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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
6章

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138/1442

137 「決闘」

1/1 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。


 妙だな。

 オークの動きが変わった。

 積極的に戦おうとはせずに下がり始めたのだ。


 俺は内心で首を傾げながら、隣のディランに視線を向ける。

 似たような事を考えていたようで小さく頷く。

 

 「これは誘い込まれていますね」

 「そう思うか?」

 「ええ。オークの連中、今までは突撃一辺倒だったのにここに来て下がり出すのは何かあると考えた方が無難でしょう」


 あそこまで露骨に下がるのは素人の俺でも分かるぐらい怪しい。

 

 「狙いは何か分かるか?」

 「ええ。どうやら連中は自分達の都市に我々を誘い込もうとしていると思われます」

 「何でまたそんな所に?」

 「恐らく野戦にでも持ち込もうとしているのではないでしょうか?この辺りで開けた場所はあそこぐらいな物でしょうし、数が居る内に決めてしまおうという腹積もりでしょう」


 …あぁ、なるほど。


 ちまちま放り込むより一気に全戦力で勝負に出るつもりな訳か。

 とは言っても数でも質でもそこまで差はないぞ。

 数は植物ゾンビが居るし、俺が来る前ならまだ勝機はあっただろうが、今はシュリガーラやコンガマトー、ジェヴォーダンが追加されている以上は連中が勝つのは厳しいんじゃないか?


 加えて…。

 俺は自分の後ろを見る。

 聖堂騎士のフル装備を身に着けたディランと影のように佇んでいるトラスト。

 

 そしてダメ押しとばかりにファティマが用意した増援が来ることになっている。

 ふーむ。これオーク滅ぶんじゃないか?

 俺が逆の立場なら国を放り出して逃げるレベルのヤバさだぞ。


 俺はオークの都市を落とした後の事を考えた。

 取りあえず使えそうな奴は直接操って、残りは種を植え付けて強制労働だな。

 悪いが俺は忠誠心なんて形のない物は信じない。


 反乱の類は絶対に起こせないようにする。

 ゴブリン、トロールは同様に処理するとして、問題はドワーフだな。

 ファティマからの要望で可能な限り支配下に置いて欲しいとの事だったが…これはどうした物か。


 まぁ、連中の作る武具を見れば欲しがる気持ちは分かる。

 死体から回収した装備品は高品質の物が多く、売るにも使うにも適しているので、捕らえて資金源にしたいと言う考えが透けて見えていた。


 気持ちは分かる。

 金はいくらあっても困らない。

 まぁ、可能な限り期待に沿うようにするか。


 




 兵の指揮や運用はディランに任せているので基本的に俺は口を出さない。

 シュリガーラ達の運用に関してだけは性能を見たかったので捻じ込んで貰ったが、それも見たのでもう口を出す必要がなくなった。


 こうなると俺にやる事はもうない。

 まぁ、のんびりオークが蹂躙される所でも見るとするか。

 ドワーフの件もあるから放り出せないのが辛い所だ。


 さて、オーク共が後退を始めて数日。 

 視界に連中の都とやらが入って来た。

 名称は特に無し。オークの都と呼ばれている。


 …都ねぇ。


 名称こそ都だが、木材などで適当に組んだと思われる家のような物が立ち並んでおり、どちらかと言えば集落と呼んだ方がしっくりくる場所だ。

 特に整備されている訳でもないので家の並びも雑で、道の広さもまばら。


 だが、広さだけはあるのでオークの群れが武器を構えて待ち構えるのには充分だ。

 数は――流石に都市と言うだけあって多い。

 こちらもそれなりに増えているとはいえ数の上ではやや不利だな。


 …負ける気はしないが。


 向こうもこちらに気が付いているようで、いつでも突っ込めると言わんばかりに気合が入っている。

 先頭のオーク共に至っては前のめりになっている奴すらいるぞ。

 対するこちら側も進軍速度を緩めずに進み、お互いが視認できる位置で止まる。


 俺は隣のディランを見る。

 視線に気が付いたディランは小さく頷く。


 「ファティマ様の用意した援軍を待ちたいので可能な限り時間を稼ぎます。間に合わないようであれば先手を譲って迎え撃つ形で戦端を開くつもりです」


 …成程。


 しばらく睨み合いが続き、変化が起こったのはそれから数十分と言った所か。

 オークの集団が割れて、黄色い立派そうな全身鎧を身に着けたオークが現れた。

 見た感じ総大将って感じだな。


 そのオークは先頭に立つと声を張り上げる。

 

 「ワレハオークノオウ、ラディーブ!」


 大した声量だ。

 距離があるのにはっきりと声を届かせるのは普通に凄い。

 それに加えて片言だが、人間の言葉を話せるとは見た目より賢いのかな?


 それにしてもあのオーク、随分と強気だな。

 

 わざわざ前に出て来るとは、死にたいのか?

 後ろを見ると、トラストは小さく嘆息。

 ライリーは口の端を吊り上げて「ク、キキキ」と不気味な笑いを漏らしている。


 ディランは無言。出方を見るつもりのようだ。

 見た感じ用もなく前に出たって感じでもないし何をするのやら。


 「ワレトキサマラノタイショウトデ、イッキウチダ!」


 はい?

 一騎打ち?

 後ろでトラストとライリーが小さく噴き出したのが聞こえる。


 正直、俺も同意見だ。

 この状況で一騎打ちとか俺達に何の得があるの?って話だ。

 こちらの兵の大半は植物ゾンビ。


 つまりは失った所で全く惜しくない消耗品。

 向こうは違うだろうが、こちらには一騎打ちで早期決着を図る理由がない。

 受ける必要を全く感じないな。


 他も同意見なのかトラストは「愚か」と呟き鼻で笑う。

 ライリーはバカにしたように含み笑いを漏らす。

 その目はギラつく光を放ち、もう面倒だから突っ込んで殺したいと雄弁に語っていた。


 反面、ディランは少し悩む素振を見せている。

 

 「どうかしたか?」


 俺は気になって思わず聞いてしまった。

 

 「いえ、あのオークの考えが見えないのが気になりまして。…我等の布陣を見ればどうやって兵力を補充しているのかは分かる筈です。にも拘わらず一騎打ちを挑んで来る事にどんな意図があるのか…と」

 

 面白い意見だ。

 続けてくれ。 


 「考えられるのは一騎打ちを申し込む事で我等を挑発する事です」

 「挑発?」

 「はい。申し出を無視してこちらが兵を進めると罠が待ち受けている…なんて事を考えています」


 あぁ、要するに無視して突っ込んで来るように誘っていると言う事か。

 俺はライリーに目線を向けると奴は笑みを引っ込めてそっと顔をそらした。

 トラストは無表情。黙ってごまかしたな。

 

 「加えて。あのオークが王と言う証拠もありません。もしかしたら身代わりと言う事も考えられます」


 ふーむ。兜をしっかり被っているのでこの距離じゃ本人かどうかは分からんな。

 装備は奪った記憶だと王の物に見える。

 ディランの言う事も有り得ない話じゃないけど王が自分の装備をわざわざ部下に貸すかね。

 

 「仮に一騎打ちを受けた場合、こちらの指揮官の正体を暴けると考えているとも思われます」


 あー。なるほど、受けてノコノコ出て来た奴の顔を確認したいと言う意図でやってるのかもしれんと。

 罠よりはこっちの方が有り得そうだ。

 

 「ドウシタ!ワレラノドウホウヲハズカシメルシカノウノナイコシヌケナノカ!」


 そう言ってラディーブが煽ってくる。微妙に発音がおかしいのも地味にイラっとくる。

 それに合わせて周りのオーク共が馬鹿にしたように笑い出す。

 後ろのライリーからギリギリと歯軋りする音が聞こえたが無視した。


 「…話は分かった。で、どうするつもりだ?指揮官はお前だから俺に遠慮はしなくていいぞ」

 「受けようと考えています。当然ですが、私が出ます」

 「指揮はどうするんだ?」

 「問題ありません。少なくとも私が行けば罠の有無ははっきりしますし、万が一私が倒れればライリー殿に指揮を任せて連中を蹂躙すればいいだけの話です。そもそも、連中は正攻法では勝てないと踏んで、こんな搦め手を使って来たのでしょう。唯一の懸念点である罠の有無さえ分かれば後はどうにでもなりましょう」

 

 ディランはそう言って兜のバイザーを下ろす。


 「では、行って参ります。ライリー殿、私が倒れた後は――」


 ライリーは最後まで言わせずにディランの肩を叩いて大きく頷く。





 こちらも道を開けてディランが前に出る。お供はシュリガーラが2体。

 ラディーブも応じる様に部下を数人連れてで軍勢から離れて歩み寄って来た。

 俺は少し離れた所からその様子を眺める。


 数mぐらいの距離でお互いが止まる。

 この距離なら顔は見えるけど……ラディーブ、影武者じゃなくて本人じゃねぇか。

 死にたいのあいつ?


 「ニゲズニヨクキタコトダケハホメテヤロウ!」


 上から目線で何か言っているラディーブをディランは無視して周囲に視線を飛ばしている。

 

 「オマエガワガドウホウヲハズカシメテイルモノカ!?」

  

 ディランが後ろを振り返ると、シュリガーラは無言で首を振る。

 その様子で罠も伏兵もない事が分かった。

 え?こいつら小細工なしで決闘挑んだの!?


 「だとしたら?」


 確認を終えたディランがラディーブの質問を受け流す。

 

 「ナラバキサマガマケタラソノホウホウヲ、ハイテモラウゾ!」

 「では私が勝てば何を貰える?」

 「キサマノノゾミヲオレガカナエテヤロウ!」

 「そうか。では始めよう」


 ディランはゆっくりと剣を抜く。

 ラディーブも応じる様に斧を両手に一挺ずつ構える。

 部下のオークとシュリガーラ達が離れた所で始まった。

 

 先手はラディーブだ。

 斧の片方を投擲。

 回転しながら真っ直ぐディランに迫るが、剣を軽く振るって弾く。

 

 ラディーブは動かずに腰を落とす。 

 迎え撃つ…いや、違うな。

 弾かれた斧が不自然な軌道を描いて戻って来る。


 持ち主の手元…と言うよりは、もう一つの斧に引き寄せられて戻って来るのか。

 小刻みに手元の斧を動かしているのが見える。

 面白い武器だな。


 通用するかはまた別の話だが。

 ディランは後ろから飛んで来た斧を手の甲で軽く弾く。

 当たったとしてもあの鎧に刺さるとは思えんがな。


 走りながら黒い刃の両手剣を強く握りしめて脇を締めるのが見えた。

 ラディーブが戻って来た斧を掴むのとディランが斬りかかるのはほぼ同時。

 金属音。際どい所だが、何とか斧で受けたようだ。


 それにしてもディランの攻撃は速いな。

 あの剣の特性もあるが腕を上げた?

 以前よりも動きが鋭い。 


 対するラディーブもアレを受けるとは良い反応をしている。

 

 「ヌン!」


 ラディーブは剣を押し返すと両手の斧で連撃を繰り出す。

 こちらもディランほどではないが速い。

 その上、手数もある。


 フル装備のディランと正面から打ち合えているのは素晴らしい。

 流石に王と名乗るだけあって他のオークより格上だ。

 お互い僅かながら攻撃は当たっている。


 ここで技量と防具の差が出始めた。

 ラディーブの攻撃はディランの鎧に完全に防がれ、ディランの攻撃はラディーブの鎧に少しずつ傷を刻み始めている。


 肉体的なスペックはラディーブの方が上だが、技量はディランの方が上だ。

 徐々にだがディランが押し始めた。 


 ラディーブもその辺に気が付き始めているのか、動きに焦りが出始めている。

 ディランも相手の土俵に付き合わずに魔法とか搦め手を使えばいいのに真面目な奴だ。

 斧の攻撃回数を剣が上回った辺りで流れは完全に傾いた。


 上等な鎧ではあったようだが、あの剣相手では分が悪いようだ。

 

 「ガァァァァァァァァ!」


 ラディーブは吼えると、両手を振り回して渾身のラッシュを繰り出すが…遅い。

 ディランは冷静に右の斧を弾き飛ばし、返しの一撃で左腕を肘の辺りで斬り飛ばす。

 腕を失って呻くラディーブを袈裟に切り裂く。

 

 斬撃は鎧ごと肉を切り裂き、オークの王は血を噴きだしながら音を立てて崩れ落ちた。


気が付けば累計PV10万突破。

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

力の続く限り進めてて行きたいと思います。 

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