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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
ΑφτερⅡ-Ⅰ Ι σας τηε θνκνοςν ςορλδ βευονδ τηε τθννελ!

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1319 「空交」

 「ふん。 他と連絡が付かんところを見ると分断されたとみて間違いないか」


 そう呟いたのは十メートル以上もある巨大な白熊だ。

 背には四枚の羽と頭頂部の真上には輝く光輪。

 彼はラウレンティウス。 天動の塔からこの世界へと向かった戦士であり、この集団を率いるものでもある。


 周囲をぐるりと見回すと何もない平原。 遮蔽物もなく視界を遮るものは何もない。

 他から来た者達と同期して侵入したので、連絡が付かないのは分断されたと判断するべきだろう。 地平の塔の者達よりも判断が早いのはこの世界を最初から敵と見做しているが故だろう。


 彼の配下達――様々な動物に光輪と羽を備えた生き物たちが周囲を警戒している。

 

 「周囲に敵の気配は?」

 

 そう尋ねると分からないと首を振る。 ラウレンティウスはどうするべきかと考えを巡らせた。

 彼等の人間とは比べ物にならない程に優れた五感を以ってしても敵どころか生物の気配すら存在しない。

 どう考えても普通の空間ではないので、留まっている事は危険と判断する。


 連絡は不通、転移によって戻る事も妨害されているのか不可能。

 そこから導き出される結論は一つ。 ラウレンティウス達はこの空間に囚われているのだ。

 敵地に転移したと同時に囚われた。 そう考えたラウレンティウスの思考に宿ったのは怒りだ。


 天動の塔では名の知れた存在である彼は自身が戦士である事に誇りを抱いている。

 そしてあっさりと虜囚になる事は彼の中に在る戦士像からは大きくかけ離れていた。

 つまりは誇りを傷つけられたと感じたのだ。 怒りを表に出さずに彼はがぱりと口を大きく開ける。


 光輪と羽が光り輝き、大きく開けた口の前に魔力が収束し――破壊の力となって放たれた。

 光は長々と尾を引いて空を切り裂くように天へと立ち昇る。 何かに当たった手応えはない。 

 ならば何か反応が現れるまでこの空間を破壊していけば相手は何らかの対処をするはずだ。


 ラウレンティウスは今度は大地に向けて攻撃を放とうとしたが、唐突に現れた何かにその手を止めた。

 それは人型の影のようなシルエットだけの存在で、気配が全くない所から映像の類と判断。

 わざわざ出て来た所を見ると何か言いたい事があるのだろう。 もしかするとさっきの攻撃が効いて止めてくれと懇願でもしに来たのか? そんな想像を巡らせながらラウレンティウスはその影を睨みつける。


 「――本来ならそちらの準備ができるまで待つつもりだったが、待ちきれないと判断しても?」


 影の言葉は主語を欠いたもので、人によっては何を言っているのだと思うかもしれない。 

 だが、戦士であるラウレンティウスにははっきりと意図が伝わった。 

 これはつまり「戦いを始めよう」という合図であり、同意を求める言葉だ。


 「我が名はラウレンティウス。 コスモロギア=ゼネラリス六界巨塔の一、天動の塔の戦士! これから貴様らを叩き潰す者の名だ! 覚えておけ」

 

 影はなるほどと納得したかのように呟く。

 

 「そちらの意向は了解した。 俺はニコラスだ。 短い付き合いにはなると思うがよろしく。 では、望み通りさっさと始めるとしよう」


 ニコラスと名乗った影は最後に言い忘れたと一言付け足した。


 「取りあえず、全員飛べるようで安心した。 お互い、死力を尽くすとしよう」


 ニコラスの姿が消え、同時に地面が消失した。  

 全方位が空となり、全員がこの大地なき空間に放り出されたのだが、天動の塔の住民は全員が飛行能力を保有しているので何の問題もない。 どうやって大地を消したのかは見当もつかなかったが、分からない事は考えるだけ時間の無駄だ。 今はこれから現れるであろう敵への対処となる。


 遠くから無数の何かが高速で接近する気配。 

 数は多いが天動の塔、五百万の軍勢に比べれば小勢と言える。

 目算で二十から三十万。 距離が詰まる事でその全容が明らかになった。


 メタリックなカラーリングのボディに背中には真っ黒な羽。

 硬質な印象を受けるそれは天然の生物ではなく、人造の存在によって生み出されたそれだ。

 それらの存在を認めたラウレンティウスが最初に抱いたのは強い嫌悪感。


 何故なら敵の背に生えている羽は自分達の背に付いているものと同種だと分かったからだ。

 恐らく何らかの形で移植した物だろう。 あの悍ましい人型の機械は自分達に近しい存在を殺して羽を毟り取ったのだ。 黒い理由に関しても想像がつく。


 天動の塔では精神の高潔さが求められ、それを保証するのが彼等の羽と光輪だ。 

 何らかの罪を犯した者はその羽に濁りが現れ、最終的には黒く染まる。

 彼等はそれを「堕天」と呼んでおり、最も罪深い事だと認識していた。


 つまり目の前の者達は罪の塊なのだ。 

 その事実だけを切り出しても滅ぼす理由としては充分に過ぎる。 


 「捻り潰せ」


 ラウレンティウスの静かな怒りを乗せた号令に従ってその場に居た全ての者達が迫りくる敵の集団へと突撃した。



 

 ――敵は約五百万。 これを全員で分ける形になる。


 ――今回は隊長の出撃は後になるんだろ? なら出てくる前に俺達でスコアを稼いでおこうぜ。


 声なき声で意思を交わすのは大地なき空を飛翔する機体達。

 彼等は第一陣として目の前の敵の撃破を命じられた者達だ。 

 物量差は十倍では利かないはずだがその口調には悲壮感が微塵もなく、それどころか誰が一番手柄を手に入れられるかの話をしている。 明らかに彼等には余裕があった。


 だからと言って敵を侮っている訳ではない。 彼等は感謝しているのだ。

 ここ最近、目立った活躍の機会が存在しないので、今回のような異世界間戦争は貴重な活躍の場なので恵みの雨のように感じており、彼等は敵に対してこう思っていた。


 来てくれてありがとう。 お前達は俺達がありがたく皆殺しにしてやるからな。


 ――おいおい、皆殺しは不味いんじゃないのか? 何体かは捕獲して実験動物として回収するんだろ?


 ――あー、可能であればそこそこ強い個体はそうしろって話だが、無理にしなくていいってさ。 


 ――何で?


 ――お前、ブリーフィングで話をちゃんと聞いてなかっただろ。 軽く生体情報を調べた結果、目新しいものはなかったから別に要らないってさ。

 

 ――マジかよ。 ラッキー、うっかり皆殺しにしても怒られないとか最高だな。


 ――一応、捕獲でも撃破扱いになるから、できれば何体かは捕獲しろとは言われているからその辺は忘れるなよ。 サンプルを持って帰ると研究所(ラボ)の連中は喜ぶぞ。

 

 ――だよなぁ。 まぁ、できるだけやってみますか。

 

 彼等は雑談を切り上げ、そろそろ射程内に入る敵軍へと集中した。

誤字報告いつもありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ニコラスのいかにもな強者感がいいですね。 流石は一ゴブリンからオラトリアムの主力級にまで成り上がった男! 新型機種VS天使。 数では圧倒的に天使達の方が多いですが、そんなことは些事と言わ…
[一言] ニコラス、ちょっと雰囲気が変わった……?今回の台詞から歴戦の戦士特有の貫禄……というか凄みを感じさせてくれます。 本編では一貫してサイコウォードのパイロットでしたが、さてこの外伝ではどうなっ…
[一言] 空中戦とな・・・ 緑の人はまだかーッ!
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