列車寮79レ あるいはEF58の93 安全な脱線と自動ブレーキと読み替え装置
「安全に暴進列車を線路から排除する、当たり前の話じゃない?」
「でも、乗ってる人は…」食い下がるはとに
「うん、だから安全に脱線させる。」
「はとちゃんもきっとみたことあるよ、そういう装置。
駅とかで、側線が本線に合流するところ、Y型では本線と合流しないよね。
Nみたいな形に分岐器の側位を2つ繋げたみたいに合流してるはずだよ。
で、本線に合流しない本位の先ってレールも錆ていて数十メートルくらいで途切れてる。」
「そういわれると、みたことはあるかもしれないですけど、でも、」
「窓の外を見てごらん。」
ホームを通過する駅名表には金山。
「ほら、」
先輩の指さす先は、砂利の山にうもれていく線路
「あんな感じで暴進する列車は本線に進入させず、正しく脱線させるんだよ。
脱線させると走行抵抗が高くなるから列車は停止する、と。」
一旦言葉を区切って先輩は、
「乗ってる人のことが気がかりなのはよくわかるんだけど、でもさ、
本線で別な車両と衝突されるよりはよほどましな結果になると思わない?。
全力で走って砂場へ飛び込む走り幅跳びと、全力で走っての正面衝突、どっちがケガしそうですか、ってことだよ。
もちろん、そんなことにならないように安全に運転する努力は大前提だよ。
それにたとえ脱線したとしても、たとえば台枠同士が乗り上げないような工夫をしたり、あるいは高い位置に運転台をおく事で、クラッシャブルゾーンを確保したり。
21M、22Mみたいな展望運転台、あれも無駄にあんなに長いノーズになっているわけじゃなくて、あのノーズのほとんどは緩衝材なんだよ。
けど、でも、それでもだめなときは、事故を大きくしないように、脱線してもらう。脱線させるならば事故のその後も予想出来るし、救護のために人を派遣する場所もわかるから。
感情で割り切れない部分は僕にもあるよ、もちろん。
たしかに言い方は過激だったかなぁ。けど、それでも本線上の事故よりは、」
「タエちゃん、はいお茶どうぞ。」
アイリス先輩が息抜きのタイミングを上手に挟んでくる。
「と、いうことで、非常時の制動は
”こんなこともあろうかと”でがんばってみる。
ダメなら脱線させてもらう。
って感じなのよ。
カーブとかで横倒しで脱線するよりは脱線ポイントで脱線させたほうが安全なのよ。
わたしも心情的には納得してないわ。でも、事故は起きる、それは前提で小さく抑えることは重要なのよ?」お茶をだしつつアイリス先輩がまとめる。
「アイリスありがと。で、常用ブレーキだけど、古典的には空気自動ブレーキだね。
三動弁とかはシースルーのアクリルモデルとかで実際の動作を見るのが一番わかりやすそうだし、そのうち授業で習うから、説明は省くよ。」
お茶になのか、アイリス先輩の助け船になのかどっちになのかわからないありがとうを口にして、しかし引きずり込むような前のめりの語り口で制動を語り続ける。
碓氷先輩の説明は続くけれど、キッチンに戻るアイリス先輩の
「タエちゃんは責任感が強いからね…」と呟く口元に、いつもの優しい笑みのかわりに、ちょっとだけ寂しさがあった。
うーん、やっぱり納得いかない。だって脱線させられる列車に乗ってる人は不幸だと思う。
でも、ブレーキの話になってからの碓氷先輩、ちょっと鬼気迫るものがあって、ちょっと怖い。
ピコちゃんもちょっと圧倒されていて、駒草先輩のほうをみる。目が合った駒草先輩はちょっと複雑な笑みを浮かべてピコちゃんのあたまをぽんぽんする。ピコちゃん的にはそれで納得したのか、いつのまにか確保していた道明寺のおかわりに手をつけた。
「要は、自動ブレーキ管の圧力が上がるとブレーキが緩んで、自動ブレーキ管の圧力が下がるとブレーキが締まるっていう動作が重要なんだ。
ブレーキが壊れたら、それって暴進列車そのものだからね。自動ブレーキ管から空気漏れしたら即ブレーキ作動。
そういう仕組みに作ってある。
簡単に言うと、ブレーキを緩めるために自動ブレーキ管に空気圧をかけるよね、そうするとその圧力はブレーキ空気溜めに溜まっていく。で、ブレーキをかけようと自動ブレーキ管の空気圧を下げると今度は空気溜めの圧力でブレーキがかかる。そういう仕組みを実現するのが三動弁。
もちろん、77系客車もこの自動ブレーキを装備してるよ。
でも、この自動ブレーキ、そんなに反応が早くはないんだよ。
さくら寮でも200m以上の長さの空気管だもの、片側から空気を抜いていっても反対側の端っこまで気圧が下がるには時間がかかるよね。
で、さくら寮もそうだけど、自動ブレーキ管の制御はそのまま残して、電気信号でもブレーキ操作ができるようにしてある。
具体的には、各車両に自動ブレーキ管から圧を抜く電磁弁と、ブレーキ空気溜めからブレーキシリンダーに圧力を掛ける電磁弁が追加されて、ブレーキ操作への反応性が上げてある。
電気信号で操作しているのはメインのブレーキシューだけではなくて、抑速ブレーキも制御していて、平常時や特に高速走行時はほとんどがこっちの抑速ブレーキがメインになってるんだよ。」
「自動ブレーキは重要保安部品として事実上実装必須だものね。」水沢先輩が補足する。
「法的な車両構造審査にパスするためには、たしかに自動ブレーキの鉄板感はあるよね。
それに自動ブレーキだけは貨車でも客車でも気動車でも電車でも共通だから、もしもの時の最後の希望、的なのもあるかな。もちろん速度制限とかは掛かるにしても、機関車で引いての甲種回送だけでもできるのはありがたいよ。
それから実績に基づく信頼性っていうのは重要だよ。
”保守的”というのは、こと人命が掛かっている時は恥ずかしいことではないよね。
さっきの安全に脱線させる、もそうだよ。本線に突入させてその場は良くてもどうなるかわからない状況なんて最悪だ。とにかく全力で予測できる範囲の事故に抑えこむ、これってとっても重要なことなんだぜ?
予測できない状態で運を天に任せてラッキーを期待するとかナンセンスだ、技術者の態度じゃない、おまえは他人の人生でギャンブルを打つ人でなしか。ってもんだ。」
妙高先輩はお茶に口を付けて
「ま、それはともかく、次は抑速ブレーキだね。
電車なら電動機をそのまま発電器として使って、架線に電気を返しちゃえばいい。
あるいは逆に電力を流し込んで積極的に列車の運動エネルギーに拮抗させてちゃってもいい。」
「うちら高鉄研と自治会のデハ657系は基本的に全速度域で電気ブレーキだね。電動機の制御で0km/hまで減速させてる。停車後のロックと非常ブレーキは自動ブレーキだけどね。電車寮はみんな電気ブレーキを装備しているし常用しているけど、一応遅れ込め制御付きで空電併用になってるね。」車両構造になると高速鉄道研の水沢先輩の知識量は圧倒的。
ピコちゃんの頭上にはてなマーク飛ぶのを駒種先輩が
「普通のブレーキで減速しちゃうと、電気ブレーキなら回収出来るエネルギーが少なくなっちゃううでしょ?だから先に電気ブレーキでエネルギーを回収しちゃうんだよ」
「なるほど。遅れて空気を込める ってことか。」
「架線に電力を返しちゃえばいい電車は簡単だけど、気動車はちょっと悩ましいよね。でも結論的には13Dはまゆり寮以外は電気式で、制動の回生エネルギーは架線に返すか蓄電池に溜めるかの違いでしかない。」碓氷先輩が続ける
「14Dおおぞら寮も電車寮と一緒で全速度域電気ブレーキだね。気動車寮も動力伝達が電気式なので電車寮とあんまり事情は変わらないんだよねー。」水沢先輩がちょっとつまんなそうに口をとがらせた。
「さくら寮以外の客車も基本的には電気式の抑速機構を持っていて、電源車の蓄電池に電力として回生してる。
キハ156系と77系客車は油圧として速度を回収してるのが他形式と大きく違うんだ。
156系は回収した油圧は次の加速の時に使うことで燃費を向上させている。
それとトルコンを繋げたままにしての燃料カット。いわゆるエンジンブレーキだね。これもエンジンの擦動抵抗分の燃料を節約できるので地味に燃費向上する。
油圧として回収したエネルギーを溜めておくにも、 蓄圧器の容量だって無限じゃないしね。
一方、77系は回収した油圧はハイドロニューマチックの動力として再利用してるんだ。
降坂路、カーブも多いし抑速も必要、って場面ではそれなりにエネルギー回収出来てるけど、直接油圧で回収しないで一旦電力で回収してもいいんじゃないかな、みたいなことは他の客車寮の設計・改造の技術者からは指摘されるみたいだね。実際、他の客車寮は電気式でうまくいってるからね。
やっぱりこの辺の、どれだけ速度を制動で回収出来るか、再利用できるかの観点からは、地上設備に回生電力を押しつけられる電車方式が圧倒的に有利になるかなぁ。」
ティーセットを片づけつつ、アイリス先輩が
「そうそう、自動ブレーキ、三動弁、それから鉄道事故の歴史の特に連結器関連のところ、国試の出題率100%だから、自習しておくといいわよ。」
うん、メモメモ。歴史は昔から苦手なんだけどなぁー試験にもでるのかぁ…
ピコちゃんの”えーっ、これ試験勉強だったんですかー!”に”ちょっとしたティーパーティーよ♪”とアイリス先輩が答えていた。
「と、ここまでさくら寮に限らず、いろんな制動機構を駆け足でなぞったけれど、車両形式が違えば反応速度も制動力も違う。同系列編成の気動車寮はそうでもないけど、機関車牽引の客車寮と、非電化区間で牽引中の電車寮はちょっと悩ましいよね。
そこでブレーキ信号読み替え装置が出てくるんだ。
基本動作はこう。
機関車の自動ブレーキ弁の圧力を測って、緩め、釣り合い、常用、非常に合わせて全編成の電磁弁に指示をだすだけ。
協調運転制御ジャンパが繋がっていれば、そっちの電磁直通ブレーキの指示に従うよ。
このあたりの装置は各編成それぞれ用の非電化区間用の電源車が用意されていて、そこに搭載されている。
抑速制動はKE70からしかできないけど、電車寮の抑速制動は電気式だからね、電源車のバッテリーにも限度があるし、結局のところ非電化区間での電車寮は140km/hくらいに規制されちゃうね。
客車列車は常時機関車牽引だからね、KE70が繋がっていればすべてのフはその信号を読み替えられるよ。そっから先は車体制御と一緒、合議、マスター決定、制御実施だね。
空気圧からの読み替えは機関車接続のフで行うけど、ほかのフも読み替えた指示と実際の空気圧のモニターはしてる。
もっとも、客車寮も電車寮も専用機のDH57なりEH87なりのときは、Control by wireだけどね。
半世紀前の車両とも運用できる、実際いまこの瞬間の79レもEF58牽引だけどさ、鉄道ってちょっとやりすぎだよね。」碓氷先輩は苦笑気味に笑うと話を続けた
たぶん、書き直し入ります。アイリスと妙高の伏線的なものがうまく書けない感じ。




