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邂逅

MMORPG『ワン・オブ・ロード』には多種多様な種族が存在する。当然プレイヤーキャラも膨大で、定番の人間種族や亜人のエルフ、ドワーフに始まり獣人系や虫人系、スプリガン等の妖精系にシルフ等の精霊種族、当然ゾンビ等のアンデッドもおり、果てはジャック・オ・ベアーみたいな変わり種も。どれも人型でしかプレイヤーキャラにできないが、目鼻立ちのチョイスもあるので、完全な同一キャラが異様に少ない。種族ごとに様々な補正も用意されている。この《種族》にもランクアップと言う物があり、グールならバンパイアロードに、サラマンダーならイフリートに、人間ならバルキリーに、育て方次第では全く別の物になることもできる。


『ワン・オブ・ロード』には種族と同じく膨大な数の職業がある。基本こそ五つしかないがそこから派生する職業は数えきれない。職業には三つの段階があり、それぞれ下位職(ロー)上位職(ハイ)最上位職(ハイエンド)と言う。基本でスキルの幅が広いロー、ローの範囲を絞り性能を上げたハイ、ハイからさらに特化させたハイエンド、といった所か。職は常時、メインジョブ一つサブジョブ四つまで装備できる。職ごとにある、体力○○%アップ等の補正が、メイン職は100%サブ職は30%発揮できる。ちなみに、常時装備できる数こそ合計五つだが、覚えられる職業数に制限はない。


このように種族と職業の組み合わせが無限大ともいえる『ワン・オブ・ロード』だが、この容量はひとえに元々VRのゲームとして開発されていたことに由来する。『ワン・オブ・ロード』はVR一般化の第一波として予定されていた。他の会社との交渉や時期の悪さの結果、VRから落とされてしまったが、となると感覚を再現するために使っていたプログラム等の不要な部分が多く空きになる。どーせならその部分使ってVRゲームに移り変わる前に一波起こそうと考えた会社が詰め込みまくって出来たのがこのゲームである。


余談ではあるが、種族と職の多さゆえにイロモノプレイヤーも多く存在する。トッププレイヤーの実に三分の一がそうだと言われれば、嫌でも納得できるだろう。激戦区の狩り場や人気のソロ狩り場に訪れれば、二メートルはあろうかというランスを一本ずつ片手に持ち突撃する妖精や、奇声を上げながら投擲武器を雨あられとばらまく人影や、鯨包丁を振り回すカボチャ頭など、実に様々な光景が見られるだろう。


賢治が後ろを振り向くと、逆光で良く見えないが女性らしきシルエットの人物が仰向けに寝ていた。


ん? と彼は首をかしげる。仰向けに寝ている……にしては光の当たり加減が可笑しい、普通仰向けに寝てて逆光は差さない。


怪訝な顔をする彼をよそに女性は言葉を続ける。


「ん~?なんかあんまり見ないスキル使ってるわね。ま、そんなことより! さっきの転移魔法を発動させたアイテム、私に譲ってくれない?」


はつらつとした声とジェスチャーの加わった言動で彼に要件を伝える女性。どうもかなりハイテンションなタイプの人物のようである。


女性が声をかけてきているが彼はかまわず思考に沈む。


(スキル、スキルと言ってたな。俺が使ってる? どれだ? と言うか、今の俺どうなってる?)

「ちょっと~、話聞いてる~? お姉さん怒っちゃうよ?」


なおも女性は言葉を続ける。だんだんと怒気がこもってきているが賢治は聞いておらず、周りをきょろきょろと見回している。


(あーそういうことか。最初のかかった、って言葉から考えてもこれが妥当か。つまり俺は今、落とし穴の壁面(・・)に立っている、と。んで当然、落とし穴の作成者は目の前の人物であるか。って、ん?)


そう、いま彼が立っているのは落とし穴の壁面である。森の中を走るのに使っていたパッシブスキル《確脚》が発動していて地面と平行に立てていたのだ。


「どうしても言葉返さない気? もう怒りました! もうお姉さん怒りましたからね! やっちゃえヘッジャー!」

「えっ、いやちょおま、うおおおおおおお!?」


女性の言葉と共に落とし穴の()が地響きを立てながら盛り上がる。賢治はそれに驚きながらも上に向かって走り出す。


(やばいやばいやばい!!そりゃぁそうだよなぁ、俺が部屋(マイキングダム)に行ってたのは30分より少し少ないくらい。その短時間でこんなでかい、横になった俺より余裕で幅が広い落とし穴作れるんだから、尋常な奴じゃねぇよなぁ!!)


賢治は考えながらも一目散に前へと走る。そしてそのまま


「ちょっ、こっち来ないでよ! キャア!?」

「うわっぷ」


まっすぐに走ったことで賢治の真上に立っていた女性ごと、倒れこみながら外へと脱出する。


「イタタタタ…。もう!邪魔!」

「ぐはっ」


女性と共に倒れ込んだ賢治はそのまま女性に蹴りあげられ、しばらく宙を舞った後地面にたたきつけられる。賢治はそこから何事もなかったように起き上がる


「で、何の話だって?」

「ちょ、筋力Dの私が蹴ったのになんともないの!?」

「そういう重要っぽい単語を言うのは後にしてくれないかな? 考えちゃうから。」


何が!? と騒ぐ女性に話を繰り返すよう促す。


「だーかーらー、さっき使ってたマジックアイテム私に頂戴?」

「良くわかった。嫌だ。」


あの指輪は賢治にとっての数少ない財産の一つである。そう簡単に渡せるわけが無い。


「もちろんタダとはいわないわ! ギブ&テイクは交渉の基本よね! 言ってしまっては何だけど、あなた、その指輪の価値分かってないでしょ?」

「え、この指輪ってそんな価値が高いもんなのか?」

「当たり前じゃない!転移魔法が付加(エンチャント)されててその大きさって素晴らしい一品なのよ!?」


指輪を見ながら疑問点を呟く賢治に反射的に答えを返す女性。マジックアイテムへのこだわりが感じられる。転移魔法と言えばこの世界では有名な中級魔法の一つであり、それを指輪程度の大きさのアイテムに付加(エンチャント)されているともなれば、それなりに高額な品となる。実際はこの指輪の転移先は賢治の部屋(マイキングダム)に固定されていて鍵としての役目が強い上に、賢治にしか使用権がないのでそこまで価値は高くないのだが。


わざわざ指輪の価値を教えてくれてる辺り、良い人かも! と若干テンションを上げながら賢治は話を続ける。


「あー、でもさ。見返りとかそういう話じゃないんだったり。他の物ならともかくこの指輪は譲れないな。」

「あら、そんなこと言っていいの? これでも私って結構すごい人なのよ? それなりの物は用意できるわよ? どう?」

「…もしかして、いや、もしかしなくても。アンタ、マジックアイテム好きな人だろう?」

「な、なんのことかしら? そ、それより指輪の話よ。」


なんだこの娘可愛い。質問に対してギクリと体を震わせながらあからさまに話題から逃げようとする女性に対して賢治はそんなことを思っていた。


(うーん、この人って良い人っぽいし、マジックアイテム好きみたいだし、どうだろうか。正直協力者を選り好み出来る状況じゃないし、ここがどこかもわからないし、頼んでみようか。)

「ああ、もう!! とにかくその指輪よ! くれるの、くれないの?!」

「…俺が指輪を渡したら、見返りに俺の要望をきいてくれるか?」

「その気になったのね! いいわよ、何でも聞いてあげる。あんまり下衆いこと言ったら力づくで奪っていくけど。」

「…わかった。じゃあ、お願いだ。」


賢治の真剣な雰囲気に女性は思わずつばを飲み込む。賢治もこれから言う言葉がこれからの自分にとっての大きな転機になるかもしれない、いやおそらくそうなるだろうという予感があるので緊張してしまう。


「俺の生活の面倒、みてくれないか?」

「…へ?」


これが、後に世界を揺るがす(物理的に)ことになる怪物―ケンジ カギヤマと魔道具(マジックアイテム)狂い―サーレリナ・ド・ラジールの最初の邂逅であり『最初』だと、まだ世界の人々は知る由もない。




長く開いてしまって申し訳ない。一週間に一話更新くらいはやりたいと思うのに、筆は進まないという。いやはやまったく情けない限りです。この作品は主人公チートでお気楽に進める予定です。シリアスも交じることはあると思いますが。これからもよろしくお願いします

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