1435 「階段」
ライオネルはザカリーの態度を本気と取ったようで通信魔石を取り出すと連絡を取り始めた。
「あぁ、俺だ。 異邦人が上に行ったはずだ。 どうなって――なに?」
ライオネルの視線がこちらに向く。
「分かった。 こちらで対処する――悪いが、お前達には城塞聖堂での襲撃に関与している可能性があると言われた。 話を詳しく聞かせて貰おうか」
……あぁ、クソ。 結局、こうなるんだよなぁ。
俺は短槍を全力でぶん回して煙幕を張る。 同時にザカリーとヨノモリが動き出す。
ザカリーはライオネルへと斬りかかり、ヨノモリはザ・コアを振り回して騎士を吹き飛ばして階段を上り、アスピザルはそれに続く。 俺はロートフェルト様の状況を確認しながらザカリーの援護だ。
上では派手に戦り合っている最中であろう事は目に見えている。
そんな中で半端に強い俺が行ってもあまり貢献できそうにない。 なら、ここでザカリーを援護してライオネル達の合流を阻んだ方がマシと判断したのだ。
「貴様ら! 王国を裏切るつもりか!」
ライオネルが怒声を上げるがザカリーは全てを無視して斬りかかる。
奴の部下が援護に入ろうとするが、視界が塞がっているので判断に迷っている様だ。
その隙を突いて俺は棒立ちの連中を短い槍で突き殺す。 こうなってしまった以上、隠れてやる意味があまりない。 あまり使いたくなかった手ではあるがやるしかないな。
――突入しろ。
ズンと城の外で衝撃音、次いで悲鳴と騎士達の怒号。
城の中からでも聞こえるので相当の事が外で起こっているのだろう。
まぁ、当然だった。 この日の為にロートフェルト様が(勝手に)用意したレブナントの群れを嗾けたからだ。 強行突破はやらないといったのだが、あのお方は暇だったのでその辺にいた連中や襲ってきたテュケの息のかかった連中を捕らえてはレブナントに作り替えていた。
正直、管理が面倒だったのでやめろと言いたかったのだが、言って聞くようなお方ではないのでそのまま好きにさせたのだ。
……まぁ、数日後には公開する事になったが。
総数で五百の異形の群れをバレないように隠すのは中々に骨が折れた。
どいつもこいつも人間離れした見た目をしているので表に出せば騒ぎになるのが目に見えており、そうなった場合、計画は破綻する。 そして失敗の責任を取らされるのは俺になる。
今の所、俺はファティマからもロートフェルト様からもいい評価を受けているのだ。
ここで落とすと雑な扱いをされかねない。 眷属としてやれと言われた事に対しては「はい」としか答えられないのは辛いが、能力を見せて少しでもいいポジションを確保しておきたいのだ。
理想はオラトリアムの本拠で指示だけを出す気楽な位置。
こんな危険な場所で危険な作戦に従事せず、言う事を聞かない猛獣――ではなく、主の行動を制御――でもなく、最良の結果となるべく支えるような仕事は俺には荷が重い。
可能であれば組織にとって毒にも薬にもならない気楽な立ち位置が望ましいが――
「無理だろうなぁ……」
少し前に話したファティマには会話の締めに頼りにしていますよとありがたいお言葉を頂き、ロートフェルト様には定期的に意見を求められる。
我ながら上手くやり過ぎた。 手を抜けないのと言うのは眷属としての俺の欠陥か。
――ともあれ、作ったものは仕方がない。
あるものは有効に活用しなければ勿体ないと考えた俺はレブナント共に指示を出した。
あいつ等、知性の欠片もない化け物にしか見えないが、本質的には俺と変わらないので知能はしっかり人間並みなのだ。 その為、かなり細かい指示を出してもしっかりと従ってくれる割と便利な連中でもある。
さて、俺は連中にどんな指示を出したのか?
ロートフェルト様の指示だと街で暴れて手当たり次第ぶっ壊せと困った事をするだろう。
攪乱という意味では悪くはないのだが、俺は後始末を意識しているのでそれをされると非常に困るのだ。 だから、一捻りさせて貰った。
まずは潜伏場所をグノーシス教団自治区の近くと王城近くの二か所に絞り、見た目や持ち物に教団や王国との関係性を匂わせるものを目立つ形で示す。 エンブレムや装備品だな。
次いで暴れる際には王国と教団の所為で自分達はこうなったのだと常に叫ばせるという被害者アピールを常に絶やさせない。 そうする事でこいつらは教団と王国の所為で生まれた、または恨みを持った何かと周囲に刷り込む事ができる。
そして仕上げに騒動の終結後に教団の地下施設の存在をバラせば完了だ。
何せ人体実験は本当にやっていたのだから、言い訳は非常に難しい。
どんなものも有効活用するべきだ。 そもそもこの国の連中がロートフェルト様に冤罪(全て真実)をかけたのだ。 やり返されても文句は言えないだろう。
取りあえずこれでライオネルが味方を呼ぼうとしても上がって来るのに時間がかかるはずだ。
その間に仕留められれば最高なのだが――
――ザカリー、どうだ?
――思った以上に手強い。 少しかかる。
階段での戦闘はお互いにやり辛いと判断したのか近くの廊下で派手に斬撃と刺突の応酬を繰り広げている。 確かにあの様子だと時間がかかりそうだな。
俺が援護に入れば多少は楽に片付くんだろうが、煙幕の維持とライオネルの部下の処理があるので俺は俺で身動きが取れない。 ロートフェルト様に関してはヨノモリとアスピザルに任せるしかなかった。
さっきから連絡に応答しないのが不穏だ。 簡単にやられるとは思っていないが、アメリアという女は中々に狡猾な女と聞く。 何かしら罠を張り巡らせている可能性は高い。
そしてロートフェルト様と罠の類は非常に相性が悪い。 あの方は痛みをまともに感じない事もあってそういった物は引っかかってから突破する傾向が強かった。
それでどうにかなるなら問題はないのだが、そうでない場合は致命的だ。
アメリアという女はその致命的な罠を張る類の女である可能性が高い。
だからこそ戦闘能力に優れた二人を送り込んだのだが――
「聖堂騎士の面汚しが!」
斬りかかって来る騎士の剣を左の短槍でいなしてから右の短槍で喉を突いて仕留める。
後ろから斬りかかって来る騎士の剣を僅かに屈んで躱し、足を引っかけて体勢を崩し、襟首を掴んで下へと放り投げる。 これは階段だからこそできる手だな。
俺はお行儀の良い戦い方は出来ないので、こういった癖のある場所での立ち回りは得意なんだよ。
誤字報告いつもありがとうございます。
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