1432 「頭打」
現状、最も火力のあるロートフェルト様は俺とは比べものにならないほどの人外だ。
呼吸を封じた程度で止められる訳がない。
「止めなさい! 止めなさいと言っているのが分からないのですか!」
ロートフェルト様はジネヴラを完全に無視してザ・コアで壁を破壊して行く。
相当頑丈な造りではあったがザ・コアの破壊力に抗う事は難しかったようだ。
叩きつけられる度に亀裂が入り、砕け散る。 最初にやった派手な攻撃は繰り出してこない。
どうやら相手の攻撃ありきの代物だったという俺の予想は間違っていないようだ。
カウンターは相手が何もしてこないと意味をなさない。 損壊が三割に達した辺りで変化が起こる。
光っていた壁や床の輝きが弱まったからだ。
「取り敢えず僕でも干渉は出来そうだ」
不意に呼吸が戻る。 どうやらアスピザルが魔法でどうにかしたようだ。
呼吸ができないと思考力に悪影響が出るからありがたい。
「あ、ぐ」
不意にジネヴラが苦しみ始め、法衣のあちこちに血が滲み始めた。
「や、止めて……この建物がなくなると、わたし、わたし……」
理由は不明だが、この派手な力を振るう事と代償を踏み倒す為に建物が必要だったらしいな。
詳しくは頭に聞けばいいか。 ジネヴラは全身を襲っているであろう苦痛に表情を歪ませながらロートフェルト様を止めようとしており、それに意識の全てを集中していた。
……この辺りはガキだな。
視野が狭い。 だからこんな簡単な事を見落とす。
背後に忍び寄っていた俺は短槍の石突部分でジネヴラの後頭部を打ちぬいて意識を刈り取った。
ガキを殴るのはあまり気は進まないが、こいつは危険すぎる。 崩れ落ち、動かなくなったジネヴラを見てふうと小さく一息。 ロートフェルト様へ頷いて見せる。
聖堂の破壊を止めて意識を失ったジネヴラの頭を乱暴に掴んで持ち上げた。
「あー、僕は何も知らないし見てないから」
アスピザルはそう言って後ろを向く。 賢明な判断だな。
――行けそうですか?
ダーザインの連中のように妙な仕掛けが施されていると面倒だったので確認したのだが――
――あぁ、行けそうだ。
洗脳処理を済ませ、ジネヴラの治療を行うと今度は俺の頭が鷲掴みにされた。
――あのー、これは?
――抜いた記憶を送る。
またかよ!?
――ちょ、待っ――
いきなりは勘弁して欲しい。 言いかけたが頭をぶん殴られたような衝撃と情報の洪水。
ジネヴラの全てを流し込まれた。 恐らく面倒だったので精査せずに纏めてぶち込んできたのだろう。
別に問題はないんだが、感情やらの余計なものまで送り込まれると自己が揺らぐのであまり歓迎したくない。 与えられた情報をどうにか切り分け、必要なものだけ抽出。
……なるほど。
取り敢えずではあるがこいつの知っている事に関しては理解した。
一番面白いのはこの王都にはアメリアの研究施設がある事、結構な期間拠点に使っている街だったが、そんなものがあったとは知らなかったぜ。 しかもここの地下で、王都全体を移動できるように隠し通路が張り巡らされている。 つまり地下の施設の構造を把握できるのならこの街で入れない場所はない。
ただ、ジネヴラの頭の中にはそんな施設があるという情報だけで実際に入った事は数えるほどしかなかったようだ。 概要しか情報が出てこない。
それともう一点。 ジネヴラが使用した妙な力についてだ。
『権能』と呼ばれる魔法の上位互換のような代物らしい。
ジネヴラ曰く、天使様から賜る奇跡だそうだ。 何だそりゃとも思うがあながち間違いでもない。
どうも天使から力を借りる形で行使するらしいので、間接的に天使の力を扱っている事になる。
天使や悪魔はここではないどこかから呼び出す異界の存在だ。
この世界の生物とは根本的な部分で違っているので、息をするような感覚で魔法やそれに似た術技を扱う事ができる。 要は生物として魔法の適性が尋常ではなく高いのだ。
……そりゃ強い訳だ。
だからと言って使い放題という訳でもないらしく、この聖堂に負担を肩代わりさせないと肉体が保たないようだ。 ぶっ壊された結果、使い切れずに自滅と。
明らかに前衛ありきの運用が求められるのに単独で置くとは危機感が足りてないんじゃないか?
一応、さっき始末した異邦人の連中がその前衛を担っていたらしいがもういないからどうしようもない。 それと権能について少し懸念がある。
「起きろ」
俺はジネヴラを揺り起こす。 ジネヴラは小さく呻いて目を覚ました。
「状況は分かってるな」
「はい、私は新しい信仰を貫く事を誓います」
ついさっきまで侮蔑の表情を向けていたロートフェルト様へ尊敬の眼差しを向けている。
こうして傍から見ると洗脳ってヤベぇなと思ってしまった。 されている俺がそう思うのもおかしな話だが、外から見ると改めてそう感じる。
「まずは確認だ。 『権能』は扱えるか?」
「? そのはず――どうやら無理のようですね」
ジネヴラは権能を扱おうとしたが不発に終わった。 記憶を精査した事で扱う為の条件や適性を考えると難しいのではないかと考えていたが、案の定だ。 可能であれば戦力として運用したかったが、権能が扱えない以上、ジネヴラは非戦闘員としてしか扱えない。
「一先ず、お前を外の味方に引き渡す。 その後は指示に従って安全な場所まで避難していろ。 何かあれば連絡するから大人しくしていろよ」
「分かりました。 ご武運をお祈りしております」
聖堂の外に出るとこちらもちょうど終わる所だった。
逃げようとしていたエイジャスがザカリーに斬られ、派手に血を流す。
「が、何故、貴方ほどの男が……」
「色々あったんだ」
ザカリーはそう答えると剣を一閃。 エイジャスの首が飛ぶ。
頭部を失った胴体は僅かに間を置いて爆散。
「こいつ等には機密漏洩防止の対策は施されていたんだな」
そう呟きながら内心でどちらかと言えば裏切り防止かと思いながら周囲を見ると審問官は一人も残っていない。 そこそこ数が居たのでヨノモリとイシキリは少し息が上がっていたが、ザカリーは涼しい顔をしていた。 この辺りは経験の差か。
「戻ったか。 その様子だと首尾よく進んだようだな」
「あぁ、枢機卿は抑えたから後は王城だな。 ――ただ、これだけ派手に騒ぎを起こしちまったからなぁ……」
面倒にはなったがまだ、致命的に失敗した訳ではないのでどうにでもなる。
誤字報告いつもありがとうございます。
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