1151 「新居」
別視点
高層の建築物が立ち並ぶリブリアム大陸中央に存在する巨大都市センテゴリフンクス。
僕――ハイディは中でも一際背の高い建物からその景色を一望していた。
……まさかこんな形でここに来る事になるとは思わなかった。
フシャクシャスラを鎮めた後、この街から逃げ出した時にはもうここに来る事はないだろうと思っていたぐらいだからだ。 それが何の因果か世界の滅びに立ち向かう事となった。
世界ノ影。 世界を滅びに導く影の群。
そんな途方もない存在に僕達は戦いを挑まなければならない。
グリゴリ、グノーシスと規模の強大な敵との戦いを乗り越えて来たけど今回は極めつけだ。
フシャクシャスラでその一端を垣間見た身としてはその恐ろしさはよく理解している。
脅威度で言うのなら辺獄種や在りし日の英雄すら大きく上回ると聞く。
センテゴリフンクスの南側には戦力を展開するべく準備が進んでいた。 日取りが決まったので戦力の拡充は終了となり戦いに備えて動き出したのだ。
これから始まるのは終わりの見えない籠城戦。 期限は敵の侵攻が止まるまで。
とにかく時間を稼ぐ必要があるらしく固めたこの要塞のような都市に引き籠って敵を引き付ける事になる。
その為、布陣するのは街を囲っている防壁の上や高台。 初手はとにかく魔法や遠距離武器で近づけない事を念頭に置いた戦いとなる。 こんな時にクリステラさんが居れば心強いけど、彼女は別の場所で戦いに参加するらしくこの場には来れない。
前回のグノーシス戦でもそうだったけど、彼女は秘密裏に何かを依頼されているようで見えない所で色々とやっているようだ。 話せない理由があるのは理解しているので努めて気にはしないけど、一人だけ何も知らされない事には疎外感を覚える。
「聖女様、そろそろ戻りませんか?」
不意に後ろで控えていたリリーゼさんがそっと声をかけて来る。 やる事がないので宛がわれた部屋に戻って英気を養うのが最善なのかもしれないけど何故か後ろ髪を引かれて動けなかったのだ。
見ていても仕方がない事も分かっているが何となく動き辛い。 そんな気持ちがあったからかもしれない。
「ところで二人はこの戦いが終わったら何かやりたい事とかはあるの?」
――そんな事を尋ねてしまった。
リリーゼさんも一緒にいるエイデンさんも僕の護衛として随分と無茶に付き合わせてしまった。
今回の一件が片付いたなら休みでもあげた方がいいのかもしれない。 そんな気持ちもあっての事だった。 二人は顔を見合わせる。
グノーシス戦には間に合わなかったけど、二人は聖堂騎士に内定したので装備が専用の物が支給されていた。 少なくとも装備面では大きく能力が向上しているはず。
「もしかして何か気にしてます? こっちも仕事なんで聖女様が気に病む必要はないですよ?」
「あはは、分かる?」
「あなたの無茶に付き合うのにももう慣れたから気にしませんよー。 それにしても初めて会った時は冒険者だったのに次に会ったら聖女様って――いや、人生分からないものね」
「はは、そうですね」
確かにそうかもしれない。 聖女という立場的に身の回りの世話役と護衛が必要だったので、エルマンさんが口の固そうな人間を探そうと考えていた時に自然と彼らの事が脳裏をよぎったのだ。
正体も知られており、実力も申し分なかった事もあって早々に選ばれる事となった。
ウルスラグナに存在したグノーシスは解体され、属していた者達全員が身の振り方を考えなければならない時期だった事もあったので付け込むようで気は引けたけど選択肢を提示したのだ。
「偉い聖堂騎士様に国の端っこから王都に呼ばれてきてみれば、新しい教団を起こすって話を聞いて、象徴たる聖女の護衛兼世話役をやらないかって言われた時は本当に驚いたわー」
リリーゼさんがエイデンさんに「そう思わない?」と振り返ると彼は苦笑で応える。
「ここまで危険な事になると思わなかったので、二人を選んで良かったのかなって思ってました」
「あ、そこは気にしなくていいわ。 どっちにしろアイオーン教団には入るつもりだったし、地位も給金もかなり良いからお金には困らなくなったしね?」
「姉さんの言う通りです。 お陰で貯金も随分とたまりましたよ」
少し離れた位置にいたエイデンさんは笑みのままこちらに近づいて来る。
「――確かに聖女様の護衛は結構きついですし、命の危険を感じた事も一度や二度じゃありません。 特に辺獄関係は本当に危なかった。 いや、本当に……」
「そうね。 フシャクシャスラの時は戦場をあっち行ったりこっち行ったりで生きた心地しなかったわ」
「それは――付き合わせて申し訳ない」
「別に怒ってないってば。 相応の見返りは貰ってるし、貴女とも上手くやれていると思ってるけど?」
「えぇ、それは間違いないです」
「だったら謝る必要はないわ。 それに貯金もたまったからそろそろ大きな買い物をしようかなって考えてるのよねー」
さっきの質問の答えかな? リリーゼさんは楽し気だ。
エイデンさんも苦笑して頷く。
「そうですね。 城塞聖堂内の宿舎も住み心地がいいのですが、折角なので近くに家を買おうと思ってまして」
「そうそう、土地を買って一から建てるのよ! 正直、洒落にならないぐらいにお金がかかるから夢で終わりそうだなとは思ってたけど、実現が目の前に来ていると感慨深いわぁ」
「姉さんってば気が早いから一緒に家具を見に行こうって聞かなくて、休みの時は一緒に色々と見に行っているんですよ」
僕は楽し気な二人の様子にそうなんだと大きく頷いたけど、ふと疑問が浮かび上がる。
家を買うのは分かったけど二人で住むのかな?
「二人で住む感じなの?」
思わず疑問がそのまま出たけど、リリーゼさんはとくに気にせずに頷く。
「そうですよ。 だから家具選びもお互いの主張が微妙に噛み合わないので難航していますよ」
「何よ! あんたが最低限の機能さえあれば安物でいいとか言うからでしょ!」
「いやいや、姉さん? お金は使ったらなくなるんだよ? 余計な支出は抑えるべきでしょ」
「あんたこそ何を言ってるのよ。 お金は使う物なんだから使う時にパーッと吐き出すのよ!」
いや、この二人って確か姉弟だよね?
少なくとも僕の知っている常識では新居を買って家具の相談をするのって夫ふ――いやいや、気のせいだ。 うん、間違いない。
誤字報告いつもありがとうございます。




