1364 「生態」
地動の塔の者達は知能こそ低いが頑丈な甲殻は並の攻撃を跳ね返し、爪や牙の一撃は鋼鉄すら貫くだろう。
ヨチークは自身の世界を種として劣っていると認識していたが、生物としての観点から見れば地動の塔の者達は優れているといえる。
――が、自慢の甲殻は彼らの放つ銃弾の前には無力だった。
重たい連射音と共にフルオートで発射された銃弾は容易く甲殻を貫通し体内に侵入。
その後、内部で爆発を起こし、彼らの肉体に内側から致命的な破壊を齎す。
皮肉な事に頑強な外殻と肉体を持っているが故に彼らの肉体は爆散せず、表面上は大きな傷がないように見える状態で沈黙。 次々と力なくその場に横たわる。
アルファビルを身に纏った者達は油断なく武器を構え、突っ込んで来る敵が居なくなったと同時に銃口を下げる。
僅かに戦闘態勢を解いたと同時に待っていましたとばかりに非武装の者達が後方から現れ、死骸に転移魔石が内蔵されている杭を打ち込んでいく。 打ち込まれた杭は何らかの機能が作動したのか突き刺さると電子音が鳴り始める。
「起動した物から順次回収を始めろ。 こちらでも死亡確認はしているが油断はしないように」
その場に居た指揮官が連絡を入れると死骸が転移によって次々と消えていく。
彼らの任務は敵の殲滅ではあるが、可能であればこうして検体の回収も任されていた。
特に地動の塔の者達は頑丈なので死骸が残り易く、回収が容易なので現場としてもやり易い相手だ。
仕事という事もあったが、この手の検体は様々な用途で利用される事もあって持ち帰った数に応じて報酬が出る事となっている。 その為、兵士達はこの一件が片付けば暖かくなる懐を思えばやる気も出るというものだった。
「これ終わったら飲みに行かねぇか?」
「お、いいねぇ。 今回、結構多めに出るって聞いてるから他も誘おうぜ」
次々と転移で死骸をオラトリアムに送りながら兵士がそんな余裕を滲ませた会話を始める。
回収班は特に戦闘を行う事もないので余裕があった。 かといって仕事に手を抜く事はしない。
転移前に死んでいる事を確認し、オラトリアムへと転移させる。
「――にしても「貫通」を付与して抜けないのは凄いな」
コンコンと死骸を軽く叩く。
『貫通』は弾に付与した効果の一つで名称通り貫通力を大幅に上げるものなのだが、地動の塔の者達はその頑強な外殻によって完全に抜けずに体内に残っていた。
「これ威力絞っていたんじゃないのか?」
「いや、さっき聞いたけどそういうのはないってよ」
杭を死骸の外殻の亀裂ができている部分に打ち込む。
魔力を込めると起動し、魔石が点滅。 二人は少し離れると死骸は転移し視界から消える。
「まぁ、半端に頑丈だったからあっさり死んだってのもあるがね」
付与されたのはもう一種類『爆発』。
銃弾を爆発させるものだ。 貫通で体内に潜った弾がそのまま爆発し、頑丈な甲殻で守られている故に逃げ場を失った破壊力は体内をかき回した。
「解剖する連中は大変だな。 中身ぐちゃぐちゃだろ?」
「そこは俺達の仕事じゃないし、攻めてきた連中にこいつらの同類も混ざってたって話だから解剖用じゃなくて肥料用じゃないか?」
「あぁ、そっちか。 飯代が安くなるから個人的にはそっちの方がありがたいな」
「なんだ? お前、財布ヤバいのか?」
「いや、実は――付き合ってた女が孕んじまってよ」
ピタリと作業の手が止まる。
「マジかよ。 やったじゃねぇか。 そりゃ頑張らねぇとなぁ!」
バシバシと仲間の背を叩く。
これには理由があった。 オラトリアムの住民は体質に違いがありすぎるので生殖行為を行っても妊娠する可能性は非常に低い。 昔から妊娠の確率は低かったのだが年々更に下がっていた。 様々な生体改造と変異、進化を繰り返す事によってもしかすると不要な機能と認識されているのかもしれないといった説も囁かれていたが、現状ではまだ検証中の話だ。 それでもマザーと呼ばれる生殖と出産に特化した改造種によって総人口自体は増えているのだが、一部ではやや問題視されている。
その為、マザーを介さない妊娠はかなり珍しく、研究用にデータを取る代わりに助成金などが下りるなど様々な支援を受けられるので歓迎される事だった。
「だったら今日は祝いだな! 俺が奢ってやるぜ!」
「はは、悪いな。 まぁ、流れちまう可能性もあるから本格的に祝うのは無事に生まれてからで頼む」
「いやいや、研究所の連中が意地でも無事に生ませるだろ。 でも、ガキ養うのは大変らしいぞ。 俺の周りにいなかったからあんまり詳しくねぇけど育てるって難しいって聞くからな」
「――そうなんだよなぁ。 親父になるとか反応に困るんだよ。 上手くできる自信ねぇし――っと、無駄話多すぎだな。 そういやこっちに来てるのってアルファビル装備の装甲歩兵だけか?」
不意にズンと遠くで振動音が響く。
一筋の光が地面を撫でるように横に走ると地形や攻撃範囲に居た者達が蒸発し、文字通り平らになっていった。
「うわ。 なんだありゃ? 例の歩行要塞か?」
「いや、ここの連中は的にするには小さいとかで他で投入されてるよ」
「他にあんな火力出る兵器あったか? エグリゴリじゃあの規模は無理だろ」
「ってか回収する物なくなるから蒸発させるの勘弁してほしいんだが……」
見ている間に別の兵器を使用したようで空中で炸裂音がしたかと思えば地表で連続した爆発が発生した。
それを見ていた者達の一部は途中であぁと察すると小さく溜息を吐いた。
「はーっはっはっは! 弱い、弱すぎる!」
その存在は叫びながら無秩序に破壊を振りまいていた。
形状は歪な人型で全体的に四角い。 詳しい者が見ればオラトリアムで使用されている歩行要塞という巨大兵器に似ているといった感想を漏らすだろう。
大きさは数十メートルクラスとかなりのスケールダウンだが、小型化こそされ総合的な火力はエグリゴリシリーズを超えている。
コン・エアーⅪ。 元々は武装を積んだフライトユニットだったのだが、ウエポンコンテナへと進化し、気が付けば巨大兵器へと変貌していた。
肩に付いたガトリング砲からは追尾性がある凄まじい量の弾丸を吐き出し、地面を吹き飛ばすどころか抉り取り、指からは光線が飛び出し攻撃範囲の全てを蒸発させる。
背中のコンテナからは巨大なミサイルが飛び出し、空中で分解し内蔵された無数の小型ミサイルにより次々と爆発が発生。 その圧倒的な火力を前に地動の塔の者達は近寄る事すらできずにいた。
誤字報告いつもありがとうございます。
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