1066 「音漏」
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視点戻ります。
どうやら当たりだったようだ。
壁や溢れている水も候補だったが、一番怪しいのはあのオブジェクトだろう。
このままだと負けるとは思わないがいつまでも粘られるのは間違いなかったので、さっさとこの場を片付けてしまいたかった。
俺にとっては変わった玩具程度の認識だったので、欲しいかと聞かれれば別にどうでもいい代物だ。
そんな訳で取りあえず狙ってみたのだが、教皇の反応は分かり易かった。
即座に守りに入り、全力で攻撃を防ぎ始めた所を見ると当たりだったようだ。
教皇の力を削げるかは微妙だが、動きを制限する分には有効だったな。
ついでに魔剣で破壊できる事は間違いないようだ。 そうでもなければここまで必死に守らんだろう。
後は相手の処理を飽和させるだけだ。 普段なら円盤やワームを繰り出してとにかく手数を増やすんだが、出した端から消されるので魔剣が使い物にならない。
固有能力である炎を伴った攻撃はやや消され難いのか消えるまでに若干のタイムラグがある。
光線をわざわざ防いでいるのはその所為だろう。 ただ、教皇と距離が近ければ近い程に打ち消す効果が強くなるのか接触状態だと第一形態ですら形状を保てなくなる。
お陰で奴の防御の正体も見えて来た。 どうも魔法の構成を破壊する類の物らしく、魔剣の生み出したものにまで干渉できるというのは凄まじいな。 ただ、本体から分離した時点で維持が難しくなっている点を見れば万能という訳ではなさそうだ。 聖剣もそうだが魔剣の本体は刃ではなく柄部分。
要は柄頭から握り、鍔までの部分が魔剣であり、刃部分は生み出されたものとなる。 魔剣がコロコロと形態を変えられる理由だな。
裏を返せば柄から離れた時点で魔剣を介した魔法といった見方もできるので、こうして教皇の権能で打ち消される訳だ。 ただ、普通に剣として扱う分には消された端から元に戻るので柄と接触している間は問題なく使用できる。
この時点で俺は魔剣をまともに使う事を諦めた。 首途の武器由来の形態変形が使えないなら魔剣使用の優先度はかなり下がるからだ。 だったら精々、教皇の足止めにでも使うとしよう。
首筋辺りから適当に腕を生やし、魔剣を握らせた後にひたすら光線を撃ち続ける砲台として利用。 その間に俺は移動して射線から離れる。
アザゼルとシェムハザ由来の能力で遠隔操作してもいいが、これを使うと魔剣側からすれば割と微妙な接触判定になるらしく、多少は離せるようになったがやり過ぎると操作を振り払って手元に戻って来るのだ。
その為、体から離す使い方をしたいならこうして新しく腕を生やすぐらいの事をしないと離して使う事が出来なかった。
もう腕というよりは触手に歪な手が付いているような変な器官で、ついでに目玉も付けているので視界も通る。 役目としては掴んで撃てれば問題ないからな。
凧上げみたいな状態で体から離れた魔剣はひたすらにオブジェクトへと光線を撃ちまくるだけになったがどうせ教皇相手には効果がないのでこの使い方が最適解だろう。
さっきから魔剣が鼓動するみたいに光っているが無視。 また乗っ取られそうになっても敵わんからな。
そういう意味でも体から離すのは悪い判断じゃない筈だ。 教皇は俺と魔剣を交互に見ている。
明らかにどちらへ対処するべきか迷っているようだ。 まぁ、その調子でしっかり守ってくれ。
俺からすれば壊れても壊れてなくても一向に構わないので自分の身を守るか将来を見据えて保身に走るか――あぁ、こんな時はこう言うんだったか?
「精々、信仰心を発揮してくれ」
そう呟いて教皇へ向けて左腕を繰り出す。 同時に空いた手の平から電撃を放つ。 後者の効果はそこまで期待していないが、発生の際にフラッシュのように光るので目晦ましぐらいにはなると期待してだ。
どう防ぐのかと思ったが教皇は錫杖で光線を防ぎながら手を振るって風の刃を大量に打ち込んで百足の群れを次々と迎撃。 電撃は権能らしき障壁で逸らされる。
――が、流石に光線を防ぎながらでの処理は厳しかったのか。 完全に防ぎ切れずに電撃は教皇の衣服を僅かに焼く。
「本気で破壊するつもりか!? これがなくなれば世界は――」
「どうでもいい」
なにやら必死な教皇の言葉を切って捨てて殴れる距離まで肉薄。 同時に手の平からドリルを出して刺突を狙うが、教皇は身を低くして俺の懐に入る。 なるほど、焦っているように見えて行動は冷静だな。
どうやら射線と俺を重ねようとしているらしい。 別にそうしたいなら好きにすればいいんじゃないか?
……どうせ無意味に終わるからな。
光線が飛んでこないと思ったのか風を纏った教皇の錫杖による突きが俺の腹めがけて飛んでくるが、中々良い位置だといった感想しか出てこなかった。
何故なら――
「――なっ!? が……」
――俺の腹を貫通した光線が教皇の錫杖ごとその腕を消し飛ばしたからだ。
やはり射線を自分の体で隠せる位置だと当たるな。 お陰で防御も間に合わなかったようだ。
「あ、ぐぅ……。 まだ、まだぁ!」
教皇は苦し気に呻きながらも倒れない。
だが、武器ごと消し飛んだ片腕の喪失に魔剣の付加効果での激痛、ついでにさっきから我慢していたらしい「憂鬱」の権能の影響で精神が一気に揺らいだようだ。 背中から生えている羽が切れかけた電球みたいに不規則に点滅し始めた。
権能自体は揺らいでいるが魔力の供給自体は途切れていない?
何か持っているのか体に細工をしているか知らんが、まだまだ頑張れそうだな。
だったらこうしようか。
「き、貴様ぁぁぁぁ!」
俺の意図に気が付いた教皇が憎しみすら宿った表情で俺を無視してオブジェクトの前に飛び込み、守るように魔剣へと手を翳す。 同時に光線が教皇の権能により断ち割られて散る。
この状態でもまだ防げるのか。 大した物だと思いつつ隙だらけになった教皇の腹を爪先で蹴り上げ、浮いた所で膝を叩き込んでドリルを起動。 教皇の腹に風穴を開けて内部をミキサーにかけながら足を振り抜く。 この状況では自身の防御に力を割けなかったのか通ったな。
俺の膝は教皇を引っかけたままオブジェクトへ当たる。 同時にバキリと奇妙な手応え。
どうやら教皇の背から抜けた部分がオブジェクトに当たって折れたようだ。
何だ? 思ったより頑丈だな。 ドリルを引っ込めた後、教皇の頭を掴んで宙吊りにする。
さて、脳みそと魂に入っている情報を全て貰うとしようか。
頭を掴んでいる指の一本を耳に突っ込んで根を伸ばす。
「が……何を……」
何か言っているが無視して侵食を続け脳へと到達。 さっさと魂を喰らって――何?
教皇の魂を見つけた所までは良かったのだが、何かに守られているのか届かない。
何だこれはと思ったが、そう言えばクリステラに洗脳を試そうとした時もこんな感じになったなと今更ながらに思い出した。
恐らく原因は権能だな。 要は解除させればいいんだろう。
俺は教皇の頭を掴んだまま潰さないように加減しながら何度もオブジェクトへと叩きつける。
ガンガンと音がしたが途中で出血が激しくなったのか水っぽい音がしているが強度的にまだ大丈夫だろう。 脳は損傷するかもしれんが死にはしない。
「う、ぐ、やめ――」
教皇は弱々しい声で何かを言っているが無視。 何故なら権能を解除していないからだ。
つまり口ではそんな事を言っているがまだまだ頑張れるという事だ。 諦めが付いたなら死ぬまでに解除してくれるとありがたいな。
そんな事を考えながら再度頭を叩きつけようとして――一瞬、体に違和感があった。
……?
何だと首を傾げたが特に異常もなかったので教皇の心を折る作業に戻ろうとしたが不意にそれは起こった。
「君達の行い自体を否定する気はない。 だが、君は諦めて誰も信じなかった。 救いを求める人々の手を振り払った以上、君の手を取る者はもういない」
――そして――
「君達を最後まで信じて戦った彼を裏切り、泣かせた事だけは絶対に許さない」
そんな音が俺の口から洩れたからだ。
思わず手を止める。 はて? 俺は今、何かを言ったのか? 自分で言ったはずなのだが、何故か認識できなかった。 首を傾げていたが、目の前では劇的な変化が起こっていた。 教皇は何があったのか大きく目を見開いており、権能も解除されている。 良く分からんが、何かあったらしい。
取りあえず喰えるようになったのでそのまま教皇の魂を喰らう。
こいつには妙な仕込みはされていなかったようで問題なく取り込む事が出来た。
そして入って来る膨大な情報。
「――なるほど」
思わず呟く。
後でじっくりと確認するが核心とも言える情報は手に入った。 色々とやるべき事は多いが、まずはこの戦いに決着を着ける所からか。 俺は教皇の脳に根を仕込んで洗脳を施すと同時に欠損の修復に入った。
誤字報告いつもありがとうございます。
弱点を見つけたら執拗に狙っていくスタイル。




