表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
Παραλλελ Ⅱ Ιν τηε λανδ ςηερε ρθιν ανδ ψηαος ηαωε λεφτ θς

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1386/1442

1385 「盗賊」

 村が燃えていた。 上がる悲鳴、逃げ惑う人々。

 弱者を痛めつける愉悦に浸る盗賊。 この世界では数こそ減ったがありふれた一幕だ。

 彼等は笑いながら弱者を蹂躙し、その財産や命を奪おうとする。


 以前であったならもっと大胆に、そして習慣として楽しめた作業ではあったのだが、タウミエル戦後はアイオーン教団の勢力が大きく強くなった事もあってこの手の者達には非常に生き辛い世界となっていた。

 ならば廃業し真っ当な職に就くべきではないか? そんな当然の思考は彼等には当て嵌まらない。


 何故なら彼等は奪う事に快楽を見出している者達。 

 そうする事によってしか自尊心と生活を維持できないと固く信じているからだ。

 何より、他人の足を引っ張る事に快楽を覚えている落伍者なので、正道に戻る事を苦痛と感じていた。


 このウルスラグナ王国ではオラトリアムという勢力が非常に強い権力を持っていた事もあって北部では仕事ができなかった。 彼等は同業者の失敗に関しては非常に耳が早く、勤勉だ。

 襲撃の際は相手が確実に自分達よりも弱い事が絶対条件となる。

 

 制圧に手間取れば余計な時間をかけてしまい、結果的に強者を呼び寄せてしまうからだ。

 その為、盗賊として生きていくには獲物を選ぶ目が必要となる。

 彼等はその点、上手くやってきたといえた。 獲物を探し、並行してアイオーンや王国の騎士団の巡回ルート、タイミングなどをしっかりと計算し、その穴を突く形で村を襲撃する。


 仮に気付かれたとしても到着まで時間のかかる位置にある集落や村を襲えば金品や食料を確保した上で離脱する時間は充分に確保できるはずだ。 加えて、人は攫えないので持ち出すのは物品のみ。

 これには理由があった。 以前であるなら商品価値の高い女子供を攫って奴隷として売り飛ばせば一財産は築けたのだが、今では足取りを辿られるだけとなるのでもうこの国で強引に攫って売るといった手段は使えない。 


 「生き辛い世の中になっちまったぜ」


 そう呟いたのはこの盗賊の長だ。

 彼は先代から受け継いだこの盗賊団を食わせていく責任があった。

 総勢四十一名。 国内でもそこそこ以上の規模を持つ大盗賊団だ。

 

 彼はこれまで非常に上手くやっていたといえる。 

 表向きは傭兵団として商人の護衛業務などを請け負って情報を集め、襲撃が可能な村や集落を探す。

 それと合わせて教団や騎士団の動き――特に巡回の間隔を掴み、その隙を突いて襲撃を行う。

 

 場合によっては仲間の半数を外で待機させ、救援に来させる形で追い払われ国から礼金を貰うといった芝居を打ったりもする。 盗賊も多種多様な手段で金銭を得て糊口を凌ぐ必要があるのだ。

 

 「お頭、食料と金目のものは馬車に詰め込んでおきやした」

 「よし、そろそろアイオーンの連中に気付かれる。 ずらかるぞ」

 「いや、そうなんすけどこの村、上玉が多くてですね。 二、三人でいいんで――」

 「駄目だ。 アシが付く」


 タウミエル戦以前であるなら問題はなかったのだがあれ以来、死体が辺獄に消えなくなったので死体の処理が非常に面倒になった。 場合によっては腐敗時の臭いなどで敵の追跡を許してしまいかねない。

 彼の部下にはその辺を理解していないものが多いので、死んだのでその辺に捨てましたなどと馬鹿な事をしかねない。 状況が変わったというのに理解しない奴が多すぎる。

 

 実際、死体の処理を怠った所為で発見され、壊滅した盗賊団がいくつも存在する。

 一流の盗賊は同業者の失敗から学ぶのだ。 それを部下に徹底してはいるのだが、勝てる戦いしかしてこなかっただけあって自分達は無敵だと勘違いする輩も非常に多かった。


 男は自分達が強者だとは思っておらず、そもそも胸を張って強者と言い張れるのなら盗賊などやっていない。 本当なら火をつけるのも良くないのだが、いくら止めろと言っても誰かが必ず火をつける。

 お陰で略奪に使う時間が短くなった。 ちらりと空を見上げると煙が景気よく空へと立ち上っている。


 ――そろそろ不味いか。


 到着にはまだかかるだろうが、既に気付かれている可能性は高い。

 

 「お頭ぁ……。 一人でいいんですよ。 最近、女とヤる機会が減っちまって――」

 「黙れ。 アシが付くと何度言ったら分かる? 殺してもいいが連れて帰るのはナシだ。 理解したのならさっさと引き上げるぞ」


 しつこく食い下がる手下を無視して馬車に出発するように指示を出そうとしたが、上がる悲鳴に弾かれたように振り返った。

 発生源は村の出入口の一つ。 そこに居た手下が二人ほど、縦に真っ二つになって地面に転がっていた。

 軽鎧や最低限の防具しか身に着けていないとは言え、人体を両断できる人間はそう多くない。


 そしてそれを行ったであろう人物が立っていた。 美しい女で、白――というよりは灰色に近い髪が特徴的だ。 纏う装備はアイオーンのエンブレムに特注であろう聖殿騎士の物とは違う全身鎧。

 聖堂騎士だ。 それだけでも最悪だと思ったのだが、手に持っている剣が更に不味かった。


 真っ赤な輝きを放つ剣。 あんな特徴的な剣はこの世界に二本と存在しない。

 間違いなく音に聞く聖剣だろう。 つまりあの女は「聖剣使い」聖堂騎士クリステラだ。


 「教団最強の聖騎士じゃねぇか……」


 終わったと諦めが男の脳裏を過ぎったが、まだ諦めるのは早いと理性は囁く。 

 何故ならクリステラはたった一人で味方がいない。 恐らくだが、一人で先行したのだろう。

 二人斬られたとはいえ、まだこちらには三十人近くいる。 彼の盗賊団は総勢で四十だが、十名ほどは隠れ家の管理を任せているので動員は三十前後。 いくら聖堂騎士でもたったの一人だ。


 ――数で圧し潰せばやれる。


 何故なら人間には腕はたった二本しかないのだ。

 なら対処できる量を越えた人数で仕掛ければ勝てるのは当然。

 こうなってしまった以上、早々に決めて逃げなければならない。


 「始末しろ! もたもたしてると本隊が追い付いてくる!」


 彼は手下に命令を出し、それに従って三十近い人数の盗賊がクリステラへと襲い掛かった。

 正直、不安ではあったが、一人ぐらいならどうにでもなる。

 

 ――と、一瞬前までは思っていた。


 多対一のやり方は熟知している。 まずは囲んで死角から――

 

 「は?」


 戦い方を脳裏で組み立てていた男の口からそんな言葉が漏れる。

 何故なら瞬き一つの間に五人が死んだからだ。

誤字報告いつもありがとうございます。


宣伝

パラダイム・パラサイト一~二巻発売中なので買って頂けると嬉しいです。

現在、Amazonでまとめ買いキャンペーン中!

kindle本を購入するとポイントの還元があるそうです。

2/7までとの事なのでもしよろしければこちらを是非!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 即死は慈悲と思えるのはこの作品だけ。 皆も買おう書籍版。 書籍版、電子版と合わせて買いました。 ファティマが思ったよりも女の子でびっくり(*´▽`)
[良い点] 他の方の感想を見て、気付きを得た。 確かにこの作品の中では、平和で真っ当な、略奪行為だ…。 盗賊(ひと)が村人(ひと)を通常の手段で襲ってるだけだもんね…。 おかしいな、普通に理不尽で残…
[一言] なんてピュアで平和な世界なんだ・・・ ※地平の塔の惨状にくらべると
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ