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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
6章

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157/1442

156 「蛇腕」

 エルフ南の里。

 ここは現在、ゴブリンとの戦場から最も近く、そして最も多くの被害を受けた場所だ。

 そして現在も危険に晒されている。


 …だが、現在はドルイドの知恵により、仕掛けられた結界と罠によって守られている。

 

 その為、外敵の侵入はあり得ない。


 一般のエルフには知らされてはいないが結界や罠は木に特殊な仕掛けを施す事で、木自体から魔力を吸い上げて動力としているので、維持に術者の魔力を使用しなくていいという利点がある。

 欠点は敵味方の区別がつかずに襲いかかる事ぐらいだが、領域の外縁に設置する事と味方を近づけない事でその欠点を克服した。


 起動の有無は確認できるので、何かが引っかかったら近くに控えている人員が確認に向かい、戦果を確認するのだ。

 その日も特に罠に反応はなく、いつもの毎日が続くと彼等は疑いなく信じていた。


 ――その瞬間までは。


 罠に反応があったのでいつも通り、彼等は確認作業に向かう。

 そこで待ち受けていたものは引っかかった馬鹿な獲物ではなく自分達を刈り取る狩人だった。

 最初に犠牲になったのは先頭に居たエルフだ。


 彼は自分に何が起こったのか理解すらできなかっただろう。

 いきなり現れた黒い何かに呑み込まれた。

 動揺から立て直す間もなく更に3人が声もなく消える。


 全部で5人居たエルフ達は瞬く間に1人になった。

 最後に残ったエルフの男は襲撃者の方を見る。

 それは異様な姿だった。


 長く。そして黒かった。

 男は見た事なかったが、生み出した者と知識を持つ者が居れば蛇と言う単語を連想するだろう。

 長い体躯に漆黒の体。縦に開いた金の目。

 

 だが、蛇と言う生き物とは決定的に違う点がある。

 腕があるのだ。それも二対四本。

 男は咄嗟に弓を構えて矢をつがえるが、遅い。


 異形の蛇は尋常ではない速さで木々を這い回り、放った矢はあっさりと躱され木に突き刺さる。

 そして男にとれた行動もそれが最後だった。

 次の瞬間には後ろから襲われ、蛇の口腔内へ消える。


 その場にいた全てのエルフを平らげた異形の蛇達はシャーと鳴くと、背後に控えていた黒い獣とそれに跨る獣頭の者達――ジェヴォーダンに跨ったシュリガーラ達が安全になった道を進む。

 少し遅れてトロールとオークが引く荷車とそれに乗ったゴブリン達が続く。


 目指すのは南の里。

 先頭を走るシュリガーラ――ライリーはこれから始まる戦いに心を躍らせ、その表情を笑みに変える。

 続く者達もそれにつられてか、獰猛な笑みを浮かべた。


 戦場は近く、彼等はこれから起こるであろう殺戮に胸を高鳴らせる。




 

 あれから随分と時間が経ったが成果が上がらない。

 私――マニュエルは自室で頭を抱えた。

 あのローと言う男の捕縛命令が出ているのだ。


 しかも生かしたまま。

 中央からの命令と言う事なら文句の1つも言ってやりたくなるが、これはグリゴリからの指示だ。

 絶対にやり遂げなければならない。


 我等ハイ・エルフに取ってグリゴリは絶対。

 だからこそ中央から過剰ともいえる人員が集まっている。

 ロー。あの正体不明の存在。


 ミラードが使った<本質の水鏡>に映ったあのおぞましい化け物。

 あれは一体何だったのだ?

 様々な生物の物と思われる四肢や臓器が蠢く様は記憶から消えそうにない。


 思い出しただけでも吐き気が込み上げる醜悪さだ。


 本音を言えば関わり合いになりたくないが、グリゴリが必要と言うのなら否応もない。

 報告では降りて来たΣηεμηαζα様と交戦して深手を負いつつも逃げ延びたそうだ。

 それを聞いて感じた事は紛れもない恐怖だった。


 あの方と相対して生き残るとは尋常ではない。

 より一層関わりたくないと思ったが、奴が逃げた先がこの西の里の向こうと言う事だったので、我等が捕縛の指揮を執る事になったのだ。


 懸念はある。

 だが、地の利がある以上、捕縛は可能だろうと言う私の考えは虚しく空回っていた。

 見つからないのだ。


 逃げてから随分と時間が経っていたが、どう言う訳か影も形も見当たらない。

 こちらから出たのは結界の管理をしている者の報告で分かってはいる。

 だが、その足取りが全く掴めないのだ。


 捜索の範囲も広げ、ダーク・エルフ達の里も調べたが見つからない。

 ここまで見つからないと言う事はゴリベリンゲイの領域に逃げ込んだのか?

 あの魔物は我等とは相性が悪く、迂闊に踏み込むと犠牲が出る。


 物は試しにと斥候を送ったが、尋常じゃない早さで発見されて襲撃を受けた。

 その為、後回しにしていたのだ。


 だが、見ていない所はもう、あそこと北側しか――。

 思考は不意に耳を打つ轟音に掻き消された。

 私は部屋を飛び出して外へ出る。


 『何事か!?』

 

 私の声に反応した近くの者が駆け寄ってくる。

 

 『報告します。ゴリベリンゲイの群れが里を襲撃!』

 『…なっ!?』


 有り得ない。

 連中の縄張り意識の強さはこの森の歴史が証明している。

 出て来る事は今まで無かった。


 それが、群れでこちらに襲いかかって来る?

 どういう事だ?

 私は思わず駆け出す。


 里の外縁から連中が向かって来ているであろう方角を睨む。

 視線の先にその姿は――見えた。

 確かにゴリベリンゲイだったが、問題は先頭に居る存在だ。


 ゴリグラウアー。

 連中の長で最も危険な存在だ。

 昔、一度だけ見た事があるがその恐ろしさは忘れられない。

 

 何人もの戦士が返り討ちに遭った事は記憶の中で未だに色褪せない。

 何故だ?何故、こいつがここに現れる。

 ゴリグラウアーは里に近づくと息を大きく吸い込み…咆哮をあげた。


 それは凄まじい音量で私は思わず耳を塞いだ。

 迎撃に向かった戦士達もそれは同様で、一部の者は耳を抑えて蹲っている。

 立て直した戦士達は武器を構えて立ち向かおうとして――敵わなかった。


 私は思わず目を見開く。

 何が起こった!?

 いきなり彼等の頭上から炎の塊が落ちて来たかと思えば瞬く間にその命が呑み込まれた。


 どう見ても<火球>だ。

 魔法?連中が?有り得ない。

 私は弾かれるように上を向くと、空を見慣れぬ者達が泳ぐように飛んでいた。


 …魔物!?


 数は多すぎて正確な数は不明だが10や20では効かない数が居る。

 それなりに生きて来たが、あのような魔物は見た事がない。

 一体、何処から現れた!?


 見慣れぬ魔物達は空中で静止すると一斉に口を開く。

 その口腔内に赤い光が灯っているのを見て血の気が引くのを感じる。


 …いかん!


 『防御魔法を…』


 言い終わる前に巨大な<火球>が降り注いだ。

 里のあちこちが爆発し、炎に包まれる。

 何故こんな時に未知の魔物が……。


 疑問が湧き上がるが、瞬時に嫌な可能性が頭を過ぎった。


 …まさか、ゴリベリンゲイ共は…。


 それは正しかった。

 空からの攻撃が終わった瞬間、ゴリベリンゲイは雄たけびを上げて突っ込んで来る。

 どう見ても上からの攻撃を見越して攻めて来ていたとしか思えない。


 『魔物が連携だとぉ!』


 有り得ない。

 少なくとも私の常識では考えられない事態だ。

 ゴリベリンゲイがあの魔物を力で従えた?それとも逆か?


 悲鳴が上がる。

 入り込んだ魔物達が暴れて里の者達を手当たり次第に襲い始めた。

 考えるのは後だ。


 今は防衛を優先せねば。

 私は杖を構えて近くの魔物の下へと走った。






 俺はサベージに跨ってのんびりと歩を進めていた。

 今の所、戦況は予定通りに推移している。

 西と南の里に対しての同時奇襲。


 連中、結界の便利さに胡坐をかいていたようだからあっさりと成功した。

 無力化の手順は簡単だ。

 結界とやらはどうも木に対して何かしらの細工を施す事で成立しているらしい。


 なら、その木をどうにかすればいい。

 事前に結界周辺の樹木に例の植物の種を植え付け、こちらの支配下に置く。

 後はその樹木が根を伸ばして結界を維持している木を乗っ取り結界を無力化。


 どうも、木から魔力を吸い上げていたらしく、供給を絶つだけであっさりと結界は消す事が出来た。

 後は簡単だ。罠がなくなった所に戦力を突っ込ませればいい。

 ついでに、結界の警報を作動させて斥候をおびき寄せて始末する事も忘れずに行う。


 西は比較的手薄だったので、支配下に置いたゴリラ共と航空支援にコンガマトーを送った。

 南はまぁ、目の前で凄い事になっている。

 ライリーを先頭に俺が作った新種共が派手に暴れまわっていた。


 ジェヴォーダンに跨ったシュリガーラ達が哄笑を上げながらエルフの首を刈り取って回り、巨大な蛇に似た生き物が下から這い上がって逃げ惑うエルフ達を次々と口に放り込んで喰っていた。


 名称はタッツェルブルム。

 アルプス山脈に現れたとされる未確認生物だ。

 見た目は巨大な蛇だが、腕が4本生えており、そいつを使って獲物を掴んだり樹上から飛び移ったりできる。


 黒い外皮は魔法と矢を弾く頑強さを誇り、舌は数m程の長さに伸縮し色んな物を絡め取る。

 

 …と色々あるが、こいつの一番の目玉は――。


 里に入った俺の視線の先ではエルフの親子らしき数人が家に逃げ込んでいる所だった。

 それを追うタッツェルブルム。

 舌が親子を絡め取る直前にドアが閉まる。


 タッツェルブルムは大きく仰け反るような姿勢を取ると腕と腕の間、人間で言うと胸の辺りが大きく開くと家に齧り付いた。

 

 おぉ。自分で作っといてアレだが凄い迫力だ。

 家が屋根の辺りからバキバキと嫌な音を立てて噛み砕かれて行く。

 異変に気が付いた親子が慌てて家から飛び出すが、舌と腕に捕まってあっさりと捕食された。


 ――この第二の口だ。


 上の口に入り切らん物や喰うのに時間がかかる物はこいつを使って喰らうのだ。

 人間で言う顎に近い構造をしており、歯も備えているので噛み砕く事も出来る。

 そうしておけば、いつか俺がデス・ワームに喰われた時の様に体内で暴れる事も出来んだろう。


 何せいい感じに磨り潰された後だからな。

 万が一、生きていてもどうにもならんだろう。

 ざっと、戦場を俯瞰した限り、放って置けば終わりそうな雰囲気だな。


 これは、近くで伏せている連中は出番なしか?



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