1424 「共行」
「おい、さっさと起きろ」
俺は意識を失っているザカリーを叩き起こす。
時間もない上、やる事も多いので待つなんて悠長な真似は出来ない。
ザカリーが小さく呻いて目を覚ます。
「自分の状況は分かっているな」
「……あぁ、俺は何をすればいい?」
「取り敢えず、王城と城塞聖堂深部の――」
聞く事は事前に纏めておいたのだが、不意にロートフェルト様が俺の頭を鷲掴みにする。
「あのー、何でしょうか?」
「聞くよりはこうした方が早いだろ」
何をされるか悟った俺はやや表情を引きつらせる。
「ちょ、待っ――」
瞬間、俺の頭の中にザカリーの記憶が全て叩き込まれた。
凄まじい量の情報に頭をぶん殴られたような衝撃が襲い、意識が飛びかけたがどうにか耐える。
恐らく精査するのが面倒だったので全部ぶち込んだのだろう。 自分の記憶に他人の記憶が混ざる違和感で凄まじく気持ち悪いが、必要な情報は全て手に入った。
「できれば次は事前に断りを入れて頂けると助かるんですが……」
「そうか」
一応、抗議はしておいたがこれは駄目そうだ。
さっきも言ったが今夜はとにかくやる事が多い。 次へ急ごう。
俺、ロートフェルト様、アスピザル、ヨノモリ、イシキリにザカリーを加えた俺達は夜の王都を走る。
派手に暴れて敵対勢力を正面から叩き潰そうとするロートフェルト様に俺は標的だけ消して比較的、穏便に事態を収める手段を提案した。 要は方針を決めている奴がいて、そいつ等がロートフェルト様を欲しがっているのだ。 そいつらをどうにかすれば余計な手間も死人も出さずに済む。
――失敗したら俺のプランで行く。
ロートフェルト様は納得してはくれたが、そんな事を言っていたので意地でも成功させる。
今日までにしっかりと準備を行ってきたのだ。 エルマン・アベカシス、お前ならやれる。
俺は自身にそう言い聞かせて計画の当日である今日を迎えた。
降臨祭前夜。 俺の見立てでは一番緩むタイミングだと思っている。
準備も終わっており、後は当日を迎えるだけ。 本来なら終了直後が最も望ましいのだが、ロートフェルト様のプランとの兼ね合いで前日となった。 混乱を招く以上、派手にやるなら当日でなければ効果がないからだ。
さて、方針は決まり、まずは何をするかと言うとザカリーを引き込み、最新の警備情報を手に入れる。
城塞聖堂、王城と警戒が厳重な場所はある程度の把握は可能ではあるが、標的周りに関しては限られた者にしか知らされないので万全を期す為に戦力の増強を兼ねてザカリーを狙ったのだ。
行動パターン、生活サイクルに関してはサリサが街中を走り回って手に入れてくれた。
家の場所、よく立ち寄る店、帰宅の頻度。 奴は警備の中でも枢機卿の直衛なのであまり城塞聖堂から出てこないが定期的に休む為に帰宅している。 ここ最近は降臨祭の準備で帰宅が出来ていなかったので、前日か終了直後に帰される可能性は高かった。 来るかは運もあったが、夕方に引継ぎをしていたようなので行けると確信し、こうして待ち伏せを行ったのだ。
強化された俺ならそこそこ以上にやれたが、俺は肩書こそ騎士だが、騎士道精神は持ち合わせていないので確実に勝てる状況に持って行く為に全員で囲んで捕らえた。 ロートフェルト様の洗脳が効くかは微妙だったが、通って良かったと胸を撫で下ろす。 これに関しては判別する手段がないので、完全に賭けだった。
「えーっとザカリーさん?は仲間になったって事でいいの?」
「あぁ、よろしく頼む」
アスピザルの質問にザカリーは即答。 その様子にやや顔を引きつらせる。
俺の出した煙のお陰で具体的に何をしたのか見えていなかったが、さっきまで敵だった奴がいきなり仲間になったのだ。 俺も知らなきゃ同じ顔をしていただろうな。
後ろのヨノモリとイシキリも困惑の色が強いが、構っている余裕はない。
「えーっと目的地は城塞聖堂でいいんだよね?」
「あぁ、まずは枢機卿の処理だ」
ヒラの聖堂騎士だった俺にはあまり情報は降りてこなかったが、ザカリーはそうでもなかったようで色々と面白い事が分かった。 まずは枢機卿は三名。
それぞれ、司祭、司教、助祭と三人で構成されており、司祭がトップ、司教は幼い少女のようで神託のようなものを担っているらしい。 これに関してはザカリーも詳しくは知らなかった。
そして助祭は司祭の補助、恐らくは何あった時の予備だろう。
権限としては司祭が一番上になる。 その為、司祭枢機卿を洗脳できればグノーシスに関する問題は解決するだろうが、生憎と司祭枢機卿は王城なので城塞聖堂にはいない。
どうも王国側との折衝役も兼ねているので、基本的に城から動かないようだ。
だったら標的が集中している王城へ向かうべきだと思うだろうが、そうもいかない。
ザカリーに関しては失敗しても立て直しは効いたが枢機卿に関しては殺してしまうと非常に不味い。
いや、殺す事自体は問題ない。 問題は全員殺してしまう事だ。
要は司教か助祭枢機卿のどちらかを確保しておく為に向かっている。
片方が生きていれば洗脳が効かなかった場合や不測の事態で殺してしまっても何とかなるからだ。
テュケに関しては情報が少なすぎるのでアメリアは最重要の確保対象となるが、一番厳重な場所にいるのであいつは最後に回す。 これに関しては順序というものがあるからだ。
力押しで闇雲に突っ込むのは馬鹿のやる事なので俺は最小の労力で最良の結果を叩きだすべく根回しを行ってきた。 建物の屋根を移動して距離を稼ぎ、人気のない所で降りる。
ヨノモリとイシキリは魔法で姿を隠し、城塞聖堂へ続く跳ね橋へ。
制御を管理している小屋へ向かい軽くノック。 即座に応答し、聖騎士が数名出て来た。
「首尾は?」
「問題ありません」
俺が来たと同時に奥にいた聖騎士が装置を操作して跳ね橋を下ろす。
「どうぞお通り下さい」
「ご苦労さん」
こいつらは事前に捕らえて洗脳を施した連中だ。 サリサは本当によくやってくれた。
人員の配置、どいつを寝返らせればスムーズに中に入れるか。
その全てをほぼ一人で調べ上げてくれたからだ。 途中からは引き込んだ連中にも協力させたが、あいつの功績は大きい。
ズンと少し重い音が響き、跳ね橋が降りた。
俺は頷いて見せた後、歩き出すと他も付いてくる。 さぁ、ここからが厄介だ。
上手く乗り切れると自分に言い聞かせて跳ね橋へと足を踏み出した。
誤字報告いつもありがとうございます。
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