1428 「圧戦」
カサイを見送った俺は戦場へと戻る。
一人減ったので残りは七人。 俺は何処に混ざるべきか……。
俺はざっと再開された戦闘へと目を向ける。
ロートフェルト様はザ・コアを軽々と振り回し、カカラはそれをハルバードで迎撃する。
一度打ち合う度に凄まじい金属音が響き、目を凝らすと金属の欠片のようなものが僅かに飛び散っていた。
あの様子だとカカラの武器は長くは保たないな。 武器のダメージが気になったのか、カカラは距離を取ろうとするが、ザ・コアの間合いから離れると左腕が飛んでくる。
こうしてみると戦い方の組み立ては単純ではあるが、それ故に穴が少ない。
ザ・コアはまともに貰えばひき肉どころか血煙に変わるので、アレとまともに打ち合おうと考える者は少ない。 だからと言って距離を取れば左腕が刈り取りに来る。
あの生体武器の攻撃範囲の広さは初見ではまず見切れない。 不可視であるので猶更だ。
把握したいなら数度は受けに回る必要がある。 そんな悠長な真似をしている間に受けきれずに即死するだろう。
――単なるゴリ押しとも言えるが。
あの様子だと援護をするまでもなく終わりそうだ。 次にヨノモリ。
トウドウの長柄の戦槌を器用に掻い潜り、時には籠手で受け止め懐に飛び込むと拳で脇腹や胴体を狙って固めた拳で撃ち抜く。 恐らくは打撃の通りが良い場所を探しているのだろう。
同じ転生者ではあるが技量の差は歴然だった。 ヨノモリはあの巨体で随分と軽快な動きをする。
攻撃を受ける際も戦槌のヘッド部分ではなく、柄を止めるようにしているのも上手い。
あの武器は明らかに魔法付与が施されているので受けるにしても危険だと理解しているからだ。
立ち回りを見る限り冷静なのであの様子だと心配はなさそうだった。
視線を上げると羽の生えた転生者が羽から粉のようなものをばら撒こうとしていたが、アスピザルは魔法で吹き散らし無効化しつつ、無数の水の塊を射出している。 固形物を飛ばさないのは建物への配慮からだろう。 下手に岩や氷を飛ばすと建物に当たった際にあちこちに衝撃が走り、気付かれる可能性が上がるからだ。 対する転生者は逃げ回るだけで効果的な攻撃ができていない。
恐らくは羽から出す粉が主な攻撃手段なのだろうが、そもそも届かないので持っている細剣での刺突しか手段がない。 だが、魔法の弾幕で近寄れないので逃げ回る事しかできないのだ。
こちらも決着は時間の問題だろう。 残りの二人だが、まずはザカリー。
鎌と長剣持ちを纏めて相手にしているが、対等以上に戦えている。
装備の質は同等。 身体能力はロートフェルト様の眷属となった事で向上してはいるが、転生者と比べると数段は劣る。 だが、それを補って余りある技量によって二対一の不利を跳ね除けていた。
危なげなく戦えていると言えるだろう。 で、残りのイシキリだが――
「グハ、いいねぇ。 良い打撃じゃねぇか! もっと! もっと来いよぉぉぉ!!」
何故か痛めつけられて興奮していた。 殴られて感じてんじゃねぇよ。 気持ちの悪い奴だな。
だからと言って黙ってやられている訳ではなく反撃を試みようとしているが、上手く行っていない。
イシキリは体の形状的に防御面では非常に優れているが、攻撃面ではかなり劣る。
体の形状が干渉するので打撃が上手く繰り出せないのだ。 その点、似た形状の敵は上手かった。
可動域は狭いが膂力はあるのでメイスを使ってボコボコとイシキリを殴っている。
一緒に戦っている人型は妙に長い腕を活かして鉤爪で関節を狙って斬ろうとしていた。
通りは悪いが、効いてはいるようでイシキリは体のあちこちから血を流していた。
ただ、転生者なので回復が早く傷はすぐに塞がるが消耗を強いられる事にはなっている。
さて、一通り確認した事で俺のやるべき事を確認。 時間もないしさっさと片付けよう。
加々良 巌は追いつめられていた。
彼は転生者による聖堂騎士『異邦人』のリーダーとしてこの場を任されている。
その為、部下の命を預かっている事を強く意識していた。 元々、警備関係の職に就いていた彼は戦闘に関する事への抵抗は比較的ではあるが低かった事もあって、早い段階から頭角を現し聖堂騎士としての実力も認められている。 加えて人を扱う事にも長けており、部下からの信頼も厚い。
戦闘能力と統率力。 この二つを高い水準で満たしているのが加々良という男だ。
異世界に落ちてからグノーシスで聖騎士として学んだ成果もあるが、転生者として恵まれた身体能力により戦闘面では苦戦した事がなかった。 だからだろうか?
少し慢心していたようだ。 どんな相手でも本気を出した自分ならどうにでもなると。
彼のそんな自信を打ち砕く相手が目の前にいる。 掘削機のような奇妙な武器を扱う男で、能面のように全く動かない表情が不気味だった。 何より恐ろしいのはその膂力だ。
加々良のベースはバッファローに似た魔物で変異先としては当たりの部類に入る。
特に膂力に関してはかなりの自信があったのだが、打ち合う度に僅かに体勢が崩れ慌てて立て直す。
驚くべき事に自分が力負けしているのだ。 人間を大きく超えた身体能力を得た自分が、最も自信のある腕力で負けている。 どうなっているのか理解できない。
何かしらのアイテムで底上げしているのだろうか? それにしても限度がある。
振り回している武器も打ち合った感触から重量は百キロを軽く超えているだろう。
それを片手で小枝のように振り回しているのだ。 尋常ではない。
ちらりと武器を見る。 聖堂騎士専用の特注品なのだが、表面に無数の傷が走っていた。
明らかに傷み始めている。 このまま膠着状態を維持する事は可能だが、勝利となると難しい。
技量では勝っているのだが、純粋な身体能力で押し込まれる。 一体、何なのだこの敵は?
加々良は内心の動揺を抑えつけて考える。 どうするべきかを。
膠着を維持し、外の者達が異変に気付くまで時間を稼ぐか?
周囲に視線を走らせると部下達も苦戦していた。 この状況で一人でもやられてしまえばそこから一気に崩されるのが目に見えている。 今のままでは打開は不可能。
だが、手段がない訳ではない。 転生者には一つ切り札とも呼べるものが存在する。
「解放」と呼ばれ、使用すれば身体能力を爆発的に強化できるので、ネックであったスペック差を覆せるが、非常にリスクの高い手段でもあった。 制限時間だ。
誤字報告いつもありがとうございます。
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