123 「候補」
別視点
現在、残っている候補者は5人。
長男のベン。
彼は商売関係に強く、よく店に出入りしており人脈もあるそうなので先程の連中も彼が手配した可能性が高いとの事。付け加えるなら長男である事を持ち出してよく「次期当主は自分だ」と嘯いていたそうだ。
性格に関しては高圧的でよく他人を見下す傾向にあるらしく、アドルフォ自身嫌味をよく言われたらしい。
次男のグリム。
こちらは人材派遣関係の仕事を手伝っており、家の後ろ暗い部分に詳しく、今回の件も事前に察していたと思われる。携わっている仕事柄、こちらも自由になる配下が居るはずなので長男の次に怪しいらしい。
母親も違い、歳も離れている事もあり接点が薄く不明。
ただ、口数は少なく暗い雰囲気との事。
長女のエトーレ。
特別、何かをしていると言う話は聞いた事はないが交友関係が広く、よく街で複数の異性と歩いているのを見かけた。
こちらも腹違いで歳が離れており、家族の集まりにも顔を出さないので接点が薄く、性格や人柄もよく分からないそうだ。
次女のパスクワーレ。
勉強家で、既に3級公官の地位を得ており現在は2級へ格を上げる為に勉強中。
公官試験関係で良く勉強を見てくれているので比較的仲は良いらしく、アドルフォから見ると落ち着いた性格でこの催しに乗るとは考え難いそうだ。
三女のアドルフォ。
目の前にいる彼女だ。
彼女達は実の兄弟姉妹ではあるが、何名かは母親が違うらしい。
ベンとアドルフォは実の兄妹だが、他は全員違うようだ。
付け加えるなら脱落した10名は彼女達の兄弟姉妹ではなく親戚らしい。
「まず、確認なんだけど一番怪しいのが長男のベンさんなんだよね?」
「はい。ベンお兄様は……その、手段を選ばない人なので…」
アドルフォは複雑な表情で頷く。
他の兄や姉達に対しても大丈夫と言いきらない所に家族に対する不信感が如実に現れている。
「なるほど。少なくとも全員が敵と考えた方が良いかもしれないか」
「…ええ。そうですね」
「それを踏まえた上で聞くけど、兄や姉達に対してどういう対応をするつもりなんだい?」
暗に敵対した場合はどう無力化するのかと質問をする。
これは早い内にはっきりさせておいた方がいい。
アドルフォは僕の質問の意図には気づいているようで、答えを探すように視線を彷徨わせる。
「……ハイディ様には負担をかける事になるかとは思いますが、できれば兄様や姉様達を殺すような事はしたくありません。ですから…」
「分かった。なら捕まえて期間が過ぎるまでどこかに閉じ込めて……そういえば期日がいつなのか聞いて居なかったね。いつだい?」
「3日後の朝です」
3日…朝って事は実質、2日と少しか。
それぐらいなら何とかなるかな。
取りあえず疲れているアドルフォは寝かせてしまおう。
「分かった。詳しい事は明日にして今日の所は休むとしよう。僕は起きているから君は休んで」
「あの…」
「いいから。あ、でも何があるか分からないから、武器は起きてもすぐ使えるように手元に置いておいてね」
アドルフォは何か言いかけたが、素直に頷いて寝台に入る。
「今日はありがとうございました。あの明日もよろしくお願いします」
「うん。よろしくね。僕が見てるからゆっくりと休むと良いよ」
彼女は少し笑みを浮かべて目を閉じた。
寝入るまでは直ぐで、もう寝息を立て始めている。
さてと。
僕は昼間に使ったスティレットを取り出して荷物から小瓶を取り出す。
慎重に蓋を開けて瓶の中に先端を入れる。
この毒は効きはいいが一度使うと、仕込み直さないといけないので基本的に使い捨てだ。
今回は運よく回収できたので再利用できるが、予備の用意をしておいた方がいいのかもしれない。
後は装備を簡単に整備した後、戦った相手から奪った道具類を机に広げる。
短剣が4本。特に特徴のない普通の物だが、造りはしっかりしているのでそこそこ値が張りそう。
魔石がたくさん。見た感じ、どれも閃光や煙幕等の撹乱系の魔法が内包されている。
最後に腕輪。魔石が嵌まっているだけの無骨な作りだが頑丈そうだ。
たぶんだけど姿を消したのはこれの効果かな?
試しに使ってみたが、確かに姿を消す事ができるが常に魔力を送り込まないと透明化が維持できない。
しかも燃費が悪い。少ししか使っていないのに疲労感が襲いかかってくる。
…使い勝手は余り良くないか。
念の為、身に着けておく。
防具類は剥いでいる暇がなかったので手に入ったのはこれだけだ。
勿体ないし、売れば少しは足しに……はっ!?
…僕は何を考えていたんだ。
何故か脳裏に彼が現れ「襲って来た連中から物を剥ぐのは当然だろ?」と囁いている。
いけない。彼が襲って来た夜盗の身ぐるみを逆に剥いでいるのを見て最近、それが当然と思うようになってしまっていた。
いや、最初は僕もいけないよ?と諫めたのだが、売った物の代金を半分僕に分けてくれるので、流石に貰いっぱなしは良くないと最近は剥ぎ取りを手伝っていたのだ。
お陰で、他人の身ぐるみを剥ぐ事に抵抗が薄れ……いけない。
僕は何を考えているんだ!?
他人の物を奪うなんていくら相手が悪党だったとしても……脳裏に路銀と装備代の数字がひらひらと飛び回るのを見て……頷いた。
…うん。悪党ならいいかな?
元々、命なり物なり奪いに来ているし、逆に盗られても文句は言えないね?
……言えない…よね?
切り替えよう。
まず、アドルフォの言う残った候補者についてだ。
楽観は危険なので全員がその気になっていると見るべきだろう。
聞き取った全員の立場から、用意できそうな戦力を予想する。
まずは長男のベン。
彼が一番読み辛い。商人という立場上、様々な人物との繋がりがあるのは間違いない。
その為、候補が多すぎて何を持ち出すか分かりにくいのだ。
単純に盗賊紛いの荒くれ?殺し屋?それとも傭兵?
当主と言う立場がかかっている以上は必勝の布陣だろう。
個人的には傭兵の類だと思う。
相手にするのはアドルフォだけじゃなく他の候補も居るんだし、質と数を揃えるのは常道だ。
次は次男のグリム。
彼は比較的だが、分かりやすい。
正直、アドルフォが曖昧に表現した人材派遣という言葉に心当たりがある。
魂の狩人。
かつて僕の体を操っていた人物が、幹部を務めていた暗殺者ギルド。
その本拠はここの筈だ。
その人自身の事は今一つよく思い出せないが、行動自体は覚えている。
確か、王都から活動資金が出ていたのは間違いない。
表向きは傭兵を主とした人材派遣としていたはずだ。
…尤もある程度、軌道に乗ってからは自力で動いていたようだけど…。
少なくともここ王都に本部があるのは確実だ。
もしかしたら…アドルフォの家が…。
内心で首を振る。気にはなるが、今考える事じゃない。
…が。僕の予想が正しければ、構成員の殺し屋を送ってくる可能性が高い。
長女のエトーレ。
彼女に関しては情報が少なすぎる。
交友関係が広いのは分かったが、裏を返せばそれだけだ。
その友人に護衛でも頼むのかな?
最後に次女のパスクワーレ。
既に公官という地位を得ているので、公の戦力をある程度動かせるはずだ。
理由さえあれば騎士団さえ動かせる。
もしかしたらグノーシスに依頼して聖騎士を派遣して貰えるかもしれない。
そう考えるなら脅威度は高い。
下手に返り討ちにすると立場が悪くなる恐れがある。
現状で脅威度が高い順に言えば、パスクワーレ、グリム、ベン、エトーレの順だ。
退けるだけなら多少前後するが、総合的に見ればやはり国が保有する戦力は恐ろしい。
下手をすれば居場所を失う。
基本的に逃げ回る事になるだろうが、どちらにしてもこちらはアドルフォを合わせても2人。
取れる手はそう多くない。
…どうした物か?
僕はアドルフォが目を覚ますまで周囲を警戒しつつ、思索に耽っていた。
「くそっ!何故だ!?」
男――セバティアール家長男のベンは机に握った拳を叩きつける。
場所は自分の所有している屋敷の自室。
今回の当主選抜。何としても勝ち抜くつもりだ。
その為に自分の人脈を活用して必勝の布陣を用意する事にした。
正直、必要以上に関わり合いになりたくない連中だったが、今回ばかりは話が別だ。
負けられない以上、最も強い手札を切るのは当然の選択だろう。
…が、どういう訳か声をかけた組織――ダーザインがこの土壇場になって協力できないなどと言いだしたのだ。
聞けば急ぎの案件があるので人を出せないらしい。
あれだけ出資してやったのにこちらの依頼を断るだと!?
確かに急な話だったがそれを捻じ曲げても構わないと思えるほどの餌は恵んでやったはずだ。
出資を断つと脅しても答えは変わらなかった。
結局、怒鳴りつけてその場を後にし、話はご破算。
他で戦力を調達しなければならなくなった。
仕方がないので、代わりに懇意にしている商隊の護衛を良く務めている傭兵に声をかける事にした。
彼等は腕は立つが目立ちすぎるので暗殺には向かず、今回の選択肢からは外していたが「狩人」の連中よりは余程信用できる。
暗殺なら本来「狩人」達に依頼すべき事なのだが、連中はグリムの息がかかっている。
下手に頼ると間違いなく寝首を掻かれ…死ぬ。
死ぬ?このセバティアールの長男であるベンが?
冗談も休み休み言え。
親父も親父だ。あのくたばり損ないめ。
選抜なんて面倒な手順を踏まずにさっさと俺を指名すればこんな面倒事にはならなかったんだ。
普通に考えれば次の当主は俺だろう?
家の為にいくら稼いでやったと思ってるんだ。
収支で考えれば俺を失う事がどれだけの損失か理解できるだろうが!?
引き籠りのパスクワーレよりも!根暗のグリムよりも!阿婆擦れのエトーレよりも!無能のアドルフォよりも!当主に相応しいのはこの俺、ベンだろうが!!
喚きながら周囲の物に当たり散らす。
色々と吐き出しているが頭では理解しているのだ。
もう自分は詰んでいると。
護衛を依頼した傭兵にはすべて断られた。
断りの文句は「~が死んだのでちょっと」だ。
その時点で察しは付いた。
グリム――あのブツブツと俯きながら喋る、気持ちの悪い弟の仕業だ。
…素直に殺されておけば良い物を、この俺に抵抗するとはどこまでも舐めた真似を…。
呪詛で埋め尽くされそうな思考は扉を叩く音にかき消された。
「誰だ!?」
返事はなく、更に激しく扉が叩かれる。
こんな時間に誰だ?使用人は休んでいる時間の筈だ。
それにこんな乱暴に扉を叩く奴は屋敷に居ない。
嫌な予感がするが、逃げ場はない。
机の下に隠した剣を引き抜く。
斬った相手を焼き尽くす魔法剣だ。多少だが心得もある。
並の相手なら武器の性能で押し切れるはずだ。
音を立てないようにゆっくりと扉に近づく。
叩く音は止まない。
開いた瞬間に斬りつけてやろうと取ってをそっと掴む。
捻ろうと力を込めた瞬間、顔面に衝撃。
何が起こったのか理解する事なく俺の意識はぷっつりと途切れた。




