鶴と亀がすべった
「ちょっと待てよ。それじゃあ、今までの推理は水の泡ということになるのか?」
僕は唖然として思わず聞き返してしまった。
「いや、これはたぶん、二重暗号というか、本歌取りみたいなものなのよ。『かごめかごめ』の原曲は江戸時代の1820年頃に編纂された『竹堂随筆』という童謡集だと言われているわ。その歌詞は『つるつるつっぺぇつた。なべのなべのそこぬけ。そこぬいてーたーァもれ』になっていて、『鶴と亀が統べった 後ろの正面 だあれ?』は明治時代に書き換えられたみたい物なの」
「どういうこと?」
「つまり、江戸時代の原曲を知っていて、さらに明治時代の歌詞を知ることによって全ての謎が解ける仕組みになってるのよ。江戸時代の歌詞は『なべのなべのそこぬけ』という童謡の歌詞に似てるのよ。『なべなべそこぬけ』の遊び方はみんなで輪になって『なべなべそこぬけ♪ そこがぬけたら かえりましょ♪』と言いながら、ふたりがアーチを作って、そこをみんなで手を繋いだまま通り抜けるのよ。人の輪を鍋と考えると、鍋の底が抜けたように見える。正面で向き合って輪を作ってアーチをくぐると、背中合わせて手を繋ぐ形になる。背中合わせで輪を作ってアーチをくぐると、今度は正面を向いた輪になるのよ。子供の頃はそれが面白くて『できた!』と言いながら遊んだことがあるわ。ふたりで遊ぶ場合の方が分かりやすいと思うけど、ふたりで手を繋いだまま背中合わせになったり、正面になったり、体ほぐしの体操みたいなものなのよね」
「それは分かるけど、――あ、裏返るから『陰陽石』なのかな?」
ちょっとピンときた。
「まあ、当らなくもないけど、その遊びの動きそのものが大事なのよ。『つるつるつっぺぇつた。なべのなべのそこぬけ。そこぬいてーたーァもれ』という歌詞の『つるつるつっぺぇつた』は『つるつる』が滑っていく様子を表す擬態語で『つっぺぇつた』は『つっぱいた』が変化したもので、『引っ張る、突っ込む』という意味なの」
「そうか。『なべなべそこぬけ』の動きと『つるつるつっぺぇつた。なべのなべのそこぬけ。そこぬいてーたーァもれ』を考え合わせると、丑寅、北東の鬼門になる陰陽石の『後ろの正面』、つまり、反対側の未申、南西の方向に移動しろということになるのかな?」
なかなか勘が冴えてきた。
「大体、合ってるよ。正確にはたぶん、この陰陽石を回すと鍋の底が抜けて、南西の門が開くんだろうけど」
カオルはいきなり陰陽石を回した。