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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
6章

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150 「降臨」

 俺は食事と一緒に出された茶を啜りながら考える。


 『そうだな…。まず、ゴブリンは基本的に知能が低い……と言うよりは余り深く物事を考えないんだろうな。だが、シュドラス山周辺のゴブリンは違った。奴らはゴブリンにしては驚く程に統制が取れており、完全に一枚岩だ』


 取りあえず、一般的なゴブリンの話等をしてお茶を濁す事にした。

 マドレールは無言で先を促す。


 『…途中、ゴブリンの集団を見たが、どいつもこいつも戦意を漲らせていた。目的意識がはっきりしていないとあれ程の士気は維持できないだろう。俺の主観で申し訳ないが、奴らはあんた達エルフに強い敵意を持っている。逆に聞きたいが、ゴブリン共がそこまでしてここを攻める理由に心当たりはないかな?』


 気が付けば逆に質問していたが、問題はないだろう。

 エルフ側がこの戦いに関してどう思っているのかが気になる。

 マドレールは微妙な顔をしてどう答えようか迷うような素振を見せた。


 俺はおや?と首を傾げる。


 …もしかして事情知らない?


 『驚くかもしれないけど信じて欲しいの』

 『内容次第だ』

 『ゴブリンの王とリクハルド様には縁があったようで、詳しい事情は私も知らないんだけど、共存を申し出て断られたそうなの』


 共存?入信の間違いだろ?


 『共存?ゴブリンと?』


 知って居るけど俺はあえてすっ呆ける。


 『えぇ。何がゴブリン王の気に障ったかは知らないけど結果は最悪の形で決裂。ゴブリン達は目の色を変えて襲ってくるようになったわ』


 マドレールは小さく嘆息。


 『お陰で、里の周囲にあった小さな集落は軒並み全滅。住民は殺されたか攫われたかしたわ。あの様子じゃ生きてはいないでしょうね…』


 いや、家畜みたいな扱いになっているけど一部は生きているぞ?

 死んだほうがましな目には遭っているだろうが。


 『それは何とも…。その王とやらはゴブリンに何を言ったんだ?』

 『そこまでは私には分からないわ。ただ、彼等は自分達の祝福を拒んだとだけ…』


 事情を知って居れば大抵の奴は当然の結果だと言うだろうな。

 アブドーラは随分と古藤氏を慕っていたようだし、そのリクハルドって奴はその辺どう考えていたんだろうな?


 目の前のハイ・エルフを見る。

 その表情はどうしてこうなったんだろう?と心底不思議そうにしていて、ゴブリンの行動が理解できないと言った表情だ。


 その表情に俺が感じたのは違和感。

 こいつ等は自分達の事を客観視しないのか?

 少なくともこのマドレールの話を聞く限りでは「自分達は正しいのにどうして理解されないんだろう」 

と言っているように聞こえる。


 何故、拒まれたのかを考えないのだ。

 おそらくダーク・エルフの時もそんな感じで拗れたのだろう。

 完全に悪化する前に別れたのはある意味、英断だったのかもしれんな。


 エティエンの何かに酔っぱらったという表現は見事に的を射ていた訳だ。

 正直、俺から見てもこいつ等は何かおかしい。

 

 『ちょっと暗い話ばかりだし、気分を変える意味でも良かったら私達の神殿に来ない?この里で一番立派な建物なのよ!』


 マドレールは暗くなった雰囲気を振り払うように明るい声で話題を変えて来た。

 俺も反応に困る話題だったのでこれ幸いと乗る事にする。

 神殿とやらにも興味があるしな。


 頷くと彼女は嬉しそうに空いた食器を片付けると、俺の手を引いて外に連れ出した。

 



 神殿とやらに向かう途中マドレールはとても上機嫌だった。

 天気がどうの食事がどうのとどうでもいい話を垂れ流しっぱなしだ。

 俺は適当に相槌を打って流していたが、どうしてこの女はこんなに上機嫌なんだろうと思い、尋ねると「こう言う気軽な会話が新鮮で嬉しい」との事。


 それを差し引いてもこの女の態度は奇妙を通り越して気持ちが悪かった。

 俺は何だか嫌な感じがするなと思いながら嬉しそうにどうでもいい事を垂れ流す女の後ろを歩く。

 数十分ほど歩くとその神殿とやらが見えて来た。


 造りはさっきミラードと話した建物に似ているが、規模は文字通り桁が違う。

 どう見ても数倍近くでかい。

 表面は真っ白であちこちに例の柱と羽の彫像が立ち並んでいる。


 確かによく似ているが微妙に違うな。

 羽の部分と柱に何故か人の目に似た模様が彫り込まれている。


 『どうかしら私達の神殿は?』

 『広いな』


 それ以上の感想は出てこなかった。

 中に部屋などはなく空間が広がっている。

 大理石か何かなのか、いつかの遺跡に似たツルツルしたタイル状の床に正面には例の羽の生えた柱。


 …何故か薄っすら光っているのは仕掛けでもあるのか?


 周囲を見てみると壁にも例の柱が等間隔で並んでいる。

 こちらは特に光っていないが、照明代わりと言う訳ではないのか?


 …まぁいい。 


 気にはなるが大したことじゃないだろう。無視して歩を進める。

 例の目玉の模様の所為で見られているような錯覚を覚えて何となく居心地が悪い。

 前を歩くマドレールは手招きしながら奥へ進む。


 さっきから感じている嫌な感じが強くなっていく。

 念の為、隠れて付いて来ているサベージの居場所を確認した後、奥へ向かって歩くと正面の柱がはっきり見えて来る。


 途中で気が付いた。

 柱に男が1人跪いている。

 男は俺達に気付くとゆっくりと立ち上がり振り返った。


 ハイ・エルフの男だ。

 こいつも例に漏れずにイケメンで、俺を見ると優し気に微笑む。

 寒気がした。男に微笑みかけられてもなぁ。

 

 服装はマドレールと同様に豪奢な装飾が施されており、身分の高さを窺わせる。

 恐らくだが、こいつもドルイドだ。

 マドレールに視線を向ける。気付いた彼女も何故か微笑む。


 …何なんだ一体。


 反応から察するに、どうも俺は誘い込まれたようだな。

 最初からそのつもりだったのか。

 

 『こんにちは。騙すような真似をしてすまない。こうでもしないと君と会えなかったのでね』


 俺の考えを読んだのか男はそう言いながら近寄って来た。

 

 俺は何も言わずに男をじっと見る。

 権力者なのは分かった。

 周囲に誰も居ない事を考えるとお忍びで俺の前に現れたって事か?

 

 …ならこいつの正体は…。


 『僕はリクハルド。この里で王をやっている者だ』

 『ご丁寧にどうも。俺はロー。旅をしている』

 

 こいつがリクハルドか。

 顔ぐらいは拝んでおきたいと思っていたが、まさか直接来るとは思わなかった。


 『王様がわざわざ俺みたいな奴の前に来るとは、余所者って言うのはそんなに珍しいのかな?』

 『確かに余所者は珍しいね。けど、君に会いに来たのは必要だったからだよ』

 『必要?』

 『あぁ、啓示を受けた。君と話すべきだと、そして君と話したいと』


 …何言ってんのこいつ?


 『うっ』


 いきなりマドレールが呻き始めた。

 今度は何だ?

 正直、急展開すぎて付いて行けないんだが…。


 それと同時に壁の柱の一本が薄く光り、次いでマドレールの体も光り出した。

 少しの間、苦し気に呻いていたが落ち着いたのか俯いていた顔を上げる。

 その顔は表情が抜け落ちており、まるで別人のようだった。


 リクハルドはいつの間にかマドレールに向かって跪いている。

 

 『降りて来られたか』


 そう呟くのが聞こえた。

 マドレールはリクハルドと俺を交互に見た後、ゆっくりと俺に視線を向ける。


 『「異邦人よ。よく来た」』


 何だ?声が二重に聞えるぞ。

 その上、何語を喋っているのかさっぱり分からんが何故か言っている事が分かる。

 何だこいつは。

 

 『「我はΓριγορι(グリゴリ)が1柱。Σηεμηαζα」』


 何だって?名前が聞き取れない。

 言っている言葉の意味が分かるのに固有名詞だけが変にブレて聞こえる。

 前半のグリゴリだけは辛うじて聞き取れたが名前が分からん。


 し…しぇ?何とか?分からん。

 

 『恐れる事はない。あの方々こそがグリゴリ。僕達エルフに知識を授けてくれた偉大な存在だよ』


 リクハルドの言葉に俺は眉を顰める。

 なるほど。こいつ等がエルフの後ろ盾か。

 こんなに分かり易い形で現れるのならそりゃあ信者も増える訳だ。


 『…で?その偉大なる存在様は一体俺に何の用だ?』

 『「我等は汝の肉体に興味がある」』

 『肉体?どういう意味だ?』

 『「その肉体は様々な命の要素を内包したαρχηであり。限りなくτελοςに近い」』


 また、訳の分からん単語が出て来たな。

 俺に分かるように喋ってくれませんかね。


 『「気配は感じていたが実に興味深い。それを成したのは汝の本質故か…」』


 ヤバいな。

 何を言っているのかさっぱり分からん。


 『盛り上がっている所、悪いんだが俺にも分かるように話してくれないか?偉大な存在なら少しは下々に合わせてくれると助かるんだけど?』

 『「我等を見ても何も感じぬか?」』

 『何を感じろと?』


 ヤバそうなのは分かるが別段、遜ってやる義理はないな。

 そいつは愉快そうに目を細める。


 『「恐れを…いや、真なる意味で知らぬのか。身は混沌、心は無垢。人でありながら原罪を捨て去り解脱へと至ったか。素晴らしい素材だ」』

 

 正直、内容が理解できないので、首を傾げる事しかできない。

 何なの?この手の輩は小難しい事言って頭いいアピールでもしたいの?

 たまに聞く意識高い系ってこう言うのを言うのか?知らんけど。


 『「我等が汝に求める者は1つ。我等の庇護下に入り、その身を捧げよ。然すれば汝は我等の叡智に触れ、更なる飛躍を遂げるだろう」』


 俺は内心で溜息を吐く。

 要するに手下になれって事か。小難しい事言っているが結局、ダーザインと同じじゃないか。

 そう考えると急に馬鹿らしくなった。


 …あぁ、その前に聞く事があったな


 『返事をする前に聞きたいんだが、グノーシスと言う名称に覚えは?』

 『「Γνοστιψισμ(グノーシス)。知識の担い手か」』

 『知識?あんたらのお仲間じゃないのか?』

 『「否であり応とも言える。あの者達と我等では担う役目が違う。我等は監視者。審判の時までこの地と彼の地を見据える者。だが、我等には成すべき事がある」』


 ヤバいな。誰か翻訳してくれない物か。


 『「異邦者よ。汝の身と力ならば我等は我等が求める真なるΝεπηιλιμを得て受肉を果たせよう。さぁ、我等の手を取り――」』

 

 成程、グノーシスとは別口なのか。

 目的などはさっぱり理解できんが、それだけ分かれば充分だ。

 受肉等、引っかかる単語はあるが今は脇に置いて置こう。


 …で?信者になれって?


 『断る。他を当たれ』


 冗談じゃない。

 被せる様にそう言ってやった。

 

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