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魔女の時計  作者:
2/12

プロローグ 2

僕の目の前にあるのは紛れもなくチョコレートホンデュ。

「何で?」

「驚いた?今日は2月14日。一般的にはバレンタインデーだよ。」

そんなのは知っている。何で紅野がこんなもの作ったのか。

「ほら、呉葉は学校でたくさんチョコ貰うだろうから、俺のと一緒にしてほしくないの。」

「そもそも、紅野は男だよ?」

「気にしない。気にしない。友チョコって事で。」

意味が解らない。第一、僕にチョコを渡す奴はよっぽどの変わり者だ。

「呉葉は美形だもん。今日は囲まれるよ。」

「…………僕は平凡だけど……?」

何が美形だ。僕は至ってフツーの人間だ。

そう言ったとたん、紅野が目を全開まで見開き、僕の肩を掴んで前後にブンブンと揺する。頭がおかしくなるから止めてもらいたい。

「それ、本気で言ってる?!」

「うん。だって黒い髪に黒い目。可愛らしさも格好良くもない。平凡でしょ?」

僕の答えを聞くと見るからに残念そうに肩を落とす。

「それに僕、女って大嫌いだし。」

自分が顔をしかめているのが分かる。

「とりあえず、あれ食べようよ。」

テーブルの上に乗っている赤い鍋とフルーツ、マシュマロを指差す。

「ああ、うん。忘れてた。」

紅野は笑顔を取り戻すと食べ始めた。

「今日のこのチョコレート、すっごくこだわったんだよ!なんと、ベルギー産とスイス産。…………不味い?」

紅野が不安そうに覗き込む。こんなに続けて食べているのだから、不味いわけがないだろう。

「美味しいけど?」

「じゃあ、美味しそうな顔してよ。俺が得しない。」

美味しそうに食べれば得する?変なの。

「せめて笑顔で食べて。」

言われた通り完璧な笑顔を作る。

「心からの笑顔だよ。」

「…………………本心出せるの、紅野の前ぐらいだよ?」

僕は学校ではこんなんじゃない。演じるだけの操り人形(マリオネット)

紅野が何も言わないので、顔を覗き込んだ。

僕を美形だと言う前に自分の鏡をよく見ろ。紅野の方がよっぽど美形だ。だが、少々女顔だ。

薄く茶がかかった髪にくりくりの目。長い睫毛。

「俺の顔がどうかしたの?」

「別に。…………………………エプロンして三角巾してると女の子みたい。」

沈黙。ショックだったらしい。

「俺、小柄なの気にしてるのに!因みに言うと女顔も気にしてる!」

ん?そうだったけ?

「ねぇ、あと10分で家出るよ?」

それを聞いて、紅野が焦って片付けを始める。そしてエプロンと三角巾をとる早着替え。僕にとっては毎日見飽きた光景だ。

「ああ!」

「どうした?」

人の顔を見て驚くなんて失礼だ。僕に。

「呉葉、アホ毛立ってる。直して!」

「はいはい。」

相変わらず忙しい奴だな。僕の心配をしてないでさっさと支度しろ。

「紅野ー。あと2分ー。」

髪を整え、靴を履きながら声をかける。

ダダッと騒がしい足音と共に紅野が走ってくる。

「お持たせ。火、OK。電気、OK。ガス、OK。ストーブ、OK。大丈夫だね。あっ、呉葉マフラー変!」

「巻き方が?マフラー自体が?」

「もちろん前者。こっち向いて。俺が綺麗に直す。」

別に良いのに。僕は暖かければ何でも良い。僕は大人しく従った。

「………………………………しゃがんで。届かない。」

紅野の方が小さいせいで上目塚いつで僕を見る。

「別にこのままでも良いけど。」

「俺が嫌だ。」

はぁー?本当に自分本意な奴。

口では何とでも言えるけど、やっぱり気遣ってくれるのは嬉しい。



後で僕は知ることになるが本日、この美しい雪が降った寒い日。人生を変える日になってしまった。





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