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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
ΑνοτηερⅠ-Ⅱ Στοριες τηατ μακε Ηαρδ ςορκινγ περσον α λιττλε λεσς ηαρδ ςορκⅡ
1423/1442

1422 「祭前」

 今の王都はある行事を控えており、それによりあちこちで慌ただしく人や物が動いている。

 降臨祭。 所謂、ウルスラグナの建国祭なのだが、グノーシスと共同でやるので規模が大きい。

 俺は準備で慌ただしい王都をのんびりと歩く。 ロートフェルト様やアスピザル達は隠れ家から出ないようにしつこく念を押した上、サリサを見張りに付けたので何かやらかすような事にはならないはずだ。


 準備は終わった。 

 あの面子でよく破綻せずにここまでこれたものだと自分で自分をほめてやりたい。 

 作戦もしっかりと練り、関係者には細かく、そして分かり易く指示も出した。

 

 後は決行を待つだけだ。 今夜、日が落ちてから始める。

 理想形は国民達には何も知らずに降臨祭を迎えて貰う事だ。 秘密裏に決着を着ける。

 その為に必要な情報を集め、戦力も揃え、口を開けば皆殺しにすればいいじゃないかという主をどうにか宥めた。 恐ろしい事にロートフェルト様は降臨祭が始まったらそこにレブナントの群れを突っ込ませるつもりだったらしい。 


 ……あぁ、阻止出来て良かった。

 

 俺はほっと胸を撫で下ろし、精神衛生上あまりよろしくない考えを思考から蹴り出す。

 ちらりと周囲に視線を巡らせると祭りの準備をしている姿が嫌でも目に入る。

 降臨祭か。 ウルスラグナ建国の祭りと言うのが表向きの理由ではあるが、グノーシスが大きく関わっている点からも実際の意味合いはやや異なる。


 ウルスラグナの歴史は部族間の闘争から始まっており、南に広がるアープアーバン未開領域のお陰で他国との交流がほぼ皆無でだった事もあって少ない領土を取り合おうと躍起になっていたのだ。

 国内の各地にはその頃に使われた廃砦がまだまだ大量に残っている。 未開拓の領域や邪魔にならない位置に存在する物は撤去に金がかかるので好き好んで片付ける領主がいないのだ。


 ……で、盗賊の根城になると。


 どこも金に余裕がないので余計な出費を嫌がるのは良くある事だ。

 ――話を戻そう。 そんな群雄割拠の中、ある部族が大きく力をつけ瞬く間に全土を平定してしまう。

 それがウルスラグナの初代国王タルコットだ。 自力でそれを成し遂げたのなら大したものだが、そうではなかった。 タルコット王には他とは違うものを持っていたからだ。


 それが国の外から現れた者達――グノーシスだ。 グノーシスはタルコット王に武具を与え、戦力を与え、知恵を与えた。 それにより連戦連勝し、ウルスラグナという国家が誕生したのだ。

 

 ……貰ってばかりだな。


 かなり抑えた表現にもかかわらず全てが借り物である事が分かる。

 これで良かったのかよと思わなくもないが、結果としてウルスラグナは国としてうまく回っているのでどう思っていたのかは不明だが平和にはなった。 さて、ここで疑問だが、何故グノーシスはこんな大陸の北にある辺境まで出向いて建国の手伝いなんて面倒な真似をしたのか?

 

 結果から逆に考えれば簡単な話でグノーシスはこのウルスラグナで国教として自分達の教えを――正確には勢力を広げたかったのだ。 世界的な勢力の大きさを考えれば他所でも同じ事をやっている事は容易に想像がつくが、随分と手際がいいとも思ってしまう。


 世界的な権力の拡大を狙った手腕は明らかにこの状況を狙っての行動だろう。

 考えれば考えるほどにグノーシスは厄介な相手だ。 安易に敵に回すのは得策ではない。

 少なくとも組織の全容を把握してからでないと話にならないだろう。 


 ……さて、そろそろ戻るか。


 ぐるりと王都を軽く見て回ったが問題なさそうだ。 

 後は不測の事態が起こらない事を祈りつつやれる事をやるだけとなる。

 頼むから成功してくれよ。 内心ではらはらしながら俺は踵を返し、隠れ家へと戻っていった。



 夜。 深夜ともいえる時間帯で雲は少なく月は天頂に位置する時間。

 街では明日の祭りに備えてあちこちで準備を行っている。 食事を提供する店では仕込みを、物品を販売する店は祭りに因んだ限定の品を用意して売り上げを狙う。

 

 それはグノーシスも同じで聖騎士達は警備を担っているので忙しくなるぞと早めに就寝する者、布教活動を行うので警備の確認を行う者と様々だが、無事に明日を乗り切る為に入念な準備を行っている事だけは共通していた。


 そんな中、一人の聖堂騎士が歩いていた。 

 コンスタント・ティム・ザカリー聖堂騎士。 

 彼は警備の引継ぎを済ませ、帰宅しようとしている途中だった。

 

 本来なら城塞聖堂か王城に詰めているはずなのだが、明日は一日枢機卿の護衛という大きな仕事があるので今晩ぐらいは休めという上の配慮によって帰宅を許されていた。

 独り身の彼にとってあまり必要なものではなかったが、折角の計らいを無にするのも違うと考えたので素直に休む事にしたのだ。


 街の喧騒から遠ざかり少し静かな区画に入り耳に入る最も大きな音が自分の足音になった所で足を止める。 

 理由は彼の視線の先――誰かが待ち構えるようにそこにいたからだ。

 表には出さずザカリーは腰の双剣に意識を向ける。 目を凝らすと見覚えのある人物だった。

 

 「よぉ、奇遇だな」


 そう言って小さく手を上げたのはエルマン・アベカシス。

 彼の先達である聖堂騎士だ。 先達であり、立てるべき相手である事は分かっているが、ザカリーはどうにもこの男が苦手だった。 飄々と掴みどころのない態度はどうにも距離感を計りかねる。


 「自分に何か用でも?」


 偶然とは思わない。 エルマンの配置は当日の城塞聖堂周辺の警備。

 ザカリーの記憶が正しければ今頃は当日の打ち合わせをしているはずだったからだ。 

 少なくともこんな人気のない場所に用事はないと言い切れる。

 

 「あぁ、ちょっとお前に聞きたい事があってここで待たせて貰った」

 

 警戒心が持ち上がる。 

 ザカリーは枢機卿の直衛という事もあってスケジュールは伏せられているはずだった。 

 少なくともエルマンの立場ではザカリーがここにいる事を知る術はない。


 無言で腰の剣に手をかけた。 それを見てエルマンは苦笑。

 

 「まぁ、そうなるよなぁ」


 ザカリーは弁が立つ方ではないので言葉よりも行動を重視する。

 そして聖堂騎士として培ってきた彼の経験が言っている。目の前の男は危険だと。

 即座に剣を抜いて斬りかかる。 僅かに開いた間合いを瞬く間に埋め、胴体を袈裟に両断する軌跡を描く斬撃が繰り出され――金属音。

 

 ザカリーの剣はエルマンが抜いた短槍に止められていた。

誤字報告いつもありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] 作戦開始だー。エルマンがいきなり戦闘に入るのは予想外ですが、相手が聖堂騎士だとそれも止むなし。 エルマンが正面切って戦うのは非常に珍しいですが、どちらかというと搦め手を得意とするタイプだと思…
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