1429 「火砲」
解放は大きなメリットがあるが、時間を過ぎるとしばらくの時間、完全に動けなくなってしまう。
仮に仕留めたとしても自分が動けなくなってしまえば何の意味もない。
加々良の理想としては目の前の敵を瞬殺してもう一人か、二人を仕留める事が出来れば完璧だ。
――だが、解放を用いたとして目の前の敵を仕留める事ができるのだろうか?
得体の知れない敵に対しての警戒が彼の判断を鈍らせる。
だからこそ、判断が致命的に遅れてしまった。
不意に背後に気配。 ぞわりと彼の背筋に悪寒が走る。 同時に何故といった疑問が浮かぶ。
こんな開けた場所で背後を取られる? どうやって?
魔法的な迷彩を行うにしても気配を完全に消す事は不可能だ。
それとも自分は背後に忍び寄られた事に気付かないほど、目の前の敵に集中していたのか?
分からないが背後の気配に今すぐに対処しなければ不味い。
「がぁぁぁ!」
加々良は吼えるようにハルバードを背後に向けて一閃。
完全に入ったと確信したが、手に伝わったのは空を切った感触だけ。
半分振り返った加々良が見たものは何もない空間だけだった。
何故と思ったが、一瞬で答えに辿り着く。 気配だけのデコイ。
やられたと思ったがもう遅かった。 メキリと脇腹に掘削機のような代物が深々とめり込み、次の瞬間には自分の胴体の半分近くが掘り返されて挽き肉へと変わる。
激痛に加々良は悲鳴を上げるが、彼はまだ生きていた。
その体には力が満ち、傷口が再生して破壊に抗う。 解放を用いた事によって強化された再生力だ。
体内を滅茶苦茶にされながらも解放を用いてこの危機的状況を脱しようと命を全力で燃やす。
彼の最後まで諦めない意思はまさに不屈と言っていいかもしれない。
――が、それもうなじから入って貫通した短槍によってぷっつりと断ち切られた。
人間であるなら致命傷も転生者なら僅かな時間で回復するのだが、この一撃は決定的だ。
思考と肉体を物理的に切断された加々良は最後の抵抗を行うタイミングを外し、体を抉る異物に対して僅かな、それも致命的な時間無防備になり――胴体が完全に粉砕された事によりその命を終えた。
「か、加々良さん!?」
誰かの悲鳴が上がる。
加々良と言う男は明らかに全員の精神的な支柱も兼ねていたので崩せると大きく揺さぶれると思っていたが効果は思った以上だ。 俺は内心でまず一人とカウントする。
元々、ロートフェルト様が優勢で進めていた戦いだ。 少しバランスを崩してやればあっさりと決着するのは分かり切っていた。 仕掛けるタイミングも<交信>を用いれば簡単に合わせる事が出来るので、俺にとっては楽な作業だ。 何せ装備の能力である任意の場所に気配を発生させるというものを良い所で使うだけだからな。
これは鎧に付与された能力で気配だけで実像すら発生させる事も出来ない大した事のない能力ではあるが、上手く使えば御覧の通りだ。 まずは一人と言いたいが、これはもう終わりが見えたな。
加々良が死んだ事で半数近くが戦意を大きく抉り取られていた。 後はこのまま畳みかけたいと思っていたが、問題は残りの半分だ。
「加々良さん! くそぉぉ! 許さない! 許さないぞお前達!」
「よくも我々の同胞をやってくれたな。 我が正義の最終奥義を見せてやる!」
即座に解放を使用。俺は投げた槍を戻しながら妨害を諦める。
直情傾向にある奴は後先を考えないから変に判断が早い。 戦闘能力が爆発的に上昇するのは厄介だが、それ以上に厄介なのは逃げられる事だ。 なら、俺がやる事は一つ。
ロートフェルト様がトウドウへと突っ込んでいくのを尻目にもう一度鎧の能力を使用。
飛んでいる転生者の真後ろに気配を出現させる。 加々良の死で逃げ腰になっていた転生者は息を呑んで持っていた細剣を振るう。 同時にアスピザルの魔法が次々と命中して墜落。
転生者はしぶとい事をよく理解しているアスピザルは落下した後に氷柱を執拗に撃ち込んでとどめを刺す。
二人。 トウドウとイシキリと戦っていた人型が、ロートフェルト様の方へ行く。
鎌持ちは棒立ちで「マジかよ……」と呟いていたが、当然ながらそんな隙を見逃すはずもなく容赦なく手の空いたヨノモリが正面から顔面を殴って地面に叩きつける。
苦し気な声を上げ、痛みで我に返ったようだがもう遅い。 倒れた所に真上から丸まったイシキリが全身を使って体当たり。 地面が大きく陥没し、ボキボキと固い物が折れる音が無数に響く。
「北間君! 貴様らぁ! 消し飛べ『絶対正義――」
長剣持ちの鎧が展開して内部の機構が輝くが、やらせる訳がないだろうが。
俺は加々良の落としたハルバードを拾うと全力で投擲。 眷属になる前は重くて持てたものではない代物も今の俺なら何の問題もない。 ハルバードは唸りを上げながら長剣持ちの鎧に突き刺さる。
察するに何かを撃ち出すんだろうが、大きな隙も作らずに撃とうとする辺り周りが見えていない。
発射前に大きく破損した事により、正常に機能しなくなったのか派手に爆発が起こる。
轟音と共に長剣持ちが吹っ飛んでいく。 それを見て小さく舌打ちする。
思った以上に派手に音が鳴ったが、問題は衝撃の方だ。
これは隠しきれない。 どうしたものかと脳裏でいくつかの行動を組み立てるが、どれも中々に厳しいな。 このままではそうかからずに聖騎士が押し寄せる事になる。
「き、貴様……」
しぶとく起き上がろうとする長剣持ちだったが、いつの間にか背後にいたザカリーが首を刎ねてとどめを刺す。
「エルマン。 ロートフェルト様と先に行け! 残りでここを抑える」
ザカリーの提案に俺はそれしかないかと腹を決める。
ただでさえ少人数の状態で手分けをするのはあまり好ましくないが、やるしか――
「いや、もっといい手がある」
俺が何か言う前にロートフェルト様が魔法でトウドウを近くにいたメイス持ちの方へと吹き飛ばす。
あ、これは不味い。
「ま、待ってくださいそれは――」
「第二形態」
咄嗟に止めたが遅かった。
ザ・コアは形状を金棒から砲へと変えると凄まじい勢いで魔力を充填。
止める間もなく発射。 指向性を持った魔力が二人の転生者を消し飛ばそうと牙を剥く。
「藤堂君! 私の後ろに!」
メイス持ちが武器を放り捨てると背を向けて防御態勢。
無駄だ。 アレの威力は並大抵の事では――って防いでやがる!?
転生者の守りはザ・コアの砲の威力にしっかりと抗っていた。 冗談だろ?
誤字報告いつもありがとうございます。
次回以降の更新はICpwとなります。
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