1132 「基準」
続き。
地下の最奥へと到着したヴェルテクスとラディータは聖剣エロハ・ミーカルと対面する。
逃げ出せないように鎖で拘束された聖剣を確認して僅かに目を細めた。
今まで考えていた事がある。 聖剣の選定基準だ。
オラトリアムには聖剣使いに関しての情報はかなり集まっている。
アイオーン教団聖女――ハイデヴューネ・ライン・アイオーン。
アイオーン教団聖堂騎士――クリステラ・アルベルティーヌ・マルグリット。
オフルマズド国王――アムシャ・スプンタ。
グリゴリの傀儡――ブロスダン、アリョーナ。
元グノーシス教団救世主――ラディータ・ヴラマンク・ゲルギルダズ。
転生者――弘原海 顯壽。
転生者――夜ノ森 梓。
直接接触はなかったので戦闘記録のみではあるが――
傭兵――ヤドヴィガ・ポポリッチ。
元グノーシス教団救世主――ヘイスティングス・リーランド・ハーキュリーズ。
――以上十名が現在確認されている、またはいた聖剣使いだ。
聖剣の総数が十――実質は九本と考えればサンプルとしては充分な数だった。
まず、選定された全員に言える事ではあるが、一定の水準で聖剣を使いこなせている点にある。
つまり条件の一つに最低限扱える程度の技量と、固有能力との相性が要求される事は間違いない。
特に後者の相性はかなり重視される傾向にあると考えられる。
例を挙げるとハーキュリーズのガリズ・ヨッドやアムシャ・スプンタのエロヒム・ザフキはその傾向が特に強い。 並の人間なら明らかに持て余すであろう能力だったからだ。
だが、選定された両者はその扱いの難しい聖剣を高い水準で使いこなしていたのははっきりしている。
聖女の所持しているエロヒム・ツァバオトとアドナイ・ツァバオトは能力が抽象的すぎて不明なので現在は例外として除外。 ヴェルテクスの見解では後者はともかく前者は教団の長として結果を出していることそれ自体が適性の証明なのかもしれないと考えていた。
次に彼が興味深いと考えた例はハイ・エルフの二人だ。
技量は選定された担い手の中でも最底辺だった。 特にブロスダンは対峙したロー曰く「聖騎士以下」レベルなので、普通にやればその辺の冒険者にすら敗北するかもしれない程のお粗末さ。
――にもかかわらず選定されている。
それは何故か? 理由は彼の戦績を見ればある程度だが見えて来る。
同じ聖剣使いの猛攻を凌いで引き分け、あのローと対峙してそれなりの時間生き残ったのは凄まじい。
彼は知らなかったが、九曜にすら耐え切ったのは異常とすら言えるだろう。
あの技術は瞬間的ではあるが聖剣のスペックを大きく上回る。
その為、使っただけの技であっても生き残る事は至難で、正面から受け止めて生存したブロスダンは相性が良かったのかもしれない。
つまり後者の固有能力との相性が良ければ前者の技量はそこまで重要ではない事が分かる。
固有能力を扱うに当たっての最低限の技量が要求されるのであって強ければいい訳ではない。
以上の情報を踏まえると聖剣は大きく分けて二つのグループに分けられる。
固有能力との相性が特に要求され、技量はそこまで要求されない物。
エロヒム・ツァバオト、アドナイ・ツァバオト、エル・ザドキ、アドナイ・メレクがこれに該当する。
こちらは最悪、技量は低いどころかなくても問題がないので使用するに当たってのハードルは低いと思われるが、完全に個人の才能に依存しているので扱える者は簡単に扱えるが、そうでない者にはまず扱えない。
残りは固有能力を活かす為に一定以上の技量が要求される物。
エロヒム・ザフキ、エロヒム・ギボール、ガリズ・ヨッド、シャダイ・エルカイがこれに該当する。
裏を返すと技量が高い事と適性がイコールで結ばれている物で、才能ではなく積み上げた技能が求められるのだ。
再生能力のシャダイ・エルカイは前者にも当てはまるが、頑丈な肉体に恵まれた獣人という要素も大きかったが致命傷を避ける技量が要求されるので後者にカテゴライズされた。
――さて、ではこれからヴェルテクスが挑むエロハ・ミーカルはどちらなのか?
固有能力の分身は尋常ではない並行処理を求められる事もあり、才能もそうだが分身を動かす為の技量も要求される。
脳力と呼べるものが必要とされるので判定が難しいが、ヴェルテクスは後者寄りの前者と判断していた。 並列処理は訓練も必要だが、適した構造が求められると考えたからだ。
アスピザルならば行けるのではとヴェルテクスは思っていたが、弾かれた所を見ると不足だったのか本人のやる気のなさが原因だったのかは不明だ。
色々と考察はしたが確たるものはない。 結局、状況から立てた推測に過ぎないが、それでもヴェルテクスは充分に勝算があると判断していた。
能力面では問題はない。 ただ、懸念はあった。
改造された体だ。 聖剣がヴェルテクスをローの眷属と認識すれば問答無用で弾かれる。
だが、その可能性は低いと考えていた。 ローの眷属は本質が虚ろ故に弾かれたと考えていたからだ。
そうでもなければ弘原海や夜ノ森が扱えるわけがない。
同時にローが扱えない理由がはっきりしていない事もあって、懸念が残る形となった。
聖剣と魔剣は敵対関係である以上、魔剣を手にしたローが扱えない事は道理ではあるが、所持する前にエロヒム・ツァバオトに弾かれた事もあってそう言い切れないのだ。
結局の所、試してみなければ分からない。
ここまで色々と理屈を捏ね回したが柄を握って弾かれれば終わり、そうでなければ勝ちだ。
――となる筈だが、その勝率を上げる方法に彼は一つ心当たりがあった。
その根拠は聖女の存在だ。 彼女は何故か二本の聖剣に選ばれている。
しかもその経緯はかなり特殊だ。 グリゴリとの戦闘中に飛来し、その手に納まった。
つまりは聖剣が狙って選んだ担い手なのだ。 ここである疑問が生まれた。
何故、聖女だったのか? 辺獄とはいえ位置はこちら側と紐付いているので前の持ち主が死んだポジドミット大陸からヴァーサリイ大陸へ向かうには世界を横断する必要がある。 手近の相手を選ぶにしても遠すぎる。 付け加えるなら教皇の話では聖剣の役割は外敵の排除。
つまりは世界の防衛だ。 その防衛戦力を一ヶ所に固める?
この広大な世界の防衛を担う存在を固めるのは愚かとしか言いようがない。
誤字報告いつもありがとうございます。




