プロローグ 1
ここは何処?
チッチッチッ
時計の音?
ボーンボーン
上も下も右も左も真っ白の世界
ねぇ、ねぇってば!
誰…………?
ここだよ 気づいてよ
見えない 何処にいるの?
久し振りだね 十一年振り?
僕は知らない 君は誰?
…………。
…………。
誰って――――――
★ ★ ★
「うわぁ!」
僕は布団を蹴って飛び起きた。
「夢……か。」
夢で良かった。少々怖い夢を見た。
真っ白な世界に見えない時計の音と誰かも解らない奴の声。
「いや………みえた。……っ痛。」
思い出せない。思い出そうとすると頭痛が邪魔をする。
「まぁ、思い出せないなら別に良いか。」
僕は学校に行くため制服に着替える。鏡に写っている僕は至って平凡。何もかもが平均的。
自分の部屋を出てリビングに向かう。誰も居ない。静かで落ち着く。
「呉葉ー。呉葉ー。呉葉ー。」
相変わらず五月蝿い。そう何度も呼ばなくても聴こえてる。
「何?まだ6時だけど?」
今はまだ朝の6時だ。ドアを開けようと玄関に向かうが――――
「勝手にお邪魔します。」
既に中に入っている。
「邪魔だって解ってんなら帰れ。」
「一応言っておいただけだから。毎日朝御飯作ってあげてるじゃん。」
「うっ………。」
こいつは一応友人。名前は………………馬鹿で良いか。
「今、俺の事馬鹿とか思ったでしょ。」
鋭い。
「だったらなんだ?事実だし良いだろ。」
「俺にはちゃんと藍島紅野って名前があるの!………ちょっと色的にあれだけどさ。」
藍色と紅色。正反対じゃないか。
「じゃあ、アイジマコウヤ君。朝御飯作ったらさっさと帰れ。」
僕は、馬鹿………名前を改め、紅野のフルネームを棒読みで言った。
「分かった。朝御飯を作って、食べたら学校に一緒に行こう。ヒオウ クレハ君。」
僕も人の事は言えないか。ヒオウは緋桜で桜だし。クレハは呉葉で葉っぱだし。つまりは僕の親も、紅野の親もネーミングセンスがない。
「で?今日は何を作ってくれるの?」
「秘密。」
そう言って紅野は悪戯っぽく笑った。僕的には嫌な予感しかしない。
「不味くなければ良いよ。」
紅野に限ってそれは無さそうだけど、もし不味かったら紅野に全部食べさせれば良い。
「僕は部屋に居るから、出来たら呼んで。」
紅野はいつも作っているものを完成させるまで人に見せたがらない。秘密にして相手の驚いた顔を見るのが好きらしい。
この前はコロッケが青かった。中身のジャガイモに着色料を入れたらしい。不味くはなかったから良いものを。見た目が悪い。
「呉葉 ー出来たー。」
ドアの前で大声出すな。だいたい人の家で大声出すな。
「今日は何?耳が痛い。」
「準備するのに時間がかかった。今日は期待してくれて良いよ。」
こいつがこんなことを言うんだ。絶対に変なものを作ったに違いない。
だが、いざリビングに下りるとテーブルの上は普通だった。
「今日のメニューはミネストローネにフランスパン。サラダ。と、至って簡単。」
「どこが簡単?」
ミネストローネなんてそんな早く作れるものなのか。何か怪しい。
「とりあえず早く食べよ?冷めたのなんて食べたくない。」
その一言で食べ始めたものの、次は何が出てきてしまうのか気になって気になって仕方がない。
紅野を盗み見るが普通に…………食べ終わっている。
「呉葉遅い。早く食べちゃて。」
紅野に急かされようやく食べ終えると紅野はキッチンに消えた。
人に早く食べさせておいて準備するなんて、自分本意な奴。
「お待たせー。」
紅野が笑顔で持ってきたのは赤い鍋。
「何、これ。」
「見たらわかるでしょ」
「チョコレートホンデュ?」
「そう、大正解。」