1126 「試評」
続き。
エグリゴリシリーズ。
グリゴリから剥がした一部を首途が作成した骨格に張り付ける事で成立している。
天使や悪魔は生き物ではなくエネルギー体に近い存在で、残骸を放置しておくと生物とは比べ物にならない速さで消滅。 つまりはまともな生物構造をしていないのだ。
魔力で構成されているので一部であっても外部から魔力を供給してやれば消滅せずに機能は損なわれない。
エグリゴリシリーズがグリゴリの能力を限定的ではあるが使用できている理由だった。
今回、辺獄に投入された戦力は大半がエグリゴリシリーズと改造種なのだが、前者は既存の機体とはその姿が異なる。
元々、全身鎧のような硬質なデザインではあったが、全体的に膨らんでいるような印象を受けるデザイン。
それもその筈だった。 これらの機体は既存機――レギオンやインシディアスが全身鎧を着こんでいるような姿だったからだ。
レギオン+、インシディアス+。
ディープ・ワン経由で受けていた聖剣エル・ザドキによる魔力供給なしでも多少の継戦能力を獲得する為の追加武装だ。 プラスパーツと呼称される大型魔石を内蔵した外部動力を得る事で、劣悪な燃費問題を解消する一助となった。 先の戦いで一人、供給範囲外に飛び出して行動不能になった事もあって考案されたのだ。
ただ、欠点も存在する。 エグリゴリシリーズの特徴はグリゴリの能力の限定使用と上半身と下半身による分離合体機能になるのだが、プラスパーツは胴体部分を覆う事によって成立しているので目玉である分離、合体ができなくなってしまうのだ。 一応、パーツの排除は任意で可能なので、分離が必要な状況になれば放棄すれば元の機体に戻る。
欠点克服の可能性の一つとなったのだが、現状では解決には至らなかった。
稼働時間こそ伸びるが、結論としては焼け石に水に近い。 一応、内蔵魔力自体が増える事で全体的な性能向上は見込める。 その為、全くの失敗作ではないのでこうして現場で採用される事となった。
さて、問題は解決していないにもかかわらず、この辺獄の領域――アザカルヴァーで戦っている彼らはどうやって供給源を維持しているのか?
答えは彼等の背後にある新造された砦にある。 そこから無尽蔵の魔力が放出され、全ての機体に供給されているからだ。 ならばどうやって魔力を賄っているのか?
砦の最奥に存在する第十の魔剣――ナヘマ・ネヘモスの力だ。
ローにより引き剥がされた魔剣は内部が破壊されており、拘束の必要がないので辺獄の環境下では聖剣エル・ザドキに匹敵する魔力源となる。 問題は固有能力が消失しているので、使用者にしか供給できない事だったがエル・ザドキの能力を限定的に再現する装置の開発に成功。
こうして実用化まで漕ぎ着けたのだ。 それによりエグリゴリシリーズはその性能を完全に発揮する事に成功していた。 そしてこの戦いは虚無の尖兵の侵攻を止めるだけではなく、新兵器のテスト会場でもあったのだ。
レギオン+やインシディアス+より更に大型化してもはや別物のように見える機体が高威力の光線攻撃を次々と発射している。
レギオン++、インシディアス++。
プラスパーツだけでは燃費問題を解決できないといった結論が出たので、開き直ってグリゴリの能力を追加で使用できるように更にパーツを盛ったのだ。
これにより追加で更に二体分の固有能力を使用可能となり、+よりも更に大型化した動力を内蔵する事で火力が大幅に向上。 瞬間火力なら最強の量産機であるプロメテウスにすら匹敵する。
欠点としては分離が不可能になった事に加えて大型化により、旋回性能が極端に落ちたので小回りが全く利かなくなった。 特に近~中距離戦を想定したレギオンには致命的で作った後の首途の感想は「やってもうたなぁ!」の一言。
徹夜続きの疲れた思考で何故か行けると勘違いしたらしくそこそこの数が製造されてしまい、廃棄は勿体ないと希望者に支給される形となった。
火力は上がったが総合力は偏った、非常にピーキーな性能ではあったがパーツを盛りに盛って大型化した機体に感じ入るものがあったのか「是非、自分達に扱わせてほしい」と希望者が殺到。
当初は余るかと思われていたが、何故か追加生産が決まった謎の機体だった。
運用方法としてはプロメテウスに近く、高火力、長射程を活かして相手を近づけずに仕留める戦法を執る――というよりはそれしかできない。
性能としては完全にプロメテウスの下位互換に落ち着いた。
あちらはアザゼルとシェムハザの能力を切り替える事によって距離を選ばない戦闘を可能としているのでどうしても見劣りしてしまうのだ。
「うーむ。 やはり++はやり過ぎだったな。 あそこまで動きが重いとただの砲台だ」
「……何で行けると思ったんだろうな」
砦の屋上で戦況を見ながら感想を口にしているのは首途研究所副所長の肩書を手に入れたハムザという男とその隣にいるドワーフの長ベドジフだ。
彼等は+や++の実戦での性能評価の為にこうして足を運んでいた。
「所長も作った後で頭を抱えておられたが、個人的には発想自体は好みなのでどうにか欠点を克服したいものだ」
「いや、あそこまで重たいならもうプロメテウスでいいのではとならんか?」
「アザゼルとシェムハザは中々出てこないから素材の数が少ないのだ。 剥ぎ取りも時間がかかるので、次々にと用意できんのも痛い」
「最近、ラインを増やすって話はどうなっとるんだ?」
「上には打診しているが、余りいい顔はされてない」
現在、グリゴリからの剥ぎ取り作業は召喚陣の増設により一度に五体まで行えるようにはなっているが、需要に供給が追い付いていないのだ。
その為、研究所は倍の十に増やせないかと許可を求めていた。
オラトリアムの上層部もエグリゴリシリーズの有用性は理解しているが、万が一グリゴリが拘束から脱した場合を考えて軽々に許可を出せないでいたのだ。
安全策は講じてはいるが絶対ではない。 召喚規模の縮小に加えて即座に鎮圧できる戦力の常駐と安心させる為の材料を並べてはいるが、あまり芳しくなかった。
ファティマとしても戦力の増強は最重要と考えてはいるが、研究所の作業量は凄まじく明らかに飽和していたのだ。 そんな中で作業量を増やす真似は事故率を無視できないレベルで上昇させるのではないか?
簡単にリカバリーが利く程度の事故であるなら躊躇なく許可を出すが、グリゴリの脱走はリスクが高すぎるとの判断だった。
誤字報告いつもありがとうございます。




