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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
ΑφτερⅡ-Ⅰ Ι σας τηε θνκνοςν ςορλδ βευονδ τηε τθννελ!

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1339 「気冷」

 彼女の両親を含めた複数の親族がその帰ってきた生徒達に詰め寄り、厳しく追及した。

 影沢も両親に引っ張られる形で一度だけ同行したが、本当に酷い光景でウチの子供はどうなったんだ?

 どこに行ったんだと追及する様はまるで消したのはお前なんじゃないのかと犯人扱いだ。


 同じ被害者である生徒達は外に出る事ができず、その家族達も日に日に憔悴していき、最後には一人残らず姿を消した。 警察も介入し、一部の過激な追及を行った者達は接触する事を禁じられる事にもなった。

 影沢の両親も書類にサインさせられたその一部に含まれる。


 当時の彼女も妹の心配をしていたが、流石に警察の世話にまでなった両親の行動は看過できずにやんわりとだが控えるように伝えたのだが――

 影沢は思い出して胸の辺りをぎゅっと掴む。 傑達にも語った内容ではあったが、両親には影沢が家族の心配をしない薄情者にでも映ったのか、はたまた自分達を否定する敵に映ったのかは不明だ。

 

 それでも放たれた言葉は今でも忘れられない。

 妹が心配ではないのか? お前の妹に対する気持ちはその程度だったんだな。 

 この薄情者。 本当はあの子の事が嫌いだったんだろう? こんな事を言うのならお前が消えれば良かったんだ。 


 たとえ家族であっても人の心は完全に分からない。 彼等は心の底から娘を心配して他が目に入らないのかもしれなかったが、影沢にはこう見えてしまったのだ。

 

 ――あぁ、こいつ等は娘を失って可哀想な自分達に酔っている、と。


 同時に同じ娘であるはずの影沢に対する反応を見て気持ちが一気に冷めてしまったのだ。

 彼女はこれまで家族仲は悪くないと思っており、人並みに愛していたと思っていたが僅かな言葉でそれが消え失せたのだ。 翌日、少しだけ冷静になった二人は言い過ぎた悪かったと謝ってきたが、一度冷めた心に再び熱が宿る事はなかった。


 謝罪はしたが彼女の訴えは一切響かなかったようで、同じような行動を繰り返す両親に対して彼女はもうどうでもよくなってしまったのだ。 それでもまた同じ事を言われる事を嫌った彼女は文句も言わずに淡々と協力した。 そこに熱は一切なかったが、両親はまったく気が付いていなかった――少なくとも影沢にはそう見えた。 


 そんな事もあったが調査は早々に暗礁に乗り上げる事となる。 唯一の手掛かりである帰還した生徒たちは残らず消えたのだ。 そうなると金銭を受け取って調査を請け負う業者や変わった所では動画配信者などに金を支払って現地での生放送を行って事件の風化を防ぎつつ情報を求めている事を広く拡散した。


 努力の甲斐あって事件の話題自体はそこそこの時間が経過していて尚、注目され続けている。

 そんなある日、ある情報が捜索している者達の間に舞い込んだ。 とあるオカルト系のブログで近日、調査に向かうといった事だった。 元々、あの事件を心霊現象と捉えており、その検証に向かうと記載されていたのだ。 それに混ざろうと両親が食いついた結果が今に繋がっている。


 傑達に影沢が接触して来たと思われているのは、パソコン操作に不慣れな両親に変わって彼女が代行した事で勘違いされただけの話だった。 

 様々な説が囁かれていた失踪事件だったが、蓋を開けてみれば心霊現象が一番正解に近かったのは皮肉な話だ。 影沢はそう考えて自嘲気味に笑う。


 異世界に飛ばされ、ギュードゥルン達と出会い、世界間の移動についての仕組みを教わった事で妹が確実に帰って来ない事を悟ったのだ。

 付け加えるなら傑達が自分達に話していない何かを掴んでいる事も薄っすらとだが察していたが、あまり興味がなかったので深堀りする気も起きなかった。 こうして彼女は流されるままにコスモロギア=ゼネラリスに辿り着いた訳だが、異世界での日々は彼女にとっては居心地の良いものではなかった。


 周囲の人は優しかったので、酷い環境と言う訳ではない。

 他意はないのかもしれないが、血の繋がった家族すら信じられなくなった彼女から見れば腫れ物に触るような扱いと思ってしまうのだ。 


 ――居場所は自分で勝ち取らなければ意味がない。


 だから、彼女は暢の話を聞いてこの遠征に興味を持ったのだ。

 彼女は日本に帰りたかった。 そして家を出て自分の力で生活基盤を築き、一人で生きていくのだ。 

 そうしなければこの疎外感は消えないだろう。 少なくとも彼女はそう信じてここに来たのだ。


 帰れなかったとしても手がかりぐらいはと思っていた彼女の目論見はこの絶望的な状況を前にして脆くも崩れ去った。 生まれてから暴力とは無縁の生活を送っていた彼女は死の危険に対して鈍感だった事とギュードゥルン達が居る事の安心感で自分が死ぬとは思っていなかったのだ。


 蓋を開ければギュードゥルン達は恐らく死に、自分達も梼原の言葉通りならそう遠くない内に死ぬだろう。 死ぬ。 恐ろしいと認識はしているが、実感がまだ追いついていないのが本音だ。

 ぼんやりとあまり痛くなければいいなと思っている程度で死ぬ事の何たるかが理解できない。


 「元来た道を戻っているつもりだけど、もしも見覚えのある物を見つけたら教えてくれ」


 不意に傑が声をかけて来たので、思考を中断してええと小さく頷く。 

 今は自分が死ぬ事よりも生き残る事を考えよう。 そう思い直して深い森の奥へ奥へと進む。

 追手が来る事を考慮して傑はかなり早いペースで移動しており、影沢も必死にそれを追いかける。


 梼原は半日経ったら通報すると言っていたが、暢が戻った事もあって即座に通報されたと思っているからだろう。 とにかく距離を稼ぎたい。

 傑のそんな考えに従って、影沢は疲労に軋みを上げる体に鞭打って歩き続けた。


 彼女の考えは正しく、傑は足を止めるとその分、寿命が縮むとすら思っており必死に足を動かすがふと空を見上げると日が暮れそうになっており、周囲も薄暗くなっている。

 一週間ほど彷徨って分かった事だが、この森に動物の類は生息していないので自分達のような大きな獲物を襲う生き物がいない。 少なくとも大きな動物とは一度も遭遇していないので魔導鉄騎があった場所までは妙な生き物に襲われる事はないだろう。


 その為、何か居るとしたらそれは確実に追手と分かる。 

 どんどん暗くなり視界が悪くなる事と疲労、そして影沢の様子を見ればそろそろどこかで休むべきだとは分かっている。 だけど――


 ――駄目だ。 頭が回らない。


 疲労と焦りで思考が纏まらない。 傑は影沢に意見を聞こうと振り返ったが、その様子がおかしい事に気が付いた。 目を見開いて固まっている。


 「どうかしたのか?」


 傑がそう尋ねると彼女は信じられないといった様子である場所を指差した。

 そこには――

誤字報告いつもありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] スグル達が逃げ込んで彷徨っている森には動物類がいない……?彼らが無事に居られるという事は人を襲うような生物が排除された生態系になっているんだろうけど、そこまでコントロールできるとか、この世界…
[良い点] いくら親しい関係でも、言ってはいけないことってありますよね。言った瞬間、人間関係に決定的かつ致命的な亀裂が入って後から何を言おうと関係の修復が不可能になるヤツ。 悲劇の主人公ぶって行動と…
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