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魔女の時計  作者:
8/12

メモ帳が欲しい


朝日の眩しさに目を開ける。スッキリとした気持ちの良い朝に、上体を起こして伸びをした。


「ん?あれ?」


隣に紅野が寝ていて一瞬目が点になる。何で?


「ああそっか。昨日一緒に寝てたんだった」


欠伸を一つして、紅野を見やる。気持ち良さそうに寝ているからまだ起こさないでおこう。時計を見ればまだ朝の6時だ。起きるのには少し早いだろう。


動く気にはなれなくて、ベットの上で膝を抱え体育座りをする。


昨日紅野と話し合ったが、これからの具体的な指針は決まっていない。


そもそも真穂が僕達に駒として扱うと、わざわざ宣言した理由は何だ?それを言ったところで得は無いように思う。反って警戒されるだけだ。分からない。只の脅しという可能性もある。大人しくしていろという脅し。


昨日紅野と話し合ったのは、打算的な考えが詰まっている。


まずこの部屋が向こうの監視下にあると仮定し、わざと信用しないと言った。その上で表面上は上手くやるとも言った。筒抜けであるなら、態度を変えてくる筈だ。脅すなり問い詰めるなりしてくるだろう。そうなれば、監視の有無が判明する。


監視されているのであればそれはそれで良い。良い気はしないが、出ていかないと思っていてくれれば御の字だ。


この事に紅野は多分気付いていないだろうが、僕としても話す気はない。言ってしまえば紅野の場合、確実に表情に出てしまうだろう。それに余計な不安は与えたくない。人を疑うのが嫌いな紅野の事だ。きっと相当なストレスだろう。


「呑気に寝ちゃって」


枕に埋めた顔は、何とも落ち着いていて気持ち良さそうだ。知らないところにいきなり連れてこられて、頼れる人もいずに右も左も分からないのは僕だけじゃない。


全く。紅野の奴、可愛い寝顔しちゃって。少しの間眺めていたい気もするけど起こさないとね。一応人の家には変わりないから寝坊は駄目だろう。まぁ、家じゃなくて城だけど。


「紅野ー。起きなさーい」


何回か呼び掛けても起きない。起きる気配さえない。フワフワと柔らかそうな茶髪に触れる。思った通りそれは柔らかくて手触りが良い。年齢より幼く見える顔は、寝ている時は尚更幼い子供の様に見えた。


子供に甘いわけじゃないけど、子供には弱いんだよなぁ。


「起きなよー」


中々起きない紅野を揺する。それでもスースーと寝息をたてているからカーテンを開けた。


「ううーん?あれぇ?呉葉?何してんの?カーテン閉めてよ。眩しいから」


朝から口数の多い。何でじゃない。僕はお前と一緒に寝ただろうが。まさかと思うが覚えてないとかか?しかも文句が多いなこいつ。


「ほら。布団に潜ってないで起きなよ!」


「五月蝿いなぁ。あと少し」


全く起きようとしない。こんなに寝起きの悪い奴だったのか。


「朝ごはん食べに行くよ!」


「ねぇ知ってる?しつこい男は嫌われるよ」


少し頭を上げたものの、そのムカつく言葉を吐いて直ぐに寝てしまう。こいつ今までどうやって起きてたんだ?例え目覚まし時計をセットしていたとしても、その目覚まし時計に文句を言って起きなさそうだ。


「しょうがない。奈義沙でも呼んでこようか」


「ヤダー!」


頭を上げなければ、目も開けないままで叫ぶ。もう僕、こいつの事殴って良い?


「起きないと本当に呼ぶよ」


「…………起きる」


さっきまでのやり取りが嘘だったかの様に、スッとベットから降りて着替え始める紅野。そんなに奈義沙が嫌いか。


「呉葉も寝てれば良かったのに。早起きだなぁもう」


起こしてやったのに、まだ文句を言うのかこいつは。仕方無い。少しは反撃するとしよう。


「早く仕度しないと絶交するよ?」


「分かったから待って」


ブスッとした顔のままの紅野が、少しだけ可笑しく見えた。髪が寝癖でぐちゃぐちゃだ。折角綺麗な髪なのに。


「…………何?」


「いや、紅野の寝起きが新鮮だっただけ」


紅野のフワフワと柔らかい髪に手を伸ばす。柔らかいからか癖が付きやすいようで、手櫛で何回か梳いて抑えてやれば元に戻った。紅野がいつもしているように、左側の前と横の髪を紅野の手元からピンを取って留める。


「ありがとう。毎日やってる俺より上手い」


「どういたしまして。ほら、朝御飯食べに行くよ」


背中を押して階段を降りる。そこで鉢合わせた人物に紅野が「げっ」と声を上げた。奈義沙だ。真穂とは違う、人を近付けないオーラに奈義沙だというのは一目で判った。


「あら、紅色に呉葉じゃない。おはよう」


調度階下にいた奈義沙が顔を上げて、朝の挨拶をする。彼女の方もこれから朝食だろうか。


紅野は自分の事を紅色と言われて、寝起きの機嫌の悪さに不愉快さを加算させた。


「そろそろ名前覚えてくれませんかね。頭が残念なんですか?記憶力が残念なんですか?」


「私が馬鹿だって言いたいの?」


どっちにしろ頭が悪いのかという問に、奈義沙は眉をピク付かせる。奈義沙は奈義沙で、大人気なく一々言い返すからこうなるんだよ。


「良かったです言葉が通じて。会話すら儘ならなかったら、どうしようかと諦めが心配しましたー」


「良い度胸じゃない。表に出なさい!」


ああ、もう。本当に五月蝿い。耳を両手で塞いで終わるのを待つが、全く終わる気配がないので止めることにした。そうでもしないといつまでも朝食にありつけない。お腹空いたのに…………。


「いい加減にしてくれません?朝御飯食べたいんだけど」


奈義沙は瞬間、顔を紅野から背けると少し微笑んだ。


「私も調度行こうと思っていたの」


「何で俺と同じ時間…………」


紅野の言葉が気に障ったのだろう。紅野の脚を蹴った。奈義沙を睨み付けて反撃に出る紅野だったが、蹴ろうとした脚は空を切る。


口は出さなかったが、手ならぬ足を先に出した奈義沙は年齢を疑う。


「そうそう。今日は貴方達の実力テストをするから。覚悟なさいね」


何のテストだろう。こっちのことは、殆ど解らないから不安ではある。


「さっ、朝食にしましょう」


そう言って、優しげに笑った顔は始めてで驚いた。






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