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列車寮79レ あるいはEF58の93 ちゃんと止まろう

脱線させることも、安全確保の一手段なんだよ。

「そんなわけで、僕の話をまとめると、どうやって線路に沿って走るか、っていう話なんだけどね。」

うわー、水沢先輩、乱暴にまとめてきたなー。

「そうそう、”沿って”よね。”従って”、じゃないのよねー」アイリス先輩が

”はとちゃんもどうぞ、”とかいいながら、さくらの花の塩漬けを去年のファーストフラッシュに浮かべたガラスのカップを目の前に置いてくれる。

淡いオレンジの水色のなか、淡桃色のさくらの花が一輪たゆたう。

碓氷先輩が「線路の方向をレールの中心線の接線として、それと平行であることをもって従うとすれば、”沿って”も”従って”もそんなに違わないようにも思えるけど、実際の敷設されたレールの中心線を引いてみたとしたら、…まぁ、」

「レールの継ぎ目とか、ですか?」月光くんはこの話題、かなり興味をもっているみたい。

「そう、それそれ、それもある。もちろん保線作業の単位はミリだし、新線工事でも設計図の通りに狂いなくレールを敷設する。けれどあらゆる工学には公差というものがある。」と土木研美乃坂組 (4レ みよし寮)組長(列車長)の美乃坂先輩が口を挟む。

「公差ってのは設計上考慮に入っている誤差のことだから、公差で発生する不具合は受け入れるのがルールだ。で、誤差ってのはランダム性を持っているから、レールの中心線は、うーん、誤解を恐れずに言えば、上下左右に、いやXYZ全部の軸方向で平行と回転で揺すられる、何の脈絡もなく。」うまく説明する語を選べなかったせいか碓氷先輩が頭をかいた。

「そんなランダムな揺れに”従って”走ったら車内はめちゃくちゃだ。最初にバネとダンパーの話はしたよね。サスペンションを使ってレールに”沿って”走るけど、完全には従わない。だってそのほうが安全だから。美乃坂さんも言っていた通りで”従って”走ったら機関車は線路を壊すよね。」

水沢先輩も「振り子機構だって、左右のレールの作る面に対して、車体の垂直線をわざと内傾させることで列車の性能を向上させる仕組みだしね。沿ってはいるけれど従ってはいないかな。」と続けた。

「そんな感じでここまでは速く走るための話だったけれど、目的地についたら今度は止まらなくきゃいけないんだけどさ」碓氷先輩が喋りたそうにしている

「それにいかに昨今の車両の仕組みがすごくたって、それでも速度には限界があるし、限界を超えれば事故にもなる。

登り坂があれば下り坂もあって、鉄道は走行抵抗が少ないので下り勾配で制動を掛けずにいればいとも簡単に限界速度を越えてしまうんだよ」

「やっぱり制動の話は重要だよねー。さくら寮はでも客車だし、気動車寮や電車寮よりは機構は少ないよね。」と水沢先輩。

「確かに気動車や電車ならば、基本戦略は”制動でエネルギーを回収しろ。回収したエネルギーは走行に使え”だからな。次の加速で大量にエネルギーを消費することがわかってるし、とにかく多くのエネルギーを回収する事に注力すればいいからな。そういった点ではポリシーもシンプルでで簡単だ。」と美乃坂先輩も口を挟む。

「通常のブレーキなら2人の言うとおりだ。

ただ制動には”非常制動”というのもあって、それは別だ。

とにかく止まる。どんな条件であっても600m以内に止まる。止まれるから水沢のいう各種高速走行機構で走行速度を上げられる。制動がプアな高速鉄道なんてのはないよ。

レールに従って方向を定め、ただただ高速に進む物体、

そういうのを僕らは”砲弾”と呼ぶんだよ。」

若干堅い声で一気に話した妙高先輩。

”アイリス、お茶、僕にもちょーだい””冷たいのがいいかしらね♪”

でもこの2人、なかよしさんすぎるなー、いいなー。

「まずは”とにかく止まる”非常ブレーキ、これは77系の場合、2系統ある。

通常の踏面ブレーキを非常圧で使うのと、鋳鉄製のブレーキシュー全体を電磁石にしてレールに吸つける電磁吸着ブレーキだ。

特に電磁吸着ブレーキの搭載をこそ、僕は評価する。

まぁ手前味噌だけど。

電磁吸着ブレーキのすごいところは、軸重に関わりなく常に確実にブレーキ力を得られることなんだ。だってレールそのもに電磁石でブレーキシューが吸付くのだからね、ブレーキ力は純粋に電磁石のコイルに流す電流で決まる。」

手前味噌、といったのは電磁吸着ブレーキの77系客車への導入、碓氷家主導によるものらしい。卒業生が車両の改良を寄付する文化がある交通学園、さくら寮も例外ではない。

「でも、電磁吸着ブレーキはあくまでも非常用なんだよね。たとえばこのブレーキで制動してるときって、鋳鉄でできたブレーキシューがチカラいっぱいレールに吸付いてるから、そんな状態で分岐器とか通過したら、分岐器か台車かどっちかを壊しちゃう。

でも制動するようなところってたいがいは駅の手前とかで分岐器がありがちなところだから、このブレーキを常用するのは無理なんだよね。

それとこのブレーキは、非常ブレーキではあるけれど、停電時は短時間しか動作しない。」

「それは困りませんか?」と月光くん

「だって、電磁石に電流を流さなければ電磁石は(レール)に吸付かないよね。もちろん、いろいろ考えればこのブレーキの電源はバッテリーしかあり得ない。あり得ないけれど、バッテリーが切れたらそれまでだよ。

もっとも、こいつでフル制動掛けて、しかもバッテリー切れになるまで暴進しちゃってるんなら、そりゃもうお手上げだ。むしろ安全に脱線させることを考えたほうが生存率が高くなるだろうね。」

「安全な脱線?」先輩の意外な言葉にずっと黙っていた はと も口をひらく

「そう、安全な脱線。 」


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