1119 「見合」
調子が出たので少し早めに。
別視点
「……はぁ、次はこっちか」
王都に戻ってキタマとジャスミナと別れた俺――エルマンは深い溜息を吐いた。
事の発端は数日前だ。 ファティマへの定期連絡の際にジャスミナの姉が会いたがっているので、本人に会う意思があるかと尋ねるように言われたのだ。
ジャスミナの姉の話は本人から触り程度は聞いていた。 なんでも魔導書開発の第一人者との事だったがいつのまにかオラトリアムに抱え込まれていたらしい。
話によればリブリアム大陸の北に居たはずなんだがと考えたが、大陸中央部のセンテゴリフンクスへ襲撃をかけられるぐらいだ。 時期的にはその前ぐらいにあの連中に捕まったんだろう。
参加したとは考えない。 少なくともジャスミナの話通りの人物なら進んで配下になったとは考え難い。
大方、噛みついて返り討ちにされた後、無理矢理従わされたのだろう。
思わぬところで襲撃の裏が取れたが、知りたくもなかったので気分が悪くなっただけだった。
見た感じ、お世辞にも仲は良くなさそうだったので、ジャスミナが面会に応じるかは判断が付かない。
ファティマの口調からも裏の類はなく、純粋にそんな事を言っている程度の話だったので、断った所で何の問題もなさそうだった。
本音を言えば余計な手間を省く意味でも断って欲しかったが、意外にもジャスミナはキタマを連れてなら会うと条件付きで了承。
行くというのなら俺に止めさせる権利はないので、向こうとの予定を合わせて全員が王都を離れられるように準備を整えて出発となった。 ただ、待ち合わせ場所がモンセラートの治療の件で使った酒場だったので胃がかなり痛くなったが努めて気にしないようにして向かう。
今回の一件に関しては俺は完全に部外者なので当人同士の会話を外野として聞くだけの楽な立ち位置だ。
……まぁ、あんまり聞きたくもない内容の話ではあったが。
他の面子がどれだけ気が付いているのかは分からないが、ジャスミナの姉――ベレンガリアの話は明らかにクロノカイロスの首都であるジオセントルザムを襲撃した際の事だろう。
ある程度、情報を持っていればベレンガリア達の母親と妹はオラトリアムに惨たらしく殺されたと要約できてしまうのだ。 あの連中は邪魔と判断すれば一切躊躇がない。
ジャスミナの母親と妹は価値無しと判断されたのだろう。 だが、裏を返せばベレンガリアの方が始末された二人よりも価値があった事の証明でもある。
オラトリアムは損益を念頭に置いている――筈なので、優れた技術や能力があるならある程度の自由は利くと見ていい。 そうでもなければあんな場をファティマが設ける訳がないからだ。
話の内容は他所の家庭環境の話になるので、端的に碌でもない親だったんだなとしか思わなかった。
後は互いの現状確認などで、周囲の反応から内情などは漏らせないようになっているのは明らかだったので終わるのを待つだけでいい。
そのまま話を終え、俺は引率としてお役御免となった訳だが――俺にとっての予定はこの後が本番だ。
向かう先は王城。 これからルチャーノが用意した舞台でお見合いという歓迎したくない行事が待っている。 俺の婚約者候補として挙がっているのが現王の妹四人。
聖女やクリステラ程ではないが全員、容姿は整っているので好きに選べる俺の状況は傍から見ればいいご身分かもしれんな。
いや、冷静に考えればそこそこいい身分なのか? 社会的な地位で見てもアイオーン教団の聖堂騎士はそれなりのものだと思うが、何故だろうな……誰かに押し付けたくてたまらないぜ。
王城の正門に辿り着くと門番に約束があると取り次ぎを頼もうとしたのだが――既にルチャーノが待っていたのでその必要はなかったらしい。
「宰相殿に出迎えられるとは我ながら偉くなったものだ」
「このまま行けば間違いなく偉くなるから全く問題ないな」
俺の軽口をルチャーノは涼しい顔で受け流すとついて来いと歩き出す。 俺が横に並ぶと苦笑。
「理由を付けて逃げると思ったぞ?」
「待っていた理由はそれか」
「あぁ、来ないなら迎えをやる予定だったからな。 手間が省けて助かった」
どうやら俺に逃げ場はなかったようだ。 思わず重い溜息が出る。
「そう嫌がるな。 王族を好きに出来るとでも気楽に考えたらどうだ?」
「……そういうのに慣れてねぇから気楽に考えられないんだよ」
「そんなものか? 別に女を抱いた事がない訳ではないんだろう? 私にはそこまで頑なに拒む方が理解に苦しむがな」
「商売女と王族を一括りにするな」
手を付けた時に発生する責任の重さは天と地ほどにかけ離れている。
「はは、こちらとしては出荷先が決まるので助かっている」
「お前はどうするんだ? 独身なんだろう?」
せめてもの反撃だったが、ルチャーノは笑って流す。 さっきから随分と上機嫌な所を見ると、王妹の出荷先が決まって嬉しいのだろう。 王族としての業務は行っているが、立ち位置が安定していない者も多いのでルチャーノとしては早い所、決まって欲しいと思っているようだ。
「私か? 恐らくだが、適当な領家の娘と婚約になるのではないか? 他所の派閥の連中に楔を打つという意味でもその辺りが妥当だろう。 現在、選定中だが、決まっていないので未定だ。 そうでもなければ――オラトリアムが用意した女との婚姻という可能性もあるな」
「おい、冗談だろう?」
「いや、そちらに関しては大真面目だ。 向こうは私の事をそれなりに評価しているらしく、偶にそう言った打診が届くぞ」
「受けるのか?」
俺の質問にルチャーノは肩を竦めて見せる。
「さてな。 あれ程の大金を動かしている組織だ。 人手不足が深刻なのかもしれん。 婚約にかこつけて私に仕事を手伝わせる腹積もりかもしれんぞ」
おいおい、ウルスラグナからルチャーノが抜けたら不味いだろうが。
他の公官も育って来てはいるが、ルチャーノに比べればかなり格は落ちる。
ルチャーノに頼り切りといった状態は組織として健全ではない。 その為、ルチャーノを引退させて後進に道を譲るのは将来を考えれば悪い話ではないかもしれないが……。
「まぁ、近い将来、どうにかする必要のある問題ではあるが、今日明日で答えを出す必要もない。 そんな事よりもお前自身の事を心配するんだな」
ルチャーノはさてと言って話題を切り替えると俺にある質問を行う。
「――で? 誰から会うつもりだ?」
誤字報告いつもありがとうございます。




