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虹色のコード  作者: ぱらっぱらっぱ
神の寵愛受けし宝具の章
6/6

第1話 天使のガイダンス 1


 

 

『平和ね~』


 ある昼下がり。

 アンジェリクとダイモンは喫茶店のオープンスペースで一服していた。


「あ、血塗れの凶獣(スカー・レッド・カーネイジ)さんが喫茶店でくつろいでいるぞ」


「器用にカップを持ってちびちびお茶を飲んでいるわ!」


「あれ、おかしいな。なんか血塗れの凶獣(スカー・レッド・カーネイジ)さんを見てて癒やされるんだが……」


血塗れの凶獣(スカー・レッド・カーネイジ)の舎弟になっているあいつ。やっぱ只者じゃねえな」


血塗れの凶獣(スカー・レッド・カーネイジ)さんに近づくだけでも恐れ多いのにな」


「もう見慣れちゃったよね、あの付き人さんも」 


 遠巻きに噂する連中にイラッとしながらも、すぐにそれを流せるようになったのは進歩だろう。

 ああ、やはり話し相手がいるというだけでずいぶん違うものだと実感する。

 

「アンジェリク……さん」


 ふと、ダイモンが真剣な面持ちでアンジェリクに声をかけた。


『さん、は余計よ。どうしたの、改まって』


「うむ。ではアンジェリク。俺達の契約の解除をお願いしたい」


『なんですと?』


「俺もそろそろこちらの生活に慣れてきたところだ。いつまでも君に養ってもらっているのでは申し訳ない」

 

 アンジェリクとダイモンの契約から一ヶ月が過ぎ、読み書きやら金銭価値やら一般的な慣習など、生活に必要な基礎知識はひと通りダイモンは身につけた。

 ついでにとある美術商やその筋とのコネクションも手に入れたダイモンは、すでに経済的には独立できていると言っても良い状態にあった。


『いや、そこは別に気にしなくても。そういう契約だし?』


「だが、俺は君の世話になることで、ずいぶんと君の自由な時間を奪っていたと思う」


『え? いや、別に貴方と過ごす時間を面倒とか、嫌だとか思ったことは一度もないのだけど?』


 アンジェリクは別にお人好しではない。無償の親切をダイモンに施しているわけではない。

 もしダイモンの人柄が、アンジェリクの好みに沿わないものであったとしたら、あるいは契約はすぐに打ち切っていたはず。

 そうならなかったのは、ダイモンが人間としても好ましい人物であったからだ。

 ダイモンは、何事にも懸命に取り組む努力の人であった。

 異なる世界、少なくとも縁もゆかりもない土地に何らかの事故で来他にもかかわらず、不平不満をこぼしたことはなかったし、それどころか、


「アンジェリクに拾われたのは、本当に運が良かった」


と、事あるごとに礼を言うのだ。

 総じて努力家で気持ちのよい青年であるダイモンとの交流は、アンジェリクにとっても新鮮で、刺激的な日々であったのだ。


『私が好きで、貴方との時間を作っていたのだから、気に病むことは無いわよ』


「……お、おう」

 

 ダイモンは、何故か頬を赤らめてた。


「しかし、君の本業に差し障っても申し訳ないと」


『まあ、そうかもしれないけど、蓄えはたくさんあるから、数ヶ月くらいは、余裕でのんびりできるけど?』


「……だったら。俺は別の形で、君に恩を返そうと思う。君のトレジャーハントに俺も参加させてくれ。君をサポートさせてほしい」


 ダイモンの言葉に、アンジェリクは面食らっていた。何を言ってるのだ、このアンポンタンは。


『ええ? 正直、命がいくつあっても足りないくらい危ないよ? 私も死ぬような思いを何度もしているし』


「危険は承知のうえだ。それに、あえて言わせてもらうなら、単に恩返しというだけじゃない。俺自身の希望でもあるんだ」


『……というと?』


「俺は元いた世界でも神秘を探して旅をしていた。その旅を、もう一度始めたい。この世界で」


 そう言うダイモンの瞳にギラギラとした何かが宿るのを、アンジェリクは感じた。

 例えるならそれは、情熱。

 飽くなき探究心の発露だった。


「この世界には、本物の伝説が、幾つもあるんだろう? だったら、俺はそれを見て、触れて、感じたいんだ。それに、君の姿を何とかしてやりたいと思うし、俺自身、なぜこの世界にやってきたのか、その原因を探っていきたいとも考えている。そのためには、危険とわかっていても、飛び込むしか無いと」


 熱を持って語るダイモンを見て、アンジェリクはすこしばかり気に食わなかった。同時に羨ましくも思った。

 アンジェリクがトレジャーハントをするのは、元の姿に戻るという至上命題があるからで、先立つものも必要だからという即物的なものだ。決して好きでしていることではない。

 だが、ダイモンは、トレジャーハントにロマンを求めている。安全に暮らしていけるのにもかかわらずだ。

 命知らずの愚者だと吐き捨ててやりたい。だが、そんなふうに自分の好きなことを、追い求められるのは、素敵なことだと思うのだ。

 夢など持たないアンジェリクだからこそ、夢を持っているダイモンを眩しく感じた。


『それってさ。つまるところ、契約を切ったところで、貴方が開拓者ヴァンガードになってトレジャーハントをするのは既定路線ってことよね』


「ゆくゆくは、そうなると思う」


 ダイモンはひとつ、首を縦にふった。


『はぁ……』


 アンジェリクはこれみよがしに苦い表情で額に手を当てて、ため息をついた。


『私の知らないところで死なれたら、たまったものじゃないわね。いいわ、私が指導役になりましょう』


 こうして、ダイモンがアンジェリクの探検に加わることとなった。




***


 開拓者――ヴァンガード。そしてその互助組織である開拓者協会――ヴァンガード・クラスタ。

 古の時代より存在するこの二者は、神の時代と天の時代、人類という種が世代交代を経た現在もなお続いている歴史のある存在だ。

 開拓者とはその起源を文字通り、未踏の土地を開拓する先導者たちに持つ。

 彼らはどんな仕事でも精力的にこなしたことから人々から頼りにされ、転じて何でも屋という意識を人々に持たせた。

 そのことが、国家、民間問わず広く仕事クエストを募り、あるいは開拓者協会そのものが依頼人となり、開拓者協会がそれらの仕事の内容を精査・整理し、開拓者へ斡旋するという形につながっている。


 そんな説明を開拓者協会で聞き及んだダイモンは、次のような理解をした。

 つまり、開拓者とはフリーランスの労働者のことであり。

 開拓者協会とは協会に登録した労働者を仲介する派遣会社のことであると。

 

 身も蓋もない、ロマンのかけらもない言い方であった。



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