1441 「飲行」
一夜明けて降臨際当日。 昨晩はそれなりの騒ぎにはなったが、どうにかなりそうだった。
グノーシスは城塞聖堂の半壊、王国は王城が派手に壊れたが、教団はザカリーとジネヴラ、王国側は新たに眷属となった公官――ルチャーノという男が上手くやってごまかした。
さて、具体的にどうなったのかというと、昨晩に教団と王城に襲撃者が現れたが、撃退に成功。
恐らく犯人はダーザインであると思われるが、聖騎士や王国騎士の活躍により全滅。
負傷者こそでたが、教団の権威に曇りなし。 王国もまた同様。
だが、襲撃で王が負傷し、しばらくは表に出られない。
「――で、適当な所で病死って流れか」
「あぁ、昨晩に死んでいると色々と面倒な事になるのでな」
場所は王城最上階である玉座の間。
ロートフェルト様が派手にやらかしたお陰であちこち壊れてはいるが、人目に付かないという点ではこの王都で最も安全な場所といえる。 そこで俺、ザカリー、ルチャーノの三人で集まって今後の方針について話していた。 これから三人で王都を回していかなければならないのだ。 早い段階で意見は共有しておくべきだと考えてこの場を用意した。
……まぁ、意見の共有というよりは確認作業に近いがな。
国王は死亡、死体が爆散した所を見ると何らかの仕込みを行っていたのでどちらにせよ殺すしかなかったようだ。
「他の王族はどうなった?」
「ロートフェルト様の手により全て眷属化した。 今後を見越して他領や他国との外交に使えるだろう」
ザカリーの質問にルチャーノは即答。 王国の機能に関しては大部分の掌握が完了していた。
まずは王族に関しては王こそ死亡したが、王子や王女といった生き残った王族は全員、洗脳を施したので何の問題もない。 頃合いを見て王が死亡したとでも公表して適当な奴に継がせればいいからだ。
騎士団に関しては王城襲撃でかなり死んだが、主要人物をそこそこの数に洗脳を施したのでこちらも問題ない。 集団である以上、頭を押さえていれば制御はそこまで難しくなかった。
歯向かうと職がなくなるとチラつかせれば大抵の奴は疑問があっても逆らう気は起こさない。
「そういえばお前と戦っていたライオネルって奴はどうなった?」
「殺した。 思った以上に手強くてな。 生け捕りにしている余裕はなかった」
ザカリーは少し勿体なかったなと小さく呟く。
王国騎士団は結構な欠員を出す事となったがオラトリアムから代わりの人材が送られてくるとの事なので穴埋めは問題ないだろう。
次にグノーシスだが、当初の予定――つまりロートフェルト様のプランでは徹底的に潰してウルスラグナで活動できなくさせるつもりだったが、俺の提案でそれはなしになった。
代わりに機能を完全に乗っ取ってオラトリアムの傀儡にする事となったのだ。
幸いな事にジネヴラもザカリーもおり、他の聖堂騎士は王都に居る奴に限っては全員洗脳済みなので上手くやれるだろう。 異邦人に関しては生き残っている連中――要は寝返ったカサイ以外の奴は全員、処分した。 使えるのなら起用しても良かったが、どいつもこいつもやる気がなかった上、信用もできなかったので飼いならす価値もないと判断しての事だ。
残ったカサイは王都では扱いにくいとの事でオラトリアムへ送る。
ファティマにどうするのか尋ねると「取り敢えずは農作業でもさせておく」らしい。
それを聞いてまぁ、妥当な判断だと思った。 連中は体力だけは有り余っているからな。
小難しい作業をやらせるよりは単純作業でこき使った方が効率的だ。
本音を言うなら戦ったカカラを筆頭に異邦人として使われていた連中は少し勿体ないと思っていた。
転生者は技量が低くても身体能力が人間離れしているだけあって、普通に強いのだ。
手軽に運用できる戦力として使いたかったが、信用できない以上は仕方がない。
下手に欲張って足元を掬われたら目も当てられないからな。
「例の枢機卿、今まで表に出てこない小娘と聞いたが、使い物になるのか?」
「そこは問題ない。 試しに大勢の前で喋らせたが堂々としたものだった」
ジネヴラの能力をやや疑問視しているルチャーノの意見はもっともだが、ジネヴラに関しては俺も見ていたので余程の事がない限り問題はないだろう。
「ザカリーの言う通りジネヴラには問題はないが、もう少ししたら帰ってくる助祭枢機卿と本国からの干渉をどうするかだな。 後は死んじまった司祭枢機卿の代わりもどうにかしなきゃならん」
枢機卿は本国から送り込まれるのでこちらで勝手に代わりを用意する事が難しいのだ。
生きているとごまかしてもいいが、相手が大陸の遥か南にある教団の本国なので通用するかは非常に怪しかった。 対策を練っている最中なのでまだ死んだ事は報告していないが、時間が経ってしまうと怪しまれるので早い段階で結論を出す必要のある問題でもある。
「……何とも頭の痛い問題が多いな。 せめてもの救いは表面上は取り繕えている点か」
ルチャーノは小さく溜息を吐く。 これには理由があった。
元々、このウルスラグナという国は領主に分割管理させている関係で領が独自に運営を行っている。
で、何が問題かというと半端に大きい領の領主は増長する傾向にあり、特にこの国で最も大きな領であるユルシュルの領主は非常に強い野心家で有名だ。 王が死んだら我こそは新たな王家などと言い出しかねないと懸念している。
「恐らくだが王の死亡を公表したら動き出すだろうな」
裏を返せばそれだけ死亡したジェイコブ王が有能だったとも言える。
少なくともユルシュルの反乱を完璧に抑え込んでいたからな。
「――最後にテュケだが――」
俺がその名前を口にするとザカリーとルチャーノは顔を顰めた。
気持ちは全く同じだったので俺は黙って話を続ける。
「人員は何も喋れないので処分、現在は地下の施設を引っ繰り返して調べている最中だ。 数日で片を付けたかったが思った以上に広い上、場所が場所なのであまり人数を使えないのが痛いな」
「下手に明るみに出ると面倒な施設だから王国側の意見として言わせて貰うならさっさと処分してしまいたい」
「教団としても同意だ。 あんなものは要らん」
目下、最優先で処理しなければならない問題だ。
幸いなのは首魁であるアメリアはもうオラトリアムへ移送してしまった事だろう。
少なくともこれ以上、余計な事はしないはずだ。 被害は最小に抑えたつもりだが、少し考えるだけでこれだけの問題が出てくる以上、立て直しと完全に掌握するのは時間がかかりそうだった。
――取り敢えず――
「英気を養うために飲みにいくか?」
現実逃避にそんな提案をしてみたのだが――
「あぁ、いいな。 腹も減ったし何か入れておこう」
「話の続きもしたい。 良い店を知っているからそこに行くとしよう」
意外な事に二人はあっさりと同意した。 その反応に俺は少しだけ笑う。
これから大変そうだが、この新しい仲間達と上手くやれそうだ。
そんな事を考え、俺はザカリーとルチャーノの三人で飲みに行った。
今回の外伝はこれで終了となります。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
次回の外伝は書いてはいますが、ちょっとかかりそうですので気長にお待ちいただければ幸いです。
誤字報告いつもありがとうございます。
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