1420 「行遮」
サリサと調べてはいたが、奇妙な動きをしている騎士団も見た所いないようなのでアメリアの子飼いの騎士はほとんどいないと見ていい。 テュケの戦力構成を考えると異邦人を重用している印象が強い。
機密漏洩を防止する措置を取れるのだろうが、気楽に仕込める代物ではないようなのでその関係もあるかもしれなかった。
……だとしたら俺としては扱い易い部類に入る。
「次にグノーシス。 ゲリーベで手に入った情報も踏まえると十中八九、敵に回るでしょう」
「転生者が普通に聖堂騎士名乗れるような組織だしね」
「その通りだ。 しかもそこそこ長い俺ですらここ最近まで実態を知らなかった事を見ると相当、深くまで食い込んでいると見ていい。 個人的な見解だと一番厄介な相手だと認識している」
実際、怒らせると一番面倒な相手ではある。
半端な事をやって本国に目を付けられてしまえば終わりだ。
「戦力としてはどうなの?」
「聖堂騎士が俺を合わせて十人ほどいる。 半数は顔見知りだが、残りは少し会話した程度だな」
「エルマンさん的にはどうなの?」
「……あぁ、どの程度の連中がグルなのかって話か? だったら付き合いの薄い奴は怪しいと思ってる」
俺は聖堂騎士の中でも古参に入る。 その為、聖堂騎士の大半は後輩といった形になるので、一応ではあるが挨拶はするようにしていた。 で、だ。
その中に意識して接触しようとしてもできなかった連中が何人かいる。 そいつらに関しては時期が悪かったとは思えないので、裏の仕事を任せる為に地位を与えたと見ている。 つまり俺が知らない、もしくは面識がほぼない奴は基本、怪しいと判断していいだろう。 王都にいる面子では俺がよく知らない四人が怪しい。
「後は実態がよく分からん異邦人共だな。 あの連中は城塞聖堂――グノーシス自治区の奥にある水堀で囲まれたデカい建物から出てこないから詳しくは分からん」
「聖堂騎士でも?」
「あぁ、あそこは基本的に王都の所属じゃないと気軽に出入りできないからな。 見慣れない奴が入ろうとするとかなり厳しめに目的などを確認される」
実際、行ったらそうだったからな。
「で、最後にテュケだが、あの連中は基本的に現地で調達した戦力を使っているようなので自前でどの程度抱えているかははっきりしなかった。 アメリアに限った話をするなら城内での護衛は王国の騎士、外出する時は聖堂騎士を連れている時もあったようだ」
お陰で確実に怪しい奴は何人かではあるがはっきりしたのは収穫だったが。
「聞いた感じ、アメリアは居候先から戦力を借りてる感じになるのかな?」
「その認識で正しいと思う。 恐らくだが、ヤバくなったらすぐに逃げられるように身軽にしているんだろうよ」
ウルスラグナ王国宰相という御大層な肩書こそ持っているが、軽く調べても分かる人間関係の薄さ。
特定の配下は非常に少なく、何かに執着しているようにも見えない。
こういう手合いは何度か見た事があるが、大事なものは頭の中に存在しているので命さえあればいくらでも再起できると考えているのだろう。 だから最も大事なのは自己の安全で、他は余裕があれば拾えばいい。 こういった者は少しでも旗色が悪くなれば即座に逃げを打つ上、常に逃走手段を握っている可能性が高い。
……俺が逆の立場なら間違いなくそうする。
取りあえず敵の戦力に関しては説明が済んだので、質問はないかと全員に視線を巡らせる。
アスピザルはそのまま続けてと先を促し、ヨノモリとイシキリはうんうんと聞いているのかいないのか頷くだけ。 そしてロートフェルト様は微動だにしないので聞いているのかいないのかさっぱり分からん。 流石に聞いてました?と尋ねるの事は出来なかったので話を続けようとしたのだが――
「つまりアメリアが逃げる前に殺せばいいんだな」
「いや、ロー? 話、聞いてた? これからそれをどうするのかって話だよ?」
「そうか。 顔を出したタイミングで襲撃をかけて仕留める話ではないのか?」
絶句。 話を聞いていたのかと言いたいところだったが、恐らくは「アメリアを殺せば解決」で思考が停止しているのだ。 この方はこんなやり方でよく今まで生きてこられたなと本当に思う。
一瞬、馬鹿なんじゃないかとも思ったが、表に出したらファティマに殺されるのでぐっと呑み込む。
自重させる為には納得させる必要がある事を強く認識した俺は少しだけ話の方向を変える。
「仰る通り、アメリアを始末すれば終わる話ではあります。 ちなみにですがロートフェルト様はどのような手段をお考えですかね?」
報告、連絡、相談は認識の共有が大前提だ。 齟齬は可能な限りなくす事で会話を円滑に行う。
特にこの方との認識の齟齬は致命的な結果を招く可能性が高いので慎重にかつ念入りに行うのだ。
「そうだな。 まずはその辺にいる王国民や騎士、聖騎士もいいな。 千程度洗脳を施し、三割ほどはグロブスターで変異させよう。 そいつらを王都の全域で暴れさせて混乱を作る」
反射的にやめろ馬鹿がと言いたかったが、話を遮るのも良くないので黙って聞く。
アスピザル達はもう慣れているのか苦笑しているだけだ。 凄いな、俺もいつかはあの境地に至れるのだろうか?
「その隙に王城に突入してアメリアを始末する。 どうせあの女の周りは身内で固めているんだろう? なら周囲にいる連中も皆殺しにすれば後腐れもない。 ついでに撤回させた後に再手配されても鬱陶しいので、国王を殺してもいいな。 後は適当に洗脳が通用しそうな公官を残してそいつに面倒な手続きを押し付ければ完了だ」
「あー、ちなみに王国で暴れさせたレブナントはどうなるんですかね?」
「あぁ、適当な所で誰かに討伐させればいいだろう」
ロートフェルト様はその後にファティマにやらせておけばいいかと恐ろしい事を言っていた。
で、そのファティマは事態の収拾を確実に俺に投げるだろう。
大量のレブナントが暴れまわって荒廃した王都を脳裏に浮かべる。 放置はできない。
オラトリアムにとって王都が健在の方が都合がいいからだ。
つまり復興作業が絶対に必要になる。 あのやり方だと権力者は軒並み殺されるだろうからなし崩し的に権力を握る好機ではあるが後処理の面倒さを考えるととてもではないが現実になって欲しくない。
何故か玉座に座って憔悴しきった様子の自分の姿が脳裏を過ぎった。
……冗談じゃない。
役職に縛り付けられ奴隷のように酷使される自身の姿を内心で首を振って掻き消す。
「た、確かに分かり易いかもしれませんがその作戦には問題があります」
俺は頭の中で考えを纏めながらそう口にした。
誤字報告いつもありがとうございます。
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