1035 「正入」
視点戻ります。
グノーシスの本国であるクロノカイロス。 その首都ジオセントルザムへの侵攻。
作戦目的は制圧だ。 いざ始めるとなりはしたのだが戦闘開始時、何故か俺はオラトリアムにある部屋の一室で暇を持て余していた。
敵の情報がない以上、無計画な戦力の投入は危険なので俺は出番まで待っていろとここに押し込められたのだ。 ちなみにサベージは俺の隣で与えられた肉の塊を齧っていた。
一応、戦況は細かく入って来るのでまったくの暇と言う訳ではない。
第一段階のディープ・ワンによる奇襲と戦力展開からの街と外を隔てる壁の制圧と増援の分断。
第二段階は転移による地上戦力の展開と並行して龍脈の捜索。 発見後はメイヴィス達による権能で敵の使って来るであろう権能の相殺と自陣の強化。 同時に遊撃として送り込んだ戦力で撹乱しつつ情報収集。
可能であれば戦力構成や有力な存在の対処法やその急所などを探る。
第三段階は要塞化したティアドラス山脈に連なる山の一つを丸ごと転移させて橋頭保として街の真ん中に落とし、内部に待機していた追加戦力を送り込んで強襲。
同じタイミングでミドガルズオルムを街の外に落として撹乱の予定だったが、巨大な天使の出現により街の外への対処が前倒しになり、山を落とすのは延期となった。
天使が思った以上に厄介だったので、やや苦戦しているという話を聞いてそろそろ出番かと考えているとヴェルテクスから連絡が入ったのだ。
これから王城と大聖堂を攻める事になるが自分はアスピザルと王城に行くので、俺には大聖堂へ向かえとの事だった。 まぁ、最初から俺は城か大聖堂のどちらかに向かうつもりだったので、行きたいというのなら好きにすればいい。 俺にそこまでの執着はないので残った方を落とし、その上で余裕があって他が手こずっているのなら手を貸せばいいだろう。
行先が決まったのでやる事は決まりだ。 座っているのにも飽きていたので、適当に転移魔石を持っている奴に連絡して近くで俺と場所を変われと指示を出す。
都合よく近くを飛び回っているレギオンの一機が転移魔石を持っていたのでそいつに転移魔石を使わせる事にしたのだ。
後は適当にタイミングを合わせてサベージと一緒に転移。
オラトリアムからジオセントルザムへ。 到着した先は事前に聞いていた通り、ジオセントルザムの中央からやや東寄り。 少し先に目立つ建物が見えたので恐らくあれが目当ての大聖堂だろう。
明らかに金がかかっているであろう派手な見た目だったのですぐに分かった。 それ以上に目立つデカい天使が居たが、クリステラと弘原海が対処に当たっているらしいので俺が行く必要はないな。
俺は俺でさっさとやる事をやるとしようか。 サベージに大聖堂へ向かえと指示を出し、適当に近づいた所で魔剣を第二形態にして光線を発射。
流石に五本分だけあって目に見えてチャージが早くなったな。 威力自体はそこまで上がっていないが、連射の間隔が早くなったのは悪くない。
……うるさい事には変わりないが。
慣れてきた所為かここ最近はそこまで気にならなくなってきたので、折り合いが付いたのかもしれないな。
闇色の光線は大聖堂へ命中。 正面の扉とその周囲を破壊。
建物を半壊させるぐらいの気持ちで撃ちこんだのだが、何らかの魔法的な防御でも施されてるようで光線を部分的にだが弾いていた。
グノーシスお得意の建築方式は形だけでなく頑丈さも売りという事か。
思い返せばグノーシス関係の建物は割と頑丈なものが多かった気がする。 金がかかってそうだし、何か高価な建材でも使っているのかもしれんな。
そんなどうでもいい事を考えながら、サベージに指示を出してそのまま大聖堂へ踏み込む。
連射で建物ごと吹き飛ばしてもいいような気もするが、中にいるかもしれないグノーシスの偉い奴に用がある以上は生き埋めにすると掘り返すのが面倒だ。 ここは素直に家探しをするとしよう。
「な、何だ貴様は――」
扉を消し飛ばした事で中にいた警備の聖殿騎士や聖堂騎士らしき連中が奥から次々と出て来たが、中の構造が知りたいから何人か残らないかなと思いつつ光線を発射。
反応できなかった連中はそのまま蒸発したが、それなりの数が左右に分かれて回避。
流石に聖堂騎士だけあって動きが良いな。 ヒラヒラ躱されるのも鬱陶しいので、第四形態をばら撒いて躱せないレベルの飽和攻撃で――おや?
一部、光線を躱しきれなかった奴が苦痛にのた打ち回っていた。 傷自体は逆回しのように元通りに再生していたが、ダメージがあるのか傷のあった部分を握り潰さんばかりに押さえている。
何を遊んでいるんだと思ったが、そう言えばと思い出した事があった。
魔剣ゴラカブ・ゴレブの炎だ。 確か触れた相手に苦痛を与えるんだったか。
殆ど使ってなかったからすっかり忘れていたな。 正直、効果は理解しているが、痛覚がまともに機能していない身としては威力を実感し辛いので、そういえばそんな能力もあったなと思ってしまう。
一応、光線や他の形態での攻撃に乗っているのだが、大抵の奴は当たったら死ぬのでなくてもいいとすら思っていた。
この様子だと思った以上に使えるのだろうか? 思い返せばセンテゴリフンクスで焼いた連中にも効いていたな。 ならこっちでいいか。
俺は魔剣の魔力を全力で解放。 周囲を埋め尽くすほどの炎が発生。
向かって来た連中へ呑み込むように襲いかかる。 光線ほど出が早くないので即座に防御行動。
炎は連中の展開した魔法障壁に阻まれたり、何らかの防御で熱を遮断したりと様々だったが、後者は賢い防ぎ方ではなかったようだ。
悲鳴を上げてのた打ち回る。 意味のある言葉も口に出せないようで苦痛を音声に変換したかのような音を垂れ流していた。 その結果に内心でなんだ思ったより使えるじゃないかとゴラカブ・ゴレブの評価を若干だが上方修正する。
……とは言っても生け捕りを視野に入れた場合に限ってだがな。
障壁で炎自体を防いだ連中はそのまま突っ切って来た。
やはり炎自体を防がれると効果なしか。 なんだ、やっぱり使えないじゃないか。
無理に使う必要はないな。 残りの連中の数人は炎を抜ける際に権能を使ったのか背に羽が生えていた。
噂の「天国界」とかいう奴だな。
直接見るのは初めてだが、知識としては知っていたので余り新鮮味はない。
さっさと片づけるとしよう。
『Περσονα εμθλατε:Μελανψηολυ』『Μελανψηολιψ ινφεψτιον』
「憂鬱」の権能により不可視の何かが周囲に広がり聖堂騎士――救世主の権能発動を不安定にする。
自己強化系には効きが悪いので羽を毟り取る所まではいかなかったようだが、気勢を削ぐ効果ぐらいはあった。
手頃な距離に近づいてくれていたので一番近くに来た奴を第一形態で血煙に変える。
やはり魔剣の炎よりザ・コア由来の能力の方が使えるな。
誤字報告いつもありがとうございます。




