1159 「新鋭」
明けましておめでとうございます。 今年もよろしくお願いします。
続き。
空中で虚無の尖兵とオラトリアムの軍勢が交錯。
地上、空中共に持っていた射撃武器や魔法を撃ち込みながら接近。
そのまま近接戦に入る。 オラトリアムの精鋭達は迫りくる虚無の尖兵を物ともしない。
同時に山脈からの支援射撃が入る。 無数の狙撃用の銃杖から放たれる魔石は狙いを違わず、一発の無駄もなく敵の胴体を捉え内部で炸裂。 その形状を完全に破壊する。
前線の頭上を飛び越えて敵の只中に飛び込む形でガブリエルから生み出された眷属――ガブリエル=エストロゲンが生み出した無数の分体達が強襲。 次々と虚無の尖兵を屠っていく。
空ではエグリゴリシリーズのレギオンとインシディアスがその力を振るう。
今回の戦いに備えて積み重ねた訓練は実戦でその成果を遺憾なく発揮。 光線攻撃や固有能力で生み出した鎖や武具で危なげなく虚無の尖兵を撃墜していく。
中でも他より明らかに動きの良い機体が存在した。 デザインこそ既存機であるレギオンとインシディアスに酷似しているがより洗練された印象を受ける。
レギオンⅡ、インシディアスⅡ。 今までの実戦データなどから再設計した最新鋭機だ。
コンセプトこそ変わらないが一から見直した事により、全体的な性能向上と魔力使用の効率が上がっている。 欠点としては設計を見直した事により、既存機との互換性がなくなった事だ。
その為、Ⅱと既存機の合体は不可能となる。 時間とパイロット数の兼ね合いでそこまでの数は生産されなかったが、乗り手に選ばれたのはいずれも精鋭。 機種転換訓練も問題なく突破し、その性能を十全に引き出せる選ばれた者達が駆る機体の動きは他とは一線を画す。
一呼吸の内に近くに居る者と連携、他の機体の動きに干渉しない形で続々と戦果を上げる。
少し後ろには大型機であるプロメテウスが周囲に浮遊している杖を用いて凄まじい回転で高威力の魔法攻撃を連発。 大型の個体を優先的に狙い、その体を瞬く間に削り落とす。
オラトリアムの撃破スピードは別大陸で交戦中の者達の比ではない。
それでも虚無の尖兵の無尽蔵ともいえる物量は攻撃に曝されながらも突破していく。
――が、突破した個体群が一斉にその動きを止める。
正確には止められたのだ。 空に出現した巨大な眼とその視線に晒されてその動きを拘束されたのだ。
それを成したのはプロメテウスの背後から現れた大型機体の力だった。
エグリゴリType:コヴェナント。 プロメテウスの上位機種として開発された機体でアザゼルとシェムハザだけでなくサリエルという上位個体の能力を移植した機体だった。
プロメテウスよりも更に一回りスケールアップし、胴体に内蔵されている魔石は三つに増加。
パイロットはプロメテウス以上に要求される事となり、サリエルの固有能力を操作する為の乗員が追加で二人必要となった。 つまり合計で五人もの人数で操縦する必要がある。
それだけの人数で操るだけあって戦闘能力では既存機では最強だったプロメテウスすら凌駕していた。
プロメテウスからそのまま受け継がれているアザゼルとシェムハザの能力で遠近両方に隙はなく、加えてサリエルの固有能力である邪視という魔力の籠った視線を発生させる事で敵に様々な不利を押し付ける。
主に使用しているのは拘束だがその用途は広く、攻撃、防御、支援と何でもこなせる為、非常に応用範囲が広い。 複数で一定の範囲――攻撃を掻い潜って突破を図ろうとした個体を拘束し、動きが止まって棒立ちになった敵を他が仕留める形で運用されている。
虚無の尖兵は手近な者に襲い掛かりはするが本質的に魔力が高い所を狙う。
つまりは優先順位が最も高いのは山脈内に存在する聖剣と――不意に地上の一角が爆発するように爆ぜる。 原因は突然出現した巨大な鉄塊だ。
数十メートルはあるであろう鉄の塊が高速で吹き飛び、虚無の尖兵を次々と薙ぎ払う。
それを成したの前線で暴れまわっているクリステラだ。 彼女は鉄塊を殴り飛ばし、聖剣に纏わりつかせた鉄塊を振り回す。 一振りで虚無の尖兵がダース単位で弾け飛び、飛翔した鉄塊はやはりダース単位で粉砕する。
そこから少し離れた所でも別の存在が猛威を振るう。
「あはははははは! いまいち手応えがありませんが、斬れるだけで良しとしましょう」
狂った笑い声をあげながらハリシャは六つの腕に刀剣を握りしめて間合いに入った虚無の尖兵を片端から細切れにする。 最初は首を刎ねていたが、それだけでは死なないと早い段階で悟って胴体を輪切りにし始めた。 全身鎧の騎士の形状をした虚無の尖兵が槍を片手に突きこんで来るが、攻めが素直過ぎるとハリシャは白けた視線を向ける。
「何ですかそれは? もっと気合を入れてください! 馬鹿正直に武器を振り回すだけなら誰でもできますよ!」
間合いに入った瞬間に穂先を斬り飛ばし、次の瞬間には斬り刻まれて消滅。
仕留めた瞬間に消滅するのであまり殺した感触が手に残らないのが不満だったが、数が多いので我慢するとしよう。 質の悪さは数で補えばいい。
ハリシャはそんな考えを抱きながら笑い声をあげて敵を斬り続ける。
後続は彼女の斬撃に巻き込まれないように距離を取っているので彼女の一人舞台となっていた。
あぁ、素晴らしい。 敵を思うまま屠り、その命を奪う。 殺害という行為そのものに彼女は強い快楽を得ていた。 動いていたものが屍となって転がる。 他者の命が消える瞬間に立ち会う時こそ、自身の生を実感できる最高の時間だった。
そんな理由もあって殺した手応えのない虚無の尖兵は彼女にとっては気持ちよくない相手だ。
しかし、ここまで斬れる機会はそう多くない。 機会は活かすべきなのでハリシャは前向きに考えて刀を振るう。 彼女から少し離れた位置でトラストが敵の手足を斬り飛ばして行動不能にしていた。
彼は自身で仕留める事にはこだわらず、動きを封じて他にとどめを任せる形で動いている。
これは決闘でもルールが設けられた試合でもない。 大軍同士の潰し合いだ。
ならば最小の労力で最大の戦果を狙うべきと考え、結果的に撃破できればいいので動きの早い自分が敵の手足を斬り飛ばし後続がとどめを刺すやり方は効率が良かった。
無数の敵の攻撃を掻い潜り、すれ違い際に一閃。 彼の攻撃はそれで完了だ。
次の瞬間には後続が動けない敵を磨り潰す。 視線と意識は自身の周囲に絞る。
遠くを見過ぎると終わりのない作業と意識してしまうので、精神的にもよろしくない。
高い集中力を維持する為にも目の前の敵に意識を割り振るのは彼なりの精神統一だった。
トラストは敵の全容を意識せず、ただ一振りの剣としてその力を振るい続ける。
誤字報告いつもありがとうございます。




