物だとしたら、確かにこっちに出て来るのは妙だな」


 アスピザルの言う事はもっともだ。

 海は確かに近いが、あくまでこの世界の感覚でだ。

 普通に移動すれば丸一日以上かかる距離をすぐそことは言わんだろうよ。


 さっきの声の事もあるし少し気になるな。

 出来れば本体を仕留めて調べたい所だが…。

 

 …難しいか。


 取りあえず、面倒事になる前にここを離れるとしよう。


 「騒ぎも大きくなってきたし、一度宿に戻ろう」

 「そうね。人も集まっているようだし身動きが取れなくなる前に出ましょうか」


 アスピザルも特に異論はないのか素直に従ったが、視線は触手に固定されたままだった。





 「ねぇ。ロー君はどう思う?」


 宿に戻った俺達は部屋に入ると開口一番、夜ノ森はそう聞いてきた。

 ってか君付けかよ。


 「あの化け物の事を言っているならあんたが隣で聞いていた以上の事は何とも言えないな」

 「そうじゃなくて、私はあの声が気になるのよ」

 

 …あぁ、あれな。


 実は心当たりがあったりする。

 あの謎言語の響きはグリゴリの連中が使っていた物に感じが似ていた。

 ただ、連中と違って言っている意味は分からなかったがな。


 「あの魔物の声だと思う?」

 「……まぁ、状況から見ればそうだろうな」


 あのタイミングで出て来たんだ。

 無関係って事はないだろう。


 「聞こえたのはここに居る三人。もしかしたら他にも居たのかもしれないけど、私には分からなかったわ」

 

 もし本当に俺達にしか聞こえなかったとしたら、狙いは転生者か? 

 だとしたら、何でアスピザルにも聞こえた?

 こいつも転生者なのか?


 そうなるともう一人聞こえていた奴が居るはずだ。

 この国の王であるあのカブトムシ――ケンゾー・ヒエダ。

 日枝(ひえだ) 顕宗(けんぞう)。名前からして完全に日本人だ。


 あいつが聞こえていたらほぼ確定だな。

 確認は……難しいか。

 わざわざ会いに行ってリスクを負うのもバカらしいしな。

 

 「妙な声が気になるのは分かったが、それがどうかしたのか?」

 「少し調べてみたいの。 手伝ってくれないかしら?」


 本来なら知るかと一蹴するところだが、転生者を狙っているであろう化け物も気になるが――。

 夜ノ森とアスピザルに視線を向ける。


 …こいつ等の正体もはっきりするか。


 見極めると言う意味でも引き受けた方が良さそうだ。


 「分かった。 俺で良ければ手を貸そう」


 俺はそう返事した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ