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魔女の時計  作者:
3/12

転入生

 俺、こと紅野は呉葉と一緒に登校した。今日はやけに学校が騒がしい。


「何かあったの?」


俺はクラスの噂好きの女子に聞いてみた。


「転入生よ!っていうのもあるけど、何たって今日はバレンタインデー。そして席替え。最高でしょ!」


いやいや、全然最高じゃないよ!寧ろ最悪だ、席替えなんて。今、俺と呉葉は男子が二人多いことから、隣同士で毎日が楽しい。けど、席替えなんてしたら、呉葉と離れてしまう。それに、転入生が女子だったら呉葉の敵が増える。バレンタインデーなんてもっての他だ。


「最悪だね、呉葉」


そう言ったものの、俺の隣に呉葉はいなかった。

 辺りを見回すと、20メートル先のところに呉葉が埋もれていた。いや、正しく言うと呉葉“も”埋もれていた。女子達によって。

 仕方がないので、俺は笑顔で端からチョコを受け取ることにした。そうした方が効率良く、女子が離れると思ったからだ。

 やっとのことで抜け出し、呉葉の方へと向かう。一方呉葉はというと、女嫌いの癖して笑顔でいる。勿論造り笑顔だが。


「ごめんね。僕、甘い物苦手だから」


嘘付け。朝チョコレート、さんざん食べてたじゃん。受け取らないなら、笑顔なのか返してないで『ごめん。僕、女って大嫌いなんだよね』ぐらい言っちゃえば良いのに。


「あっ紅野。一緒に教室入ろう」


そう言ってニコッと笑う。少々機械的な美しい笑顔。


「だと思って迎えに来たの。やっぱり囲まれてるじゃん」

「うん。よくわからないけど、そうなっちゃったね」


そんな天然っぽいこと言ってると、また女子に狙われるよ。もう既に『呉葉様と紅野ちゃんのツーショットよ!』なんて言ってる奴もいるんだからね。何で俺だけ紅野ちゃんなわけ!?ちゃんって何!ちゃんって!!

 俺は無理に呉葉の袖を引っ張ると、教室に向かうべく周りの女子達に声をかける。


「ごめんね。俺達今日席替えで、早く教室に入らないと駄目だから。それに呉葉、特にチョコレート嫌いだから」

「それは残念だわ。しょうがない。迷惑掛けちゃ悪いから退散するわよ。さようなら。呉葉様、紅野様」


リーダー格らしき女子生徒が言うと、他の女子達も後を追う様にすぐに消えた。


「どうしたの、紅野。落ち込んでる?」

「まあね。席替えが嫌だ」

「……別に良いじゃん、毎朝一緒なんだし」


うっ。呉葉がそれで良いと思っている辺りが少し寂しい。


確か、席順はくじ引きだったな。良い番号だといいのだが。


俺達二人が教室に入ると、待ってましたとばかりに、早速くじを引かされる。俺は21番。呉葉は4番だった。


「さあさあ皆さんお待ちかね!席順発表でございます!!」


真面目というには程遠いクラス委員長が、黒板に紙を張り出した。


俺は窓側の1番前。呉葉は廊下側の後ろから2番目。呉葉の横が空いている。今日は1、2、3、4…………。全員居るから転入生が呉葉の隣。『よろしくー』『〇〇って呼んで!』等の会話が周りで行われている。


廊下と窓って、離れすぎだよ。


俺は呉葉の横顔を眺めた。


真っ直ぐに伸びた黒髪。茶も何も入っていない黒の中の黒。少し色白の肌。長い睫毛。優しい光をたたえた瞳。背も183㎝で高い。あれで美形じゃなかったら、世の中のブスは報われないよ。


「ほらお前等ー。席に着けー。転入生いるから紹介すっぞー」


担任の--呉葉曰くヒゲおじさん--がそう言うと一人の女子生徒が入って来た。黒板にさらさらと自分の名前を書く。


更科さらしな 真穂まほです」


そう言いニコリと微笑む。更科真穂さんか。稀に見ない美人だ。何処かの令嬢か何かだろうか。白い肌に、外国の血が入っているのか、青い目と栗色の亜麻色の髪をしている。


「更科さんはフランスとウクライナと日本のクオーターだ」

「何かとご迷惑を掛けてしまうと思いますが、よろしくお願いします」


フワッと優しく笑う。


「更科さんの席はあそこの空いてる席」


やっぱり呉葉の隣か。


呉葉本人はというと---


「更科です。よろしく」

「緋桜です」


言ってニコッと笑うものの、よろしくと言わない辺り、やっぱり嫌なんだ。


にしても、二人が並ぶと美形同士絵になるなぁ。絵になるってだけで、受け入れた訳じゃないけど。


教室が盛り上がっている。呉葉も美形だし、更科さん?あの人も美形だし、俺………………は騒がれている時点で、普通より少しいい感じ?最早先生の制止等聞いていない。


さっきから頭が痛い。早く帰りたいな。





それから、数日が過ぎた。


今だ呉葉はぼろを出して無いようだ。朝は毎日疲れたと言っている。


「紅野ぁ~。一緒に帰ろ?」

「ごめん。今日は俺、用事あるから。他を誘って」

「えー。紅野のくせに用事なんかあるの?全く。僕、友達少ないのに」

「…………くせにって何だよ」

「じゃあ、分かり易いように変換してあげる。紅野=馬鹿」


なっ!まあ、友達が少ないのは頷ける。自分では普通だと言うが、成績はトップクラスだし、読書家で物静かな人だ。運動もそこそこ出来る。でも、運動の方なら俺が勝てる。母親は離婚して、何処にいるかは知らないけど、社長として働いてお金を振り込んでいるらしい。


性格は……本心じゃないけどいや、作り物だけど………………良い人だ。極めつけに美形。普通の感覚だったら、近寄り難いよね。それに本人は気付いていないのだ。


「じゃあ、そういうことだから」


俺の用事も大した事じゃないのだが……。実を言うと、頭痛薬を買いに行くだけなのだ。転入生が来てから止まらない。



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