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パラダイム・パラサイト   作者: kawa.kei
30章

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1204 「空蝉」

別視点。

 戦況は拮抗しているといえた。

 単独では敗北は時間の問題だったローとタウミエルの戦いは聖女とサベージの参戦で大きく変わる。

 彼女の援護は意図していない部分でも的確に機能していた。


 ローに接近された事により、遠距離に対する防御の優先度が下がる。

 同時に接近戦を行おうにも反撃は差し込まれた聖女の水銀と銅の武具により阻害されていた。

 加えて姿を消して近くに潜んでいるサベージの権能もタウミエルの行動を阻む。


 数的不利にタウミエルからは動揺も苛立ちも発生しない。

 淡々と自身の機能に従って世界の滅びを齎し、それを阻む障害に優先順位を付けて対処に当たる。

 脅威度の高い順番にロー、聖女、サベージ。 聖剣以上に極伝の複合使用を行ったローに対する脅威判定は非常に高かった。


 ローのタウミエルに対する考察の大半は的を射ており、敵の脅威度を蓄積した情報から割り出して判定。

 対象を撃破できる戦闘能力を発揮する。 仮に対象が想定される戦闘能力を超えた場合、脅威判定を更新して強化。 敵を滅ぼすまでそれを続ける――筈だったのだ。


 眷属である無限光の英雄の一部が離反。 正確には一体を除いて外部からの干渉により制御を奪われた。

 それも現在は一体――武者を残して全滅。 その武者はたった一人で敵の大軍を食い止めている。

 消滅した飛蝗の最期の一撃はタウミエルですら少なくない損傷を受けていた。


 それはタウミエルの根幹を成す部分にも及んでおり、眷属の生産スピードは三割以下にまで低下。

 本体強化が頭打ちになり、敵の脅威度に合わせた自己強化ができなくなったのだ。

 その為、現状で使用可能な攻撃手段でやり繰りするといった本来ではあり得ない挙動を取っており、今のローでも理屈の上では撃破が可能となっている。


 だが、そのローも極伝の複合使用によって本体に大きなダメージを受けており、同様にその能力が大きく落ち込んでいた。 彼の持っている聖剣もその力を最大限に発揮してはいるが、エロヒム・ツァバオトの幸運を以ってしてもこれ以上の好転は望めない。 後は援軍として現れた聖女とサベージがその差をどれだけ埋めるのかにかかっていた。


 聖女はこの状況を完全に理解はしていない。 言いたい事、伝えたい事、尋ねたい事、問い質したい事。

 様々な事が彼女の脳裏で渦巻いていたが、それもローの姿を見た時に吹き飛んだ。

 聖女が最初に感じた事は再会できたことに対する素直な喜びだった。 そして彼の目の前に存在する脅威。


 言葉は要らなかった。 正確には今は言葉を交わす時ではないと判断したのだ。

 繰り返しになるが彼女は状況を完全には把握していない。 しかし、目の前の存在が敵だと言う事ははっきりしている。 ならば再会を喜ぶのはその脅威を打ち破ってからだ。


 だからこそ聖女ハイデヴューネ・ライン・アイオーンはロートフェルト・ハイドン・オラトリアムに余計な事を問わず黙って力を貸す。 対するローは現れた聖女に対しては特に思う事はなかった。

 精々、便利な時に現れてくれたといった感想で、聖女個人に対しては記憶の片隅には存在していたがもう打ち捨てた過去と認識していたので驚きはあったがそれだけだ。


 手を貸してくれるなら快く受け入れよう。 それが黙って彼女を受け入れた理由の全てだ。

 仮に拒む事が出来たとしてもこの状況ではどちらにせよ受け入れるしかなかった事もあったが。

 聖女は無数の武具を射出しながら駆け出す。 本来なら完全に前衛を任せるべきなのかもしれないが、明らかに決め手にかけていた。 攻撃は全て何らかの手段で躱されるか防がれており、彼女の放つ援護も注意を逸らす以上の効果が出ていないと考えたからだ。


 それともう一点。 遠くから見て分かった事があった。

 ローの螺旋を描く魔剣がタウミエルの上半身を捕えたと思ったが、その姿が霞のように消える。

 正確には攻撃がすり抜けるのだ。 当初は幻影魔法の類かとも思ったが、ローの反応から毛色が違うものと判断。 あれ程の接近戦を行っているにもかかわらず、気付けないのは明らかにおかしい。


 ならば何かしらの仕掛けがあるのではと疑うのは自然だった。 手品の種は近くでは観衆に気付かせないが、視点を変えれば驚く程に見えて来る。 ローの攻撃を受けて消失する瞬間、足元の影が水溜まりのように大きく広がったのだ。 その後、別の一点に収束し、本体が姿を現す。


 ローがその存在に気付けなかったのも頷ける。 タウミエルは影の中を移動しており、攻撃が当たる瞬間までそこに存在しているからだ。 幻影魔法の類も併用しているのだろうが、それを気付かせないのは巧妙といえる。

 

 この場に居る全ての者は知らなかったがそれはかつての世界で「忍者」と呼ばれていた者達が使用していた技術体系で特殊な魔法と体術の合わせ技により敵を惑わしつつその命を絶つ技術――「忍術」と呼称されるものだった。 最小限の動きと時間、消耗で最大限の効果を叩きだす事を目指したそれは対象に何が起こったのかを正確に認識させない。 タウミエルが多用しているそれは一対一では非常に高い効果があった術の一つ。 名を空蝉(うつせみ)、または空蝉の術と呼ばれていた。


 失われた世界、失われた時間で培われ、タウミエルによって断ち切られた技術でもある。

 一度術中に嵌まれば大抵の者は確殺できる必殺とも言える術も種が割れればただの魔法を使ったトリックにしか過ぎず、聖女はその仕組みを凡そ理解できた。


 足元に広がった影は移動範囲で、収束した場所が出現ポイントだ。

 なら影の収束点を見極めてそこに仕掛ければ――ガチリと金属音がして聖剣が影でできた短剣のような物に受け止められた――確実に本体を刺せる。


 「下がれ」


 ローの声に聖女は咄嗟に小さく後ろに跳んで下がる。 同時にタウミエルに束ねられた無数の光線が飛来。 タウミエルは驚異的な反応で障壁を展開し歪曲させようとしたが、何度も防がれた事でいい加減に学習したローは光線を散らさずに束ねての強硬突破を図る。 その甲斐あってか、障壁を貫通。

 

 タウミエルは回避を図るが若干だが遅い。 片手を消し飛ばし体勢を大きく崩す。

 腕を復元させながら距離を取ろうとするが既に聖女が間合いに入っており、聖剣で斬りかかろうとしている所だった。 タウミエルは大きく体勢を崩しており、聖女の斬撃は放たれた後だ。


 仕掛けるタイミングとしては完璧に近い。 聖剣はタウミエルを――

誤字報告いつもありがとうございます。

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[良い点] 最高に面白いー [気になる点] 頭打ちにならなければ飛蝗や武者レベルにまで強くなってたってことですか? もしそうならこんなのどうやって倒したのかな 最初の世界なら何も積み重ねとか無さそうだ…
[良い点] 異世界忍者マジNINJA俺もこういう技能欲しい ほんとにこういう技能があった世界を見てみたいよな、そしてこの物語を作った作者の頭の中身も、案外根とか詰まってるかもしれん [気になる点] 無…
[一言] やったか!?
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