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魔女の時計  作者:
6/12

城へ


次の日の朝。僕達は奈義沙に急かされて、首都マルアリへと向かった。最初は奈義沙が出ていたのだが、紅野とのあまりの仲の悪さに途中で真穂と交代した。


「本当に紅野さんは奈義沙と相性が悪いですね」


真穂が苦笑混じりに言う。


僕達は今、乗馬体験の真っ只中である。しかも初めての。おっかなびっくりで鞍に跨がったが、大人しくて賢い馬の様で、急に走ったりはしないし、なにもしなくてもゆっくり歩いてくれるのだ。実質上手綱は握っているだけなので、極めて楽で良い。


「真穂って馬に乗れたんだね」


「はい。意外でした?」


意外も何も、僕等がいた世界では移動手段は車や電車が主で、馬なんて一般的ではないし、見る機会すらほとんど無かった。だから当然馬の扱いの心得なんてあるわけもない訳で。


「あれでも奈義沙は気を遣ってるんですよ?ただ彼女は素直じゃないだけで。許してあげて下さい」


「…………あれの何処が気を遣ってるのさ」


紅野は奈義沙に散々馬鹿にされたのを根に持っている。紅野が馬鹿なのは事実だし、半分は仕方ないと思う。


「だいたい、何でわざわざ馬で移動なの!?移転魔法?使えば良いじゃん!」


半ギレで抗議する紅野に、心外だとばかりに乗っている馬が鼻をならす。


「移転した時に分かりませんでしたか?その場にちゃんと着いたとしても、それが同時とは限りません。もしも貴女達が私よりも先に着いてしまったら、守ることが出来なくなります」


「別に守ってくれなくても良い」


真穂が困った顔をして曖昧に微笑む。


「そうはいきません。今吸血鬼達は内戦状態ですから、いきなり現れたら正十字のスパイと間違われて襲われるのは、火を見るより明らかです」


優しく諭すように、けれども凛とした強い口調で言われ、少しの間考える。


「紅野。まだ信用しない方が良いね」


聴こえないように気を付けながら紅野に耳打ちした。


その時調度先頭の真穂が振り返り、僕の声が聴こえたのかとドキリとしたが、どうやらそうではないらしい。


「ちょっと星麗に変わります」


「お久し振りです!旅に退屈してませんか?」


突然の変わりように驚いて、僕も紅野も口をパクパクさせる。


「……いっ、いや」


「オーケー。退屈しているようだね!仕方無いからウチが色んなコトを教えてあげよう!さあ知りたいことはなんだい?どんどん質問を!」


いや、誰も退屈なんて言ってないから。


「…………。」


「…………。」


風の音がやけに大きく聴こえる。


「…………。」


「…………。」


無言が続く。紅野は星麗を冷めた目で見つめる。


「あーもう!何か言ってくれないとつ・ま・ん・な・い!」


つまんないってなんだよ。僕達は玩具じゃないんだけど。


「うわー!痛い!暴力反対!」


紅野もイラッとしたようで、星麗の頭を軽く殴った。その際スカッとしたのは口には出さない。そして真穂に謝罪した。


「なーんてね。ウチは痛くも痒くもない」


「どういう事?」


「それはねぇ~。知りたい?」


星麗が勿体ぶるように言って、ニヤリと笑う。


「単純なことだよ。この体は真穂のだってこと」


それはそうだろうけど、言っていることが今一理解できなくて首をかしげた。


「ウチは謂わば、意識だけの存在。つまりね。ウチや奈義沙を殺そうとしても殺せない。殺せるのは真穂だけ。アハハ」


それは可笑しい。例え意識だけの存在だろうと、元が死んでしまえば二人共死ぬ筈だ。だって元々は真穂なんだから。


「納得してない顔だね。詳しい事は言えない。奈義沙が良いって言うまではダメなんだよなぁー。で?他には?」


「な・い」


紅野が非情にも即答した。


「あーあ!何それ!つまんない!こんな小さい女の子を少しはかまってよぉー」


「……小さいの?」


見た目が真穂だから説得力に欠ける。


うん。紅野は星麗と相性が良いらしい。見てると和む。特に紅野は性格が良いのだと改めて思う。世話好きだから子供と相性が良いのかもしれないけど、多分本人は自覚してない。


「…………じゃあ首都マルアリに行って何をするの?」


「やっと聞いてくれた!買い物だよ!魔法道具を大量に買うの!」


なんだかんだで相手にしてあげる紅野は、やっぱり優しい。


「……魔法道具って何?」


「そんなのも知らないのかい?」


大人ぶった気取った顔で言う。その顔がちょっとイラッとする。


「えっ、じゃいい。説明しなくて」


「ヤダヤダ!魔法道具っていうのはね。色々な魔方陣を出してくれるアイテムだよ。魔法っていうのはねぇ、奈義沙程でなきゃ魔方陣を描かないと駄目なんだよ。あと供物ね」


って…………僕の家から移動する時、紅野は魔方陣を描かせられたらしいけど……。


「俺、あの時魔方陣なんか描かなくても良かったんじゃ」


「……そだね」


…………。


上手く利用された訳だ。


「それは違う!移動の場合は場所から場所でしょ?だから呉葉の家の場所を示す必要があったのよ!」


奈義沙がいきなり割り込んできて、必死に魔方陣の必要性を訴える。


「いくら私が魔方陣を出せるとはいえ…………」


「へぇ~」


「あっ………………。ほっ、ほら。血の魔方陣の方が力が強いのよ!」


墓穴を掘った奈義沙が、慌てて取り繕って弁明した。


「まぁ良いよ。高名な魔術師サマ」


紅野が鼻で嗤って皮肉を込めて言う。


「なっ――――」


「あーはいはい。奈義沙はのんびり昼寝でもしてなよ」


星麗が奈義沙を追い出し、「これでよし」と呟く。


「あと何か知りたいことは?」


「…………。」


「ほらほら、あるでしょ~?」


「無い」


紅野と二人で顔を見合わせる。無いよね、と言い合う。何も思い浮かばないのが本音だ。


「いや、ある筈だ!箒で空は飛べないの~?とか!杖とか使わないの~?とか!ね!?いっぱいあるでしょ!?」


「言われてみればそうだね」


それ以上言葉が続かない。結論。魔法とかに特別興味が無い。


「じゃあもう良いよ!自分のこと大声で喋り続けるから!」


「大声は止めて!」


紅野が慌てて止めにはいるが、言うことを素直に聞くような子供じゃなかった。


「星麗。12歳。AB型。2月5日生まれ!魔術師の国在住だけど、魔法は使えません!その代わりに短距離線が得意です」


「……どうでもいい情報アリガトウ」


「ムッ。どうでも良くないもん。献血の時とか役立つもん。因みにRH-のAB型だからよろしく」


RH-じゃあ珍しくて……献血するのは難しいだろうな。


「はーい」


元気に返事をした星麗。いきなりどうした。


「真穂様だ」

「ご機嫌よう。真穂様」


いつの間にか景色は森の中から街中へと変わっており、通り掛かった人が次々に挨拶をしてくる。


「ごめんなさいね皆さん。私は今城に急いでいるの」


ニコリと笑っているが有無を言わせない圧力。成る程。さっき星麗が返事をしたのは、真穂に対してだったみたいだ。替わった方が良いと判断したのだろう。


「それは失礼致しました」

「すみませんでした」

「では、また」


そう口々にして道を開けてくれるが、僕達二人を不審な目で見てくる。


「あの…………その者達は?」


街の住人らしき、一人の男が聞いてきた。思いっきり怪しんでいる顔だ。


「今はまだお教えできませんが、危害を加えることはありません」


そう言ってしまえば、その後は何も言ってこなかったが、納得していないのは明らかだった。


「術式がまだのようだが……」

「奈義沙様が付いているのだから大丈夫だろう」

「だがなぁ」

「いざというときは、私達が止めればいいのよ」


歓迎されていないのが良く解った。確かにこれじゃあ、僕等二人だけだったら危なかったな。


真穂はそんなの少しも気にした様子もなく、馬を先に進めていく。紅野も僕も居心地が悪く、視線を右往左往に泳がせた。


「呉葉さん!紅野さん!」


バッと真穂が振り返り、大声で名前を呼ばれて肩をビクリと大きく揺らす。


突如カアーカアーと、けたたましい烏の鳴き声がしてバタバタと慌ただしく烏が飛び立つ。周りにいた人達が挨拶もそこそこに、逃げる様にいなくなった。


「走って!」


言うと同時に紅野の乗っている馬の尻を鞭で叩き、僕の馬の手綱を掴んで走り出す。


「早く!」


我に返り馬の腹を軽く蹴って、自分でも走らせる。


あんなに賑やかだった商店街が、まるで嘘か幻だったかの様に静まってしまって、人気が一切無い。空も心なしか、暗い色になっている気がする。


「こんな急に……。兎に角早く!」


これ以上スピードは上げられない。


「城に入れれば大丈夫ですから!」


見えてきた白亜の城に安堵する。息も切れ切れに、高く聳え立つ城壁の内側に入った。


「もう大丈夫です。少しスピードを落としましょう」


敷地内には入ったものの、城はまだまだ先で長い道が続いている。


敷地の中から見た空は幾分か明るく見えた。


「早く城の中へ」


前方に見える城は純白に輝き、それはそれは美しい。美しいだけではなく、重々しく構えるその姿は上品であり、威厳に満ちている。


時間を随分と消費して着いた城は、近くで見るとより大きく壮大で、思わず口をあんぐり開けてしまった。それを見た真穂がフフっと笑って、なんだか急に恥ずかしくなる。


独りでに重厚な扉が開き、驚いていると真穂が横を通り過ぎた。


「ようこそ、我が城へ」


振り返りニコリと笑う。


「おっ、お邪魔します」


何を思ったのか、紅野が挨拶をして中に入る。


踏み入れたそこは、予想外にも殺風景だった。殺風景と謂えど流石に造りは豪奢で、内装も白を基調とし床は大理石で出来ている。細かい彫刻が施された柱が何本も立ち並び、ステンドグラスから華やかな光が射し込んでいる。


「取り敢えず部屋に案内なさい。くれぐれも無礼の無いように」


「はい、陛下」


近くにいたメイドさんが頭を下げて返事をする。


こうして僕達はメイドさんに付いていき、大広間を後にした。




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