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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
ΑφτερⅡ-Ⅰ Ι σας τηε θνκνοςν ςορλδ βευονδ τηε τθννελ!

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1329 「神僕」

 「……我々が嘘を吐いていたとして、それを知った貴女は何の目的でここに現れた? 侵入者である我々を排除でもしに来たのか?」


 ギュードゥルンの口調に攻撃性が増す。

 目の前の女はまともに交渉できる相手ではないと理解したからだ。

 それでも剣を抜く事をしなかったのは、相手の意図を計りかねていたからだった。


 害意はともかく、悪意があるのは明らかなのだが、一人で現れた理由が分からない。

 この世界の住民がサブリナ一人である訳がないので、どこかに仲間がいる筈だ。

 交戦目的であるならこれだけの数を相手に単騎で現れる事は考えられないので、可能性として一番大きいのは時間稼ぎ。 自分達主力をここまで引っ張り出し、包囲して殲滅する為の囮としてサブリナはここに現れた。


 素直に考えるなら後ろにある本陣を強襲する為の準備といったところだろう。 

 どちらにしてもギュードゥルンの想定内だ。 彼女が引き連れているのは紛れもなく精鋭ではあるが、拠点内部にも充分な人数の守護騎士が控えているので襲われたとしても対処は可能。


 非戦闘員にも魔導鉄騎で逃げるように指示は出しているので、犠牲は出るだろうが全滅はあり得ない。

 サブリナは微笑んだままだが、ギュードゥルンは今更になって気が付いた。

 彼女は表情こそ笑みの形をしているが目が全く笑っていない。 激情を抑えているのか、元々感情のない化け物なのかの判断は付かないがまともな相手ではない事は最初から分かっている。


 時間稼ぎの可能性を警戒してはいるが、少しでも情報が欲しいので何か引き出したいとギュードゥルンはどうにか会話を続けようと試みていたのだ。

 

 「えぇ、私がここに来た目的は簡単ですよ。 皆さん、改宗しませんか? この世界と素晴らしい教えを万物に広める教団に忠誠を誓い、全てを捧げて奉仕するのであればこの世界への不法な侵入をするという万死に値する無礼を許し、この世界で生きる事が許されるでしょう」

 「その口ぶりだと命以外は残らないと言っているように聞こえるが?」

 「はい、そのようにお伝えしたつもりでしたが理解できませんでしたか?」


 いちいち癇に障る物言いにギュードゥルンは僅かに眉を顰める。

 同時に彼女の提案に対しての答えも即座に飛び出す。


 「ならば返答は否だ。 我々はこの世界が脅威か否かを見極める為にここに来た」


 そしてこの一連の会話で目的は達したと言っていい。

 サブリナはこの世界でも一定以上の権力を持っていると見て間違いない。

 そんな彼女が命だけは助けてやるから降伏しろと宣うのだ。 巫女達の予言は正しい。


 会話は成立するが、明らかに通じていないこの者達とは相容れない。

 仮にギュードゥルン達がここに来なかったとしても接触すれば何らかの理由を付けてこの世界はコスモロギア=ゼネラリスに害を成す事となるだろう。


 「そちらの質問には答えた。 今度はこちらの質問に答えて貰おう。 こちらの事情を知った上で、コスモロギア=ゼネラリスに対してどのような対応を取るつもりだ?」


 サブリナの目的は時間稼ぎである事は半ば確信していたが、時間は彼女だけの味方をする訳ではない。

 もう少しすればアルヴァー達が戻って来る。 合流できれば戦力的な不安は完全に無くなるので、時間が欲しいのはギュードゥルンも同じだった。


 質問に対してのサブリナの返答は笑い声。

 低く、嘲るような笑い声だった。 少しの間、サブリナは笑い続けていたが、ややあって止まる。


 「これは失礼を。 この世界は聖域、許可なく足を踏み入れる事は許されない。 どのような理由があったとしても、それは万死に値する大罪。 ですが、我等の神は寛容、地に這い蹲って忠誠を誓うのであれば機会を与えるという慈悲を理解できないのであれば仕方がありませんね。 ――さて、そろそろ無駄なお喋りは終わりにしましょうか」

 「周囲に伏せた伏兵の準備でも整ったか」


 同時にギュードゥルン達が全員武器を構える。

 

 「伏兵? ふふ、面白い事を仰いますね。 あなた達程度の相手に我が教団が誇る混沌騎士を差し向けるまでもありません。 ですので、代わりを用意しておきました。 同程度の相手ですがこちらには神への無限の信仰心があるので、勝敗は論ずるまでもありませんが」


 そう言ってサブリナが軽い動作でパンと手を叩く。

 すると彼女の背後に軍勢が現れた。 ギュードゥルンは新たに現れた敵の姿を見て目を見開く。

 何故なら見覚えのある者達だったからだ。 周囲の探索に出ていてもうすぐ帰って来るはずだった者達。 アルヴァーの姿も見えるが、全員に共通している事は表情が全くない事だ。


 幻覚を用いてこちらの動揺を誘っているのか?

 それはない。 サブリナはギュードゥルン達の事情だけでなく、名前まで知っていたのだ。

 彼等の誰かから何らかの手段で得た情報だろう。 つまり彼等は本物で間違いない。


 その割には武器などの装備はそのままで、表情だけが虚ろだった。

 

 「何をした?」

 「布教を少々。 彼等は非常に物分かりがよく、神の偉大さに平伏し、僕となる事に同意して頂けました」

 

 魅了で寝返りを強要された? それとも催眠暗示の類で敵味方を誤認させられている?

 即座に浮かび上がる可能性はそんな所だが、どちらも強い衝撃を与えるか状態を維持している媒体を破壊すれば正気に戻せるはず。 だが、アルヴァー達相手にそれができるのだろうか?

 

 いやと内心で首を振る。 出来る出来ないは問題ではなく、やるしかないのだ。

 

 「では、お互いに準備も整ったようですので早速始めるとしましょうか。 気が変わったら早めに申告してください。 『何でもするので命だけはお助け下さい』とね?」

 「この外道が! いいだろう、我ら守護騎士の力を見せてやろう!」


 サブリナはそうですかと一言漏らした後、表情を消して背を向ける。

 そして入れ替わるようにアルヴァー達が前に出た。


 「アルヴァー! 正気に戻れ! ――駄目か」


 呼びかけたが応える声はない。 

 アルヴァー達は無表情にだらりとその場に佇んでおり、武器を構える様子もない。 

 戦闘できるようには見えないが、どうにか取り押さえれば正気に戻す事が――


 ギュードゥルンのそんな考えはアルヴァー達に起こった変化を前にして消し飛んだ。

 アルヴァー達の全身が波打つように膨張と収縮を始める。 明らかに人体ができる挙動ではない。

 そしてメキメキと異音が響き、彼等の肉体が変化していく。 


 ――異形の怪物へと。


 辛うじて人型を留めている者もいたが、大半が装備を破壊しながら巨大化。

 

 「あ、あぁ……」

 

 それはアルヴァーも例外ではなく、愛した男が醜い異形に変貌して彼女の口から絶望の声が漏れる。

 冷静に考えれば今仕掛けた方が良いと思えるのだが、仲間が異形の怪物へと変貌した姿を前に動く事ができなかった。 そうしている間に変化が終わり、アルヴァーだった存在が人体に発する事が不可能な奇妙な咆哮を空に向かってあげる。 


 それが合図だった。 異形の群れは嬉々として仲間だった存在に向けて突撃していく。

 地獄が始まった。

誤字報告いつもありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] いやー、変身を待ってくれるなんてコスモロギアは正義の軍団ですね(白目) って冗談はさて置き、原作から続く現地調達(強制入信)ですけど相変わらずえぐいですね。しかも恋人を目の前で変身。 …
[良い点] 教祖様、布教活動開始。 敵の一部隊を丸ごとこちら側の戦力として使い潰せるとは、なんてコスパの良い戦争! グロブスターも世代を重ねて改良されているのか、アルヴァー達の変異がエグいことに……
[一言] 相変わらず的確に敵の弱点を突いていく手腕は見事ですね。嫌がらせとも言うけど。 こ、これがサブリナ式の布教……!いやまぁ、敵に対してはともかくオラトリアムの住民に対してはちゃんとしたまともな布…
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