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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
Παραλλελ Ⅱ Ιν τηε λανδ ςηερε ρθιν ανδ ψηαος ηαωε λεφτ θς
1410/1442

1409 「取除」

 「結局、肝心な事は分からずに終わったわね」


 場所は変わってゲリーベの大聖堂。 

 あの後、用事もなくなったので三人は話を聞かせてくれた礼を言ってその場を後にした。

 モンセラートの言葉に誰も反論はしない。 ハイディもクリステラも黙ったままだ。


 確かに彼女のルーツは見つかった。 

 見つかりはしたが、クリステラの母は本当に彼女を捨てたのか、そうでないのか。

 娘を捨てたのか正気を失って訳も分からずにその場を去ったのか。

 

 そしてその後にどうなったのかは分からなかった。 

 村長の話では当時は今以上に整備が進んでいなかったので女一人で移動するのは自殺行為だとの事。

 つまりは彼女の母親は死んでいる可能性が高い。 実際、地図を見ればそれは一目瞭然で、キプール村から近隣の街や村には普通に移動すれば早くても半日はかかる。 そんな距離を移動するのは現実的ではなかった。 魔物も頻繁に出没する事もあって生存はまず無理だろうといった結論を導き出す。


 少なくともクリステラの母親は死んだといった話はほぼ確定だ。


 「……これからどうする? 一応、父親らしき商人についても調べておいたけど……」


 ハイディが少しだけ言い難そうにそう尋ねた。

 イーダという女性を連れて行った商人はこの近辺ではそこそこ有名な商家の跡取りであちこちで村娘を連れ去っている事で有名だったようだ。 商人としてもそこそこ成功している部類に入ったが、オラトリアムの台頭により商会は吸収されたのでもう残っていなかった。 その際に当人――商会自体は代替わりして息子が跡を継いだようだが――達は傘下に入る事を拒んだ後に事故死(・・・)したとの事。 こちらに関しては死んでいる事は確定しており、父親かどうかははっきりしていないが状況からほぼ確定となっている。


 「関係者は何人か生きてるらしいから当時の話は聞けると思うけど……」

  

 ハイディは言い淀む。 仮に聞きに行ったとしてもあまり有益な話が聞けるとは思わなかったからだ。

 商人にとってはクリステラの母親は手を出した何人もの女の一人にしか過ぎない。

 そんな人物の事を覚えているかと尋ねられても首を傾げられるだけだろう。


 クリステラ自身もそれは理解しているのか小さく首を振った。

 

 「いえ、もう充分です。 ここまで付き合わせてしまって申し訳ありませんでした」

 「そこはありがとうって言って欲しいわね!」

 

 そう言ってモンセラートはクリステラに屈むように促す。

 クリステラは首を傾げながらも従うとモンセラートは彼女を抱きしめる。


 「すっきりしなかったかもしれないけど私達は皆、あなたの事が大好きよ。 そこだけは覚えておいてちょうだいな」

 「…………えぇ、ありがとうございます。 モンセラート、あなたがいてくれて本当に良かった」


 ハイディはその様子を笑顔で眺めた後「ちょっと外の空気を吸ってくる」と後にした。

 


 これで彼女のルーツを探す旅は終わりを迎えた。

 終わってみれば目立った成果のない小旅行といった内容だったが、クリステラはこの経験を前に進む為の糧とする事だろう。 だから、きっとこれは行って良かった、実行して良かった旅なのだ。


 彼女の小さな一歩は非常に言祝ぐべき事ではあるのだが、それを汚す輩が現れた事を彼女(・・)は決して忘れてはいない。  

 そして放置しておけば再び同じ事が起こるだろう。 だから――


 ――問題は原因を速やかに取り除かねばならない。


 そんな結論に達した。 考えれば考えるほどに目的とそれを達成する為に最短の道のりを進んだ彼の思考は理に適っていたといえるだろう。

 何故なら死んだ存在は以降、何の害も与えないのだから。 何事も合理性を持たせる事で無駄は可能な限り削ぎ落す事ができる。


 そう、必要なのは合理性なのだ。 最小の労力で最大の効果を齎すその思考。

 それは自身に最も足りないもので最も受け入れ難いものだった。 

 ならばそれを合理的に黙らせるにはどうすればよいのだろうか? 


 ――答えは至極単純だった。



 

 ゲリーベの東に存在する未開拓領域にその施設は存在した。

 当時存在した住民が建てたであろう砦は魔法的な隠蔽によりその姿は隠され、現行の技術によって地下に広がる巨大施設へと姿を変えていた。 そこでは千を軽く超える数の人員が様々な研究に従事している。


 元々はテュケという組織が天使関連の技術を研究する為の施設として用意した場所だったのだが、組織が壊滅し、源流であったエメスまで滅んだ今、彼等を縛る枷は存在しなくなった。

 何故なら裏切る相手がいなくなったのだ。 つまり何をしても裏切りにはならず、機密漏洩防止の措置には引っかからない。


 彼等の目的は新しいエメスとしてこの世界に根を張る事だ。

 エメスという組織はこれまで非常に上手くやってきたと言っていい。

 グノーシスという世界最大の組織に寄生する事で盤石の基盤を築き上げ、表舞台に姿を現す事なく研究を続け成果を出し続けた。


 だが、彼等は失敗した。 その理由に関しても凡その想像は付いている。

 古いエメスは時代の移り変わりについていけなかったのだ。 

 つまり権力者が切り替わる瞬間に乗り替える事に失敗した。 


 だが、彼等は違う。 権力者に取り入ろうとするから失敗するのだ。

 状況に対して反応を起こすのではなく、状況を起こす方へと回ればいい。

 要は様々な技術を用いて世界を裏から牛耳るのだ。 そう考えてグノーシス壊滅後からこの日まで彼等は身を隠して研究を続け、一つの成果を得た。


 模造聖剣(イミテーション)

 辛うじて実用に耐えられるような粗末な代物だが、維管形成層(トポロジー)と呼ばれる世界を巡る巨大な魔力の流れに干渉する方法を発見し、簡易化する事に成功した。

 

 使用すれば効果の有無にかかわらず短時間で破壊されるが、高い能力効果を得られる。

 流石に本家の聖剣には及ばないが、出資者を募る為の餌としては充分な代物だった。

 特にアイオーン教団に反発心を持っている者達には覿面に効果があり、誰も彼もが大喜びで金を出し、率先して協力を申し出たのだ。


 結果、ウルスラグナだけでなくアイオーン教団内部にも協力者を潜ませる事に成功した事を考えれば彼等は非常に上手くやったといえる。

 このままいけばウルスラグナだけでなくアイオーン教団の中枢を掌握し、権力の座から追い落とす事も可能かもしれない。 

 

 エルマンを筆頭に障害となる要素は多いが時間をかければそれはどうにでもなる。

 彼等はそう確信し、表舞台に出た時、高らかに名乗りを上げる栄光の日が必ず訪れるだろう。

 その日を夢見て今日も研究を続けており、日常は途切れずに続くと思われていた。


 ――たった一つの大きな見落としがなければ。

誤字報告いつもありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] やはり父親の末路はそれでしたか。 至極、当然ですな。 両親の話をまとめて知れたのは、まあ、きっと良いことだろう。ショックが1度で済んだと言う意味では。 [気になる点] おや、ハイディの様…
[一言] この旅、ハイディとモンセラートが一緒でよかった。クリステラが一人の時にこの結果を突きつけられていたら流石の彼女もメンタル病みそう(´・ω・`) おや?ハイディの思考がなんだか……ローの影響…
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