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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
ΑφτερⅡ-Ⅱ Σιχ ψολλαπσες, σιχ δεστρθψτιονς

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1352 「正剣」

 アルヴァーは形こそ人型を保っていたが、両腕は剣のような形状になり体のあちこちが金属のように硬質化していた。 

 守護騎士としての将来を期待された有望な男だったが、こうなってしまえば死んだも同然だ。

 

 「正気に戻れ! お前はこんな事をする為に守護騎士になったのではないのだろうが!」


 ペッレルヴォの言葉にアルヴァーは愉快そうな笑みで返す。

 異形と化しているが頭部などはアルヴァーの面影をしっかりと残している点もまた悪辣だとペッレルヴォは思った。 意図しての事なのか不明だが周囲で戦っている者達も見知った相手だと切っ先に僅かな迷いが浮かんでいる事が分かる。


 「ペッレルヴォ殿もこちらへ来てはいかがですか? 自分も最初は同じ気持ちでしたが、あの世界の神に触れ、真実に目覚めました! お陰で素晴らしい気分です! さっきのギュードゥルンを視たでしょう? あいつも心底から幸せそうでしたよ! 自分も――いや、俺もしがらみなんて捨てて自由な気分です!」

 

 正気の頃なら間違っても言わなかったであろう言葉をなんの躊躇いもなく垂れ流すアルヴァー。

 彼の言う事は一部正しい。 守護騎士となれば生活に制限がかかる。

 特にアルヴァーはギュードゥルンと交際していたが結婚を諦めたと聞く。


 表面上は表に出さなかったが彼らなりに思う所があったのだろう。

 それに関しては任命したペッレルヴォは少しだけ申し訳なく思っていた。

 恐らく普通の騎士として過ごしていたのならアルヴァーとギュードゥルンは結婚をして幸せな生活を営んでいたのかもしれない。 そう言った見方をすればペッレルヴォにも責任の一端はあるだろう。


 ――だが――


 「ギュードゥルンは死んだぞ? それに関して何かないのか?」

 「――え? あぁ、神の為に戦って死んだのです。 あいつも喜んでいるでしょう」


 ――これは違う。 これはあってはならない。


 心底どうでもよさそうにギュードゥルンの死と死を齎したペッレルヴォに接する。

 人は根幹を破壊されるとこうも醜くなるのかとペッレルヴォは恐怖すら覚えた。

 

 「もういい。 今楽にしてやる」


 これ以上は無理だった。 

 アルヴァーもそうだが、他の同胞も似たような事を言って襲い掛かってきている。 

 立派な騎士だった彼らが貶められている姿は見るに堪えない。 だから、彼らを自身が持つ最大の力で葬り去り、手向けとしよう。


 横薙ぎの一撃を放ってアルヴァーを大きく後退させた後、腰に差している数本の短剣の一本を地面に落として突き刺す。 刺さった刃を起点として魔法陣が形成された。

 ペッレルヴォはその魔法陣を踏みつける。 態勢を立て直したアルヴァーが笑いながら突っ込んで来るがもう遅い。


 ――『俗界正義の剣テンポラル・ジャスティス


 ペッレルヴォが剣を地面に突き刺す。 それで終わりだった。

 地面から無数の剣が突きだしアルヴァーを始め、ペッレルヴォの攻撃範囲に居た全ての敵が貫かれる。

 俗界正義の剣テンポラル・ジャスティス。 守護騎士の最果てへと至った者が習得できる伝説級の剣技で、専用の短剣を用いて世界との経路を開き、そこから魔力を調達するといった面倒な手順が必要ではあるが非常に強力な一撃だ。 視界内全域に無数の剣を地面から生やして敵を串刺しにする。


 この攻撃の最も恐ろしいのはその剣の付加効果にあった。

 串刺しにされた者達の大半は当然のように生きており、抜け出そうともがいていたがもう遅い。

 剣は魔力の輝きを放ち、それは熱へと変換される。 そう、この剣は貫いた者を悉く焼き払う浄化の剣。 アルヴァー達は浄化の熱に焼かれ次々と燃え尽きて行った。


 ペッレルヴォは小さく息を吐く。 この大技は使える者は非常に少ない。

 今の地平の塔ではペッレルヴォを含めても数名。 それほど高度な技量を必要とし、消耗もまた大きい。 ペッレルヴォは消耗を表に出さないようにしつつ戦場全体へ意識を向けると今の攻撃で大きく数が減ったお陰か動揺もあって押され気味だった味方が息を吹き返しつつあった。


 ――よし、これなら押し返せる。


 念の為にと周囲に伏せていた者達も参戦しているのでこのままいけば優位に事を運べる。

 だがとペッレルヴォは疑問を抱く。 アルヴァー達を洗脳して送り込んで来た事には驚いたが、それ以上に問題が一つあった。 それはアルヴァーやギュードゥルンは現地で鹵獲した者達であって自前の戦力は一切、繰り出していない点だ。


 嫌な予感がする。 もしも敵が侵入者を捕えて洗脳を施し、怪物に作り替えて送り込む事でしか戦力を調達できないのであれば充分に勝ち目はある。 

 ただ、そうでなかった場合は非常に不味い事になる。 そしてペッレルヴォは後者であると半ば確信していた。 理由は簡単で物量的に取り込まれた者達は全てこの地平の塔へと送り込まれている。


 つまり、他の塔には間違いなく別の戦力を送り込んでいるはずだからだ。

 仮に目の前の者達を全滅させたとしても第二陣、第三陣と送り込まれてくる可能性は高い。

 大した事がない敵ならどうにでもなるだろう。 だが、アルヴァー達をあっさりと全滅させるような敵が――


 ペッレルヴォの思考はパチパチと響く乾いた拍手にかき消された。

 同時に全ての敵が攻撃を止め、道を空けるべく左右に分かれた。

 さっきまでの無秩序な思考、言動は何だったのかと思わせるほどの統率の取れた動きだ。


 「お見事、お見事です。 その若さで維管形成層(トポロジー)への接続法を身に着けるとは大したものです」

 「流石は筆頭守護騎士と言ったところかのぅ」


 現れたのは三人の女。 最初に目についたのは軍服のような服を身に纏い、腰に刀を佩いた女で視線はペッレルヴォへと固定されており、刀の鯉口を切ってはカチカチと音を立てて戻していた。

 次に目についたのは老婆のような口調で話す女。 体のラインがあまり目立たない法衣にも関わらず、起伏のはっきりとした肢体と左右で瞳の色が違う事が印象的だ。


 最後にその二人を左右に控えさせている女。

 法衣を身に纏い、手には複雑な形状をした錫杖。 長い髪は綺麗に纏められており、優し気な笑みを浮かべていた。 見る者が視ればそれに慈愛の類を感じるのかもしれない。


 ――が、ペッレルヴォはそうではなかった。


 確かに絵画などで飾られていれば慈愛を描いたと彼も思ったかもしれない。

 だが、目の前の女達の視線には一切の熱量が存在しなかった。

 それが意味する事は――

誤字報告いつもありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] かつての同胞への手向けと言われているもの、敵の戦力が姿を見せない状況のままペッレルヴォが消耗の大きな技を繰り出さなければならないくらいアルヴァー達が脅威だったというのもありそうだなと感じまし…
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