1417 「詳話」
注文した肉料理へ豪快に齧りつく。 美味い。
そして酒を喉を鳴らしてゴクゴクと飲む。 美味い。
以前までであったなら過剰な食事や飲酒は胃が受け付けず、仮に無理に流し込んだ場合翌日に大変な目に遭う事になっていただろうが、今は何をいくら食っても何ともない。 若い時がこんな感じだった。
無限に食えるこの感じは一度、衰えを自覚した後だと何物にも代えがたいものだったのだなと自覚する。
「はぁ、ほどほどにと言ったのに……」
向かいの席に座るサリサが呆れを込めてそんな事を言うが、いくら酒をかっくらっても今の俺は酔っぱらう事はない。 ロートフェルト様に改造された肉体はあらゆる異常に耐性を有し、内臓器官は強靭だ。
何故、仕事中に酒を飲んではいけないのか? それは酒精によって判断力が鈍るからだ。
……つまり悪影響が一切起こらない俺は飲んでも全く問題がないという訳だな!
「……それにしても何度、同じ話をすればよいのでしょうか? いい加減に疲れてきましたよ」
「それが狙いだ。 聖堂騎士が三人も欠けちまったからな。 教団側としてはやられても仕方がない理由って奴が欲しいんだよ。 ついでに言うと俺達だけが都合よく生き残ったのも胡散臭いと」
「同じ話をする理由になっていませんよ?」
「そう結論を急ぐな。 要は俺達が何かやらかしたんじゃねえかって疑ってるんだよ」
まぁ、その通りなんだが。
そもそも内部に入ってオラトリアムを手引きしたのは俺だから連中が疑うのは見当違いでもなんでもない。
「これは割と尋問とかでよく使われるんだが、同じ話を何度もさせて少しでも食い違いが出たらそこから切り崩す。 で、怪しいって確定したら尋問から拷問に変わる。 審問官は尋問より、拷問が本領だからそうなるときついぞ。 吐かせる為には何でもしてくるからな」
「そのやり方、冤罪とか生まれません?」
記憶は定かではない場合もある。 本当に隠し事をしていた場合もあるが、そうでなかった場合はどうするのかとサリサは言いたいんだろう。 残念ながら真偽はあまり関係がない。
「生まれるだろうが連中からすればそこはどうでもいいんだよ」
「と、いいますと?」
「連中が欲しいのは内外に説明して仕方がないって思える証言だからな」
サリサが眉を顰める。 まぁ、無理のない話か。
連中が俺達に喋らせたいのは真実であって事実ではない。
つまり欲しいのはウルスラグナ北部にあった大拠点を失っても仕方がない真実であって、実際に起こった事実は実の所、割とどうでもいいのだ。 真実ってのは主観で決まるからな。 事実である必要がない。
「ま、ダーザインごときに全滅させられたってのは理由としては弱いとでも思っているんだろうよ」
サリサは面白くないといった表情を浮かべているが俺はその逆だ。
話を聞くだけしかしてこないという事は俺達の証言に矛盾はないと認識している証拠でもある。
王都に来るまでにしっかりと練った設定だ。 そう簡単に崩れる訳がない。
エイジャスの態度から恐らくこの不毛な尋問も後、一度か二度やれば終わる。
そうなれば俺達は晴れて自由の身だ。 ファティマからは王都で情報収集を行えとの事なので、大きな事件や動きがあれば報告するだけの簡単な仕事。 面倒な事も考えなくても良さそうだし、気楽にやらせてもらうとするか。
……とはいっても懸念がない訳ではない。
オラトリアム自体の運営も軌道に乗っている。
だが、俺達眷属にとって何よりも重視されるのはロートフェルト様の事だ。
あの方は一か所に留まるといった真似ができないようでダーザインの連中と旅に出てしまった。
正確には連中の問題を解決するという約束を果たしに行ったのだが、わざわざ自分で行くほどの事かと思ってしまう。 オラトリアム内部の戦力を動かした方が楽なのだが、それをやらないのは当てにされてないのか自分でやりたいだけなのか……。
……両方だろうなぁ……。
どうでもいいという訳ではないが、自分でやるというのなら好きにすればいいというのが俺の考えだ。 ファティマ辺りはそうは考えていないようだが、俺の見立てではあの方は縛られる事を好まない。
下手に干渉して機嫌を損ねるよりは放置しておいて何か問題が起こった時にだけ行動すればいい。
最終的に後手に回らされるのが痛いが、こればかりは仕方がないだろう。
つまり今できるのは何かあった時に備える事だけだ。
「連中も俺達から何も出ないと思ってるだろうし、あと少しで終わりだからそこまで気にすんな」
今頃は国の南部で派手にやっているらしいし、俺達はここで気楽に情報を集めればいい。
活動の資金も必要になったら支援してくれるらしいし気楽なものだ。
……これからはのんびりとやるさ。
――と、思っていた時期が俺にもあった。
「は? どういうことですかね?」
思わず声が震えた。 サリサとのやり取りから少し経ったある日の事だ。
エイジャスから事情聴取は終わりだと告げられ、やっと解放されたと祝杯でも挙げようと考えていた矢先の出来事だった。 ファティマから<交信>が来たのは。
――ロートフェルト様が指名手配されました。
俺は自宅でその話を聞いたのだが思わず聞き返してしまった。
指名手配。 要するに賞金首になったという事だ。
似顔絵が国内のあちこちに出回り、捕らえた者には結構な額の賞金が与えられるので腕自慢の冒険者が血眼になって付け狙う事になる。 訳が分からなかった。
聞いていた話ではダーザインの内部問題の解決に介入するといった話だったはずだ。
それが何故、指名手配犯になるような事態になる? 俺はその話を聞いたと同時にサリサを冒険者ギルドに向かわせて裏を取りに行かせた。
「あー、いったい何がどうなったらそんな事になるんですかね?」
とりあえず詳しい話を聞こう。 考えるのは情報が出揃ってからだ。
話を聞いている間にサリサが手配書を持って戻ってきたので、大雑把だが状況は把握した。
「マジかよ……」
思わず頭を抱える。 出回っている手配書はアスピザルとロートフェルト様で間違いなく、罪状はノルディア領オールディアの破壊に始まりムスリム霊山襲撃、ダーザインの本拠があるシジーロでの破壊活動。 取りあえず原因のはっきりしない事件の罪状を全て押し付けられた形になっている。
そしてその全てが事実だった事に俺は頭を抱えた。
誤字報告いつもありがとうございます。
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