1419 「主来」
……あぁ、ついにこの日が来てしまったか。
あれからしばらく経ったある日の夜。 俺は出迎えの為、王都の出入り口である門で待っていた。
門番には事前に話を通しており、俺自身も別人に見えるように変装している。
待っているとやがて一台の大型馬車が王都へと入ってきた。 引いているのは魔法で馬に見せているが全くの別物だ。
俺はやや緊張しながら近づくと入れとばかりに荷車の幌が開く。
正直、嫌だなぁと思いながら中へ。
「どうもー。 王都で僕達の面倒を見てくれる――あぁ、霊山で会った人かな?」
真っ先に声をかけて来たのはダーザインの首領であるアスピザルとその隣には転生者であるヨノモリと新たに協力者として加わったイシキリという転生者がいる。 そして一番奥に俺の主であるロートフェルト様が無言で座っていた。 以前と変わらず向かい合っているだけで疲れるお方だ。
……後、どうでもいいがアスピザルの奴、顔変えてるのに正体を見破って来たな。
これでも隠形と変装にはそこそこの自信があったんだが。
俺はロートフェルト様の前で跪く。
「そういうのはいい。 で、アメリアとかいう女は何処だ? さっさと始末して問題を解決するとしよう」
……言うと思ったぜ。
まず俺がやる事はこの方に考えなしに突っ込む事がどれだけの面倒を招くかの説明だ。
ロートフェルト様は合理性の塊だ。 ただ、問題は自身にとっての合理を重んじるので、分かり易く最短の選択肢を即座に選ぶ傾向にある。
「アメリアを始末する事自体は止めはしませんが、あの女はこの国の宰相という面倒な地位についています。 始末する場合、相応の準備を行わなければかえって面倒事になるかと」
「……それで?」
……分からねぇ……。
表情が微塵も動かないから何を考えているのかさっぱり分からん。
おかしいなぁ。 俺、眷属だよな? この方の一部なんだよな?
俺の提案に対して不快かそうでないかの判断が全くつかない。
――とはいっても配下としてやるべき事はやらないとな。
「出過ぎた真似かとは思いましたが、こっちで色々と準備をしておきました。 内容を聞いてご納得頂けるんでしたら俺の案を使って貰えればと思っているのですが……」
ロートフェルト様は無言。 表情から何かを読み取ろうと凝視するが駄目だ、何も読み取れない。
口の端でも眉でもいいからちょっとでも動かしてくれ。 配慮のしようがねぇんだよ!
しばらくそうしていたのだが――いや、沈黙の所為で時間が長く感じているのか。
「そうか。 なら拠点に着いたら詳しく聞かせてくれ」
ロートフェルト様はそれでいいかとアスピザルを振り返る。
「いいんじゃない? この集団で決定権を持ってるのはローだよ。 君がいいなら僕達に異論はないかな? それに、エルマンさんだっけ? 前の霊山襲撃の計画立案に噛んでたんでしょ? なら期待できそうだね~」
こいつは話が早そうでやり易い。 信用できるかは微妙だがな。
ファティマからも一応、監視を怠るなと含まされているので目を離せないのも厄介だ。
あまり不確定な要素を増やしたくはない。 戦力としては上等なのだろうが、今回に限って言うならこいつらは正直邪魔だった。
ロートフェルト様の考えは分かり辛いが行動傾向は分かり易い。
放置しておくと王都を火の海に変えるぐらいは平気でやるだろう。
いや、高い確率で実行に移すと断言できる。 恐らく洗脳で眷属――レブナントを大量生産して邪魔な連中に嗾けて正面からのごり押し。
……バカみたいな策だが、単純故に戦力さえ用意できれば勝算は充分にあったりするんだよなぁ……。
後始末の事に目を瞑ればの話だが。 そしてそれは俺が何もしなければ現実になる未来だ。
ロートフェルト様にとってはアメリアを筆頭に邪魔な連中を消せればいいのだろうが、後始末が俺に回ってくる。
ファティマは出来ない仕事は振ってこないだろうが、限界まで酷使されるだろう。
アメリアのような女が宰相という地位に納まっているのだ、国王もかなり深い部分まで知っている可能性は極めて高い。 つまりアメリアをどうにかする場合、国王にも何らかの対処が必要になる。
洗脳を施して傀儡にするか、できない場合は処分か。
グノーシスも同様だ。 枢機卿への対処が必要になる。
俺にとって重要なのは王都への被害を最小限に抑えつつ、ロートフェルト様にとっての障害を排除する事だ。 そうする事によって後で圧し掛かって来るであろう俺の負担が減る。
馬車は近くの宿に預け、魔法で姿を消した後に王都内にある俺の隠れ家の一つに移動。
適度に王都の中心に近く、奥まった場所にあるので人もあまり寄り付かない場所だ。
「さて、取りあえず拠点はここを使って貰うとして、早速話を始めますか」
本来なら一日、二日は置くのだが、この面子に関しては話をさっさと決めておかないと何をしでかすか分かったものではないので釘を刺す意味でも方針はしっかりと決めておかなければならない。
「そうだね。 遊びに来た訳じゃないし時間をかけるとますます面倒になるしいいんじゃない?」
ヨノモリとイシキリは口を挟むつもりはないのか無言で頷くだけだ。
で、肝心のロートフェルト様は――
「さっさと始めろ」
「……まずは俺達の目的をはっきりさせるところから始めます。 この件の問題はロートフェルト様にかけられた手配。 そいつを解除させる事が最終的な目的って事でいいですね」
「そうだな」
同意を得られたので俺はそのまま話を続ける。
「目的を達成する為の障害は大きく分けて三つ」
俺は指を一本立てる。
「まずは王国、これは分かり易い。 宰相がアメリアなんで十中八九、王国騎士団は敵です」
「そうだね。 宰相って強い権限があるから適当に理由付けて動かすぐらいは訳ないでしょ。 戦力的にどうなの?」
「本拠だけあって数は多いが質としてはそこまでじゃねぇな」
質で言うのなら平均はグノーシスの聖殿騎士と同等ってところだろう。
突き抜けて強い奴はいないといった印象を受ける。
これは王国よりもグノーシスの聖騎士の方が職業としての安定度が高い事に由来しているからだ。
結果として優秀な人材が教団に流れていくと。 まぁ、規模が違うからな。
「騎士団長クラスでも?」
「あぁ、軽く調べたが、聖堂騎士の基準に届くかは微妙な者が大半だ」
数名だが聖堂騎士の水準に達している騎士も居はするがそれだけだ。
誤字報告いつもありがとうございます。
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