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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
ΑνοτηερⅠ-Ⅱ Στοριες τηατ μακε Ηαρδ ςορκινγ περσον α λιττλε λεσς ηαρδ ςορκⅡ
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1430 「突入」

 「いや、アレを防ぐなんて凄いね」


 いつの間にか隣に来たアスピザルが感心したようにそう呟くが、口調からはそこまでの驚きはない。

 何故なら、もう終わったと認識しているからだ。 すっと転生者に手を翳すと必死に砲の威力に抗っていた鎧に亀裂が走る。 転生者がその変化に動揺したかのように体を震わせるがもう遅い。


 威力を殺しきれず、そのまま蒸発した。 同時に施設自体にも巨大な風穴が開いたが。

 これで転生者は全滅したが、侵入がバレてしまった。 


 ……あぁ、やっちまった……。


 いや、膠着に持って行かれた時点でもう隠密行動は無理だった。

 そう自分に言い聞かせて脳裏でこの後の予定を組み立てる。 

 目的はあくまでアメリアでここは通過点に過ぎないのだ。 躓いている場合ではない。


 「バレた以上、時間はかけられません。 急ぎましょう」


 俺はロートフェルト様にそう促して走り出す。 

 戦闘中、外にいた工作員がカサイに話を聞いていたので目当ての場所ははっきりしている。  

 この奥――要は城塞聖堂の最奥に存在する聖堂。 そこが枢機卿の住居兼職場だ。


 話によれば司教枢機卿は基本的にそこから動かないとの事。 

 助祭に関してはどうも用事で他所に行っているのでそもそも王都にいないらしいので、考える必要がない。 まだ時間は経っていない、下手に対策を練る時間を与えるべきではないのでここは急ぐ必要がある。


 異邦人居住区を抜けて奥へ向かう。 

 少し長い廊下を抜け、大扉を開けると広い庭園に真ん中に存在感を主張する聖堂。

 あれか。 警備は――まぁ、そりゃいるよな。


 聖堂を守るように無数の人影。 聖騎士かとも思ったがどうにも毛色が違う。

 装備から拷問などを生業としている者達――審問官だという事が分かる。

 

 ……あぁ、あいつの部下か。


 「これはこれはエルマン聖堂騎士ではありませんか? こんな時間に何か御用ですか?」

 

 そう言って出てきたのは俺に面白くもない尋問を繰り返した男――エイジャスだ。

 

 「よぉ、エイジャス。 実は枢機卿殿にお伝えしたい事があってつい来ちまったぜ」

 

 俺の返しが不快だったのかエイジャスは僅かに眉が動くが、もう話す必要もない。 

 枢機卿とやらの戦闘能力が未知数である以上、個人戦闘能力に優れた者で突入して残りはここで審問官の相手だ。 


 ――ロートフェルト様。 先に行ってください。 ここは俺とイシキリ、ヨノモリの三人で抑えます。


 ――いや、ここにはザカリーを残してお前も来い。 


 ――了解です。


 何があるか分からん以上、俺もいた方がいいか。

 即答し、アスピザルに頷いて見せる。 


 「梓!」

 「分かったわ! イシキリさん、食い止めるわよ!」

 「おう! 任せとけ!」

 

 血の気の多いイシキリは早々に突っ込んでいき、ヨノモリがそれに続く。

  

 「片付けたら戻る」

 「了解だ。 できればそちらが片付く前に始末をつけるつもりではあるが――」

 「エイジャスさえ逃がさなければ後はどうとでもなる」

 

 それだけで伝わったのかザカリーは小さく頷く。

 伝えるべき事は伝えた。 後は枢機卿と対面するだけだ。

 ロートフェルト様を先頭に立ち塞がる連中を薙ぎ払い。 聖堂の中に。

 

 審問官達は行く手を阻もうとするが、ザ・コアの一振りで瞬く間に肉塊へと変えられる。

 こいつらの本領は拷問や尋問にあるので戦闘に関しては二流もいい所だ。 

 そんな連中を狩り出している時点で聖堂内部に碌な戦力が居ない事は分かり切っている。


 扉は施錠されていたが、ロートフェルト様がザ・コアの一撃で破壊して中へ。

 奥へ入ると広大な空間が広がっている。 礼拝堂にも見えるが、随分と緻密な装飾が施されていた。

 そしてそこには一人の少女。 教団の法衣を身に纏ったその娘はゆっくりとこちらへと振り返る。


 「侵入者ですか。 それも栄えある聖堂騎士が裏切るとは、嘆かわしい話ですね」

 

 少女は見た目からは想像もできないほどに落ち着いた口調で俺達を真っすぐに見つめる。

 こいつが枢機卿って事で間違いないのだろうが、まだ子供だぞ。 

 教団は一体何を考えて――


 俺の思考はロートフェルト様のザ・コアが吐き出す唸るような駆動音に搔き消される。

 頭に直接聞くつもりなのだろう。 無駄な問答は無用と言わんばかりに突っ込んでいく。

 

 「まるで魔物ですね。 ですが、いいでしょう。 人里を侵した害獣として駆除するとしましょう」


 枢機卿の全身とこの空間全体が輝きを放ち、空気の流れが変わる。

 よく分からんが不味いという事だけは分かった。


 「『Φαιλ ις(失敗) ιν τηε(するは) ηθμαν(人間) βεινγ, (にして)ιτ βεψομες(その心) Γοδ το(配を) τολερατε(寛容するは) τηε ςορρυ(神なり)』」


 ――ロートフェルト様、お待ちを――


 俺の制止は間に合わずロートフェルト様は何かにぶん殴られたかのように吹き飛んだ。

 人形か何かのように軽々と壁に叩きつけられてズルリと落ちる。

 枢機卿はその姿をつまらなさそうに見た後、言葉を紡ぐ。


 「まだ名乗っていませんでしたね。 私はジネヴラ・リアム・ユーゴ・ウェンティア。 グノーシス教団・第八司教枢機卿。 この栄光の地を預かる者。 我が使命は世界の痛みを取り除き安寧の次代を築く事。 愚かな侵入者よ、我が教団の道を阻むというのなら我が名の下に滅ぼす事を約束しましょう」

 

 俺は無言で二本の短槍を抜く。


 「おい、何をしたか分かるか?」

 「魔力が動いてるのは確かだから魔法だとは思うけど、僕達が使っている物とはちょっと毛色が違うね」

 「何かで底上げしていると?」

 「それもあると思うけど根本的な部分で違うんじゃないかな?」

 「他は?」

 「分かんない」


 後は要検証って事か。 ただの偉そうなだけのガキであるなら楽だったがそうもいかないようだ。

 空気の流れを感じた以上、風系統の魔法である事は間違いない。 

 なら、どういった物かを調べる必要がある。 殺すだけならいくつか手段はあるのだが、助祭枢機卿が居ない以上、情報を引き抜くのにこいつの脳みそは必要だ。


 ロートフェルト様の心配はしない。 あの方があの程度でくたばる訳がないからだ。

 アスピザルと俺は狙いを散らすべく、左右に散開。 アスピザルが無数の氷柱を生み出して射出。

 同時に俺は短槍を全力で回して煙を撒き散らす。 まずはあの風がどういった特性を持ってるのかを掴む。 


 アスピザルの魔法による弾幕は枢機卿――ジネヴラに到達する前に停止。


 「止められた」

 

 結果を端的に伝えられた。 なら俺の煙はどうだ?

 紫の煙がジネヴラに触れようとしたが――  

誤字報告いつもありがとうございます。


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パラダイム・パラサイト一~二巻発売中なので買って頂けると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新楽しみにしてました!悪のエルマンさんなんか久しぶりですね(*´∀`) 隠密行動という事を完全に理解していたはずの主によるこの蛮行よ……敵よりも主の方が恐ろしい。ま、まぁアスピザルのように…
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