1434 「連去」
「ザカリー、これは一体どういう事だ?」
ライオネルはザカリーを一瞥した後、連れている面子を見て持っていた槍を向ける。
奴の部下もそれに倣うように各々、武器を抜く。 流石は近衛騎士、この辺りの判断は早いな。
「貴様は明日までこの王城へ立ち入る事は敵わないはずだ。 加えて、見知らぬ顔を引き連れて真っすぐに上がってきた。 説明をしろ」
「俺達は教団から枢機卿の警護を命じられた。 この騒ぎだ、何が起こるか分からんからな」
ザカリーは姿を隠しているヨノモリの存在を看破しているであろうライオネルに表情一つ変えずに真顔で言い切った。
だが、ライオネルの疑いを払拭させるには至らない。
「そちらの男は聖堂騎士なのだろうが後ろの連中は何だ? 特にその姿を隠している者。 明らかに普通ではないではないか」
「異邦人だ。 そういえば分かるのではないか?」
「……カステヘルミの配下か」
ライオネルは忌々しいと言わんばかりに表情を歪める。
アメリアの事をある程度知っているのか、ライオネルの口調からはこの国の宰相への敬意は欠片も存在しなかった。
――ロートフェルト様、まだ駄目ですよ。 今は大人しくしてください。
俺は咄嗟に<交信>で左腕を持ち上げようとしたロートフェルト様を制する。
ロートフェルト様は俺を一瞥したが、黙って動きを止めた。
あ、危ねぇ。 この方は面倒になったら何の前触れもなく殺そうとするな。
止めなきゃ仕掛けてたぞ。 戦闘をせずに突破できるならそれに越した事はない。
このライオネルという男、明らかにアメリアに良い感情を抱いていないので口先でごまかす事は可能だ。 具体的には王の警護に専念したがっているようなので、自分達がアメリアや枢機卿の面倒を見るという方向へ話を持って行ければ――
「――っ!?」
不意に耳が異音を拾う。 下からだ。
何だと視線を向けるが遅かった。 辛うじて反応できたのはザカリーだったが、僅かに遅れる。
魔法で姿を隠していた存在が下から飛んで上がってきたのだ。 魔法的な迷彩で姿を隠していたので接近されるまで分からなかった。 姿から転生者である事が分かる。
最初に俺が思った事はまだ異邦人の連中が残っていやがったのかと思ったが、形状に覚えがある。
アスピザル達とダーザイン絡みの一件で戦り合った相手――つまりアメリアの手下だ。
名前は確か――
「針谷さん!?」
そうハリヤだ。 完全に不意を突かれた形になった。
報告によればアスピザルに執着しているようだったので狙いは奴かとも思ったがどうやら違うようだ。
蜂特有の針を向けた先はロートフェルト様だ。 狙われた当人も咄嗟にザ・コアを抜こうとしたが、それよりもアキノの針がその腹に食い込むのが先だった。
「いただき」
……何?
アキノはロートフェルト様に針を突き刺したまま。 飛翔し、そのまま上階へと連れ去る。
ほんの僅かな時間の事だった。 ロートフェルト様の手からこぼれたザ・コアが床をぶち抜いて半ばで埋まった事で呆然としていた連中も動き出す。 ザカリーも剣を振ろうとしたが間に合わないと悟ったようで動きを止める。
「……どういうつもりだ?」
そう言ったのはライオネルだ。 通行を制限している場所まで勝手に部外者を連れて行ったので、そんな反応になる理由は分からなくもないがあの流れを見てこちらに責任を追及するのは少し理不尽じゃないか?
「それはこっちのセリフだ。 あの男は私の部下、連れ去るからには相応の理由があるのだろうな?」
「何を言っている? 奴は異邦人――つまり聖堂騎士だ。 貴様らの管理下にある者だろうが。 俺はまだここを通って良いと許可を出した覚えはない」
ライオネルとその部下は疑いの眼差しを向け、武器に手をかけた。
……不味いな。
連中がロートフェルト様を連れ去って何をするつもりかは知らんが、碌でもない事は確かだ。
――ロートフェルト様。 ご無事ですか?
――あぁ、最上階にある広い部屋に連れてこられた。 これからこの蜂女を始末する。
こういった時、<交信>が使えるのは便利だ。
一先ずは無事だが、明らかに罠なので一刻も早く向かわないと向こうの思う壺となる。
連中がロートフェルト様の正体に気付いているのなら少し不味い。
アメリアは転生者を使っての研究も扱っていると聞く。
ロートフェルト様に何か仕掛けてくる可能性も大いに存在するからだ。
上で派手な衝撃音。 どうやら戦闘が始まったようだ。
「ライオネル。 どうやらお互いに誤解があるようだ。 それを払拭する意味でも全員で上へ行くべきではないか?」
ザカリーが諭すように説得しようとするが、ライオネルは少し待てと通信魔石で上と連絡を取る。
その間に俺はロートフェルト様へ連絡を取りながらザカリーに指示を出し、ヨノモリにザ・コアを回収させる。 あの武器は強化された俺でも重くて持てたものじゃないので一番腕力のあるヨノモリに任せるしかない。 ヨノモリは小さくしょうがないわねと呟きながらザ・コアを持ち上げるが、重いわねこれと小さく呟く。
……アレを小枝みたいに振り回してるんだから凄まじいな。
そんな事を考えていたのだが――
――エルマン。 困った事になった。
――ど、どうされました?
ロートフェルト様は感情の起伏が皆無なので焦っているようには見えないが、困った事になったと口にした場合、言葉通りに捉えるべきだった。 つまり不味い状況のようだ。
――<領域支配>とかいう魔法を喰らった。 身動きが全くとれん。
<領域支配>!?
確か指定範囲の全ての動きを制御できる超が付く高等魔法のはずだ。
存在は割と知られているが、使用する為の魔力と集中力が桁外れなので人間一人の動きを封じるには割に合わない。 つまり実用段階にない魔法だ。
だが、ロートフェルト様が喰らっている以上、テュケの連中は実用段階まで持っていったという事だろう。 本来なら可能な限り穏便に片を付ける予定であったが、止むを得ない。
――ザカリー、時間がない。 ロートフェルト様が危険だ。
――分かった。 強行突破する。
「あの音を聞いても何も感じないのか? 恐らくあの異邦人は教団の裏切り者だ。 我々の管理下にない以上、枢機卿や宰相殿に危険が及ぶやもしれん。 俺達はそれを看過できない」
そういうとザカリーは剣を抜く。 ライオネルに対しての最後通告だ。
通してくれるならそれでよし。 そうでないなら倒して突破するしかない。
誤字報告いつもありがとうございます。
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