3-(5)ユーリス
私が生まれたときから分かっていた…自分のやらなければならない事を。
だから父から知らされたときは納得できた。
私には宿命がある…それは『すべて』のバランスを保つこと。あの子と世界とのバランスを保つことが私の宿命。…それは永遠に終わらない宿命。
彼と出会ったのは私が5歳の時だった。父から自分の宿命を聞いてからも必死で宿命の力に耐えていた時、私と彼は出会った。
「今回はこの子が宿命を…」
彼は夜に私の部屋に来た、彼は誰にも内緒でここに来たと言った。
「あなたは、誰?」
「僕はユージア、破断神ユージア」
「ゆーじあ?」
そう、と言って彼は優しく頭を撫でてくれた。
「君の名前は?」
「…ユーリス」
「ユーリス…綺麗な名前だね」
それから毎日、私は彼と遊んだ。
「ユージア、早く早く!」
「そんなに慌てなくても大丈夫だよ」
…あの日もいつものように遊んだ。いつもと変わらない、平凡で楽しい日。
でもそんな日々は続かなかった。
それはいきなりだった。
目の前には割れた花瓶の欠片、ボロボロになった絨毯、叫ぶ使用人たち、そして自分を覆う紅い光…。
その瞬間、私が大好きな彼に抱きしめられ、気を失い、目が覚めたときにはもう…
…感情が無くなった…本当に一瞬のことだった、あの力は生まれた時から私を蝕んでいたのだ。
彼は
「絶対に君を守るから」
と言った…でも、無理よ…私の中はもう蝕んでいる、感情も何も思わない、ただの生きた人形…。
でも…あの子と出会って私は変わろうと思った。何も分からないあの子を守ろうと思った。
宿命だからではなく、親友として、私はあの子を守りたい、守らなくてはならない。
あの子と出会って、私は少し感情を戻すことができた。まだほんの少しだけど…これからも戻すことができるかもしれない。
そうすればいつか…いつか…昔の私に戻れるのだろうか…父に、母に甘えていた頃に、使用人とたくさん話したあの頃に、そして…ユージアと笑って遊んだあの頃に。
「戻れるよ、きっと」
「本当に?」
彼は言った、優しく私の頭を撫でながら。
「あぁ、たとえユーリスの力がバランスを崩してしまっても…僕が守ってあげる」
「本当?…約束ね、ユージア」
「約束だよ」
そう言って彼は笑った。
今でも怖い…あの子…ナオが魔界に来たとしても、私がバランスを崩してしまったら…そう考えると震えが止まらない。
「大丈夫?ユーリ」
本当は大丈夫じゃない…けど
「大丈夫だよナオ」
ついそう言ってしまう…彼女だけは傷つけたくないから。
「ユーリスも大変ですものね」
「それを絶望の魔女に言われたくない」
「…大丈夫だから」
私は少し震える声で言った。誰も気づいていない様だけど、やはり彼は分かってしまうか。
「ユーリスも疲れたようだし…僕とユーリスは部屋に戻りますね」
「あぁ、お疲れ」
「ユーリス、しっかり休んでね」
「ユージアには適わないよ」
「え、そうかい?」
私は頷いた。
「…昔からお前を見ていたからな」
口調が昔に戻ってる…やはり私と2人だけの時のユージアは私の知っているユージアなんだ。
「今のユーリスは、あの時のユーリスよりも僕が好きなユーリスに近くなっている…姫のおかげかな」
「ナオには…いろいろと助けてもらったし、宿命だからじゃなくて…自分から彼女を守りたい、そう思ったの」
部屋に入り、私はベットに座って静かに呟いた。でもその呟きを聞いたらしくユージアは口を開いた。
「いい事じゃないか」
その一言だけ。
私はユージアに抱きついた。
「私ね…今でも怖いの、でも、ユージアが守ってくれるから…そう思ってずっとがんばってこれたの、まだ昔のようには戻れないけれど…
……いつか、戻れたら一緒にお話をしたい、また遊びたいの!」
「ユーリス!?」
!?…自分でも驚いた…私は、笑っているのだ…昔のように…。
「ユーリス!君が戻れたら…約束の通りになろうね」
「…うん!」
私たちは抱き合った、お互いの熱を確かめるように…。
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